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ニート、モンスターを育てる

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 ダンジョンマスターの朝は早い。
 そんなナレーションがピッタリと合うくらい、今日の俺は朝早くから活動を始めた。
 本当はリゼルも誘ったんだが、
「はぁっ!? なんで私が朝っぱらからハヤトさんの為に働かないといけないんですか。パスです、パス」
 と完全拒否されてしまった。
 俺への感情がばれたからもう少し優しくなるかと思ったけど、俺の扱いは全く変わらない。
 むしろ、前よりも容赦がなくなった気さえしてくる。
 それでも、ミリィが眠そうな目を擦りながら一緒に行くと言い始めたので、俺はそれを断って一人でここまで来たという訳だ。
 流石に、あんな状態のミリィを連れ回すのはいただけない。
 彼女には、きちんと二度寝をして欲しいものだ。
 そんなどうでも良い事をつらつらと考えていると、いつの間にか目的地に辿り着いていた。
「ここに来たのは初めてだけど、こんなになってたのか」
 そこは、いつか使うと思って作っていた場所。
 二階層の中心に作った円形の大きな部屋だった。
 まるで闘技場のような形だが、使い道もまさしくそれだった。
 今の所、一階層を突破されてはいないが、これからはそうはいかないだろう。
 そうなった時に、この部屋でネールとアイシャに存分に戦ってもらう事になる。
 その為に整備をしているからか、他が割と使い込まれているにもかかわらずこの部屋だけは綺麗なままだった。
 まぁ、一階層の傷はほとんどアイシャが付けた物なんだが。
 ともかく、俺がこの部屋に来たのはとある事情からである。
 どうやら、その事情たちがやって来たみたいだ。
 部屋の入口、俺が入ってきた方とは反対の扉からゾロゾロと入ってくる我がダンジョンのモンスターたち。
 スライムとゴブリンを筆頭に、普段は畑仕事をしているコボルトたちまでやって来ていた。
 まぁ、俺が呼んだんだから当然なんだが。
 さて、ここでモンスターたちの内訳を見てみよう。
 コボルトは増えておらず10匹のままだが、ゴブリンは27匹に増えている。
 今は偵察に行っていてここには居ないが、動物系のモンスターも増えていないようだ。
 さらにスライムに至っては、なぜか40匹以上いる。
 どうやら、勝手に分裂して増えていったらしい。
 それにしても増え過ぎだろう、と思っている間にも俺の目の前で更に分裂を繰り返している。
 これなら、多少無駄遣いしても良いかも知れない。
 昨日手に入れたポイントを使って手に入れたスキル『魔物知識・初級』を使うチャンスだ。
 とりあえず用の済んだコボルトを畑に帰らせると、俺はゴブリンのうち三匹を呼びつける。
 ゴブリンの中でも体の大きい彼らにネールが片手間に作った武器を渡すと、彼らは恭しくそれらを受け取った。
 どうやら、主から貰った大事な賜り物って感じらしい。
 そんなにいい物じゃないぞ。
 ともかくちゃんと受け取ってくれた彼らには、これからゴブリン達のリーダー的存在になってもらう。
 どうやらゴブリンは、リーダーが居る事によって組織的に動くようになるらしい。
 一匹では強くないゴブリンも、数匹束ねればなかなか戦えるようになる。
 だから彼ら三匹には、これからはそれぞれ八匹のゴブリンを率いてもらう事にする。
 それから、リーダーに選ばれたゴブリンにチーム分けと訓練を命令すると、ゴブリンたちは三つのチームに分かれて部屋から出て行った。
 さて、残りは大量のスライムだ。
 ゴブリンたちと戯れている間にも、スライムの数は50匹ほどに増えていた。
 なんだか、増え方がちょっと気持ち悪い。
 と、スライムの中になんだか形の違う奴がちらほら見える。
「ちょっと、こっち来い」
 そいつらを呼びつけると、他のスライムが道を開けた。
 そうして俺の目の前には、四匹のスライムが並ぶ。
 まず目に付くのは、一番左に居る巨大なスライム。
 スマホで確認してみると、どうやら『スライムマザー』と言う種類らしい。
 その名の通り多くのスライムを生み出す母体のような役割で、他のスライムよりも少しだけ強いみたいだ。
 スライムの居るダンジョンには大抵一匹居て、普通のスライムの数倍の繁殖力を持っている。
 と言っている間にも、俺の目の前でスライムマザーから三匹のスライムが分裂していった。
 ちなみに、分裂したのは普通のスライムだった。
 次に、右端に居るスライム。
 コイツもスライムマザーに負けないくらいデカいが、それよりも目を惹くのはその形状だ。
 普通のスライムが、水滴のような丸い形をしているのに対して、このスライムは完全に四角い。
 まるで壁のようなそのスライムの種類は、その名もずばり『ウォールスライム』。
 どうやら、長い間アイシャの壊した壁代わりにしていたのが原因らしい。
 他のスライムに比べて表面は固く、それでいてその気になれば周囲の物を飲み込む事もできるようだ。
 コイツにはとりあえず、まだ壁の代わりをしておいてもらおう。
 いつまでも壁に穴を空けておくのも不安なので、さっさと壁の方へ行ってもらおう。
 ウォールスライムが部屋を出て行くのを見送った後、残った二匹のスライムを見やる。
 そいつらは、他の二匹に負けず劣らずおかしな姿をしていた。
『ナイトスライム』。
 スライムナイトではなく、ナイトスライムだ。
 人型の騎士のようなモンスターが乗っているのではなく、スライムが鎧を身に着けている。
 見た目はただの甲冑のようだが、その隙間からはスライムが零れそうになっている。
 どうやら、人間に擬態してるつもりのようだ。
 立っているだけでガチャガチャと音を立てていては、すぐにばれてしまうだろうけど。
 はっきり言って今までで一番おかしなスライムだ。
 こいつら、どう使えばいいんだよ。
 せめてキチッと鎧として立っていられれば、飾りに見せかけたトラップにくらいは使えるかもしれない。
 という訳で、とりあえずこの部屋の扉の両端に立っているように命じた。
 そうすると、ガチャガチャと音を立てて移動してそのまま動かなくなる。
「いや、静かにできるのかよ……」
 だったら、最初からやって欲しいものだ。
 さて、これでおかしなスライムの確認は終わった。
 後に残っているのは、普通のスライムたちだけだ。
 という訳で、これから俺はこいつらを使ってある実験を行おうと思う。
 うまくいけば、このダンジョンの戦力を効率よく増やせるはずだ。
 その為には、大量のスライムが犠牲になるだろうが。
 さて、では始めようか。
 俺は、目の前にいるスライムに手を伸ばした。
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