上 下
7 / 95

ニートと本日の戦利品

しおりを挟む
「ついでにお風呂に入れて、着替えもさせたわ」
 見違えたでしょ、と自分の事のように誇らしげに微笑むネールの後ろに恥ずかしそうに隠れてこっちを見ている女の子は、なんだか守ってあげたくなるような雰囲気を纏っていた。
 しかし、この子がさっきの女の子なのか。
 ついさっきまで、傷や汚れでよれよれだったから良く分からなかったけど、かなりレベルが高い。
 超絶美少女のネールには劣るけど、家庭的って言うか純真って言うか、なんとも男受けする容姿をしている。
 いわゆる、お嫁さんにしたい女の子ってやつだ。
 そして何より目を惹くのが、頭の獣耳だ。
 二次元でしかお目にかかった事のないケモ耳美少女が、今俺の目の前に居る。
「おお、感動のない人間なハヤトさんが、珍しく感動している」
 別に、感動くらいある。
 ただ表情に出にくいだけだ。
 ツッコミながらも、俺の視線は目の前の女の子に釘付けだった。
「……はぅ」
 そうやって見つめていると、女の子は怯えた表情でネールの後ろに完全に隠れてしまった。
「おや、嫌われましたね」
「……マジで止めてくれ」
 ショックで膝から崩れそうだ。
 あと、何かネールの視線が厳しい気がする。
「何か、あったのか?」
「別に。ただ、主様もそうなのかなって」
 ……そうって、なんだ?
「そう言えば、ハヤトさんの居た世界には獣人は居なかったから知らないんですね。この世界では、獣人の扱いは低いんですよ」
「迫害、されているのか?」
「迫害なんてもんじゃないわ。ほとんど家畜みたいな扱いをしている国だってあるくらいよ」
 ネールは憤りを隠そうともしないで吐き捨てる。
「見た目がちょっと違うからって、魔物と交配したとか堕落した人類とか、言いたい放題よ」
 本気で怒っているのか、聞いてもいないのに説明までしてくれる。
 分かったから、俺に殺気を向けるのをやめてくれ。
 しかしそうなると。
「君も、そんな扱いをされていたのか?」
「ッ⁉」
 話しかけると、ビクッと身体を震わせて固まってしまう。
 どうやら、そうだったらしい。
 だとすれば俺に怯えて当然だろう。
 今まで自分を迫害していた人間の、それも男なんだから。
「まぁ、それでなくてもハヤトさんって見た目暗くて怖いですからね」
 今、真剣な話をしてるから黙っていてくれないか。
 リゼルを睨むと、肩を竦めて口角を上げられた。
 それでも、俺の願いを聞き入れてくれたリゼルは後ろに下がる。
 それに視線で礼を言いながら、俺は女の子に視線を合わせるように屈み込んだ。
 そうすると、より近くで可愛い顔を見る事ができる。
 怯える女の子に、俺は慣れない笑顔を浮かべながら尋ねた。
「君、名前は?」
「……ミリィ、です」
 ぎこちない笑顔が功を奏したのか、ネールの後ろから少しだけ出てきてくれた。
 うん、良い名前だ。
「主様は、獣人差別とかしないの?」
「しない」
 ネールの質問に即答すると、なんだか意外そうな顔をされてしまった。
 だから、お前はいったい俺を何だと思ってるんだ。
 そんな俺の後ろにいつの間にかやって来ていたリゼルが援護射撃をしてくれる。
「ハヤトさんが差別なんてする訳ないですよ。ハヤトさんはどっちかっていうと被差別者ですから」
 どうやら、コイツは俺を貶す事しか頭にないらしい。
 もうリゼルに期待するのはやめよう。
「コイツの言ってる事はともかく、ここには君を虐める人間は誰も居ない。安心していい」
 俺の言葉を証明するように、リゼルとネールが深く頷く。
 そんな俺たち三人をしばらく眺めた後、ミリィはゆっくりとネールの後ろから出て来てくれた。
「ホントに、信用していいんです?」
「ああ、約束するよ」
 しっかりと頷いて、俺はミリィの頭を優しく撫でる。
 最初に触れる時にはビクッと怯えられたが、やがて安心したように俺の手に身を任せてきた。
 少しだけ調子に乗って耳を触ってみると、くすぐったそうに身を捩る。
 それでも撫でるのをやめようとすると擦り寄ってくるから、嫌がられてはいないみたいだ。
「まさか、ハヤトさんが女の子に懐かれるなんて……」
「ええ、意外ね」
 背後で二人がひそひそ話をしているけど、ミリィが可愛いから良しとしよう。
 と言うか、内緒話はせめて聞こえないようにしろよ。
「それでハヤトさん。この子はどうするおつもりですか?」
 気を取り直して、リゼルが俺に問いかけてくる。
 その言葉に、この場にいる全員の視線が俺に向いたのを感じる。
「私としては、ここで保護したいんだけど」
 よほどミリィの事が気に入ったのか、ネールは視線で俺に訴えかけてくる。
「私はハヤトさんの決定に従いますよ」
 リゼルは、俺の考えを尊重してくれるようだ。
 となると。
「ミリィは、どうしたい?」
 そう、大事なのはミリィの意思だ。
 彼女が帰りたいと言えば、安全な所まで送り届けるべきだろう。
「……私は、ここに残りたいです」
 俺の質問に俯いていたミリィは、やがて意を決したように俺を見つめ返してきた。
「ダメ、ですか?」
「まさか。君がそれで良いなら、俺は歓迎するよ」
 そう答えると、ミリィは花が咲いたような笑顔を浮かべる。
 そしてそのまま、思いっきり俺の胸に飛び込んできた。
「嬉しいですっ! ご主人様、大好きですっ‼」
 ちょっと待って。
 今、俺の事をなんて呼んだ?
「おやおや。年端もいかない女の子にご主人様と呼ばせるとは、いい感じにクズ野郎ですね」
「待ってくれ。俺が呼ばせた訳じゃない」
 そもそも、どうして突然ご主人様になるんだ?
「だって、私は今まで奴隷だったです。だから、アナタは私の新しいご主人様です!」
 質問してみても、返ってくるのはトンデモ理論だけ。
 正直、理解できないんだが。
「まぁまぁ。獣人とダンジョンマスター、迫害される人種同士仲良くしたらいいじゃないですか」
 えっ?
 ダンジョンマスターって迫害されてるのか?
「いや、普通に考えてくださいよ。何もない所に突然ダンジョンを作ってモンスターを放ち、あげく冒険者たちを屠るなんて悪以外の何物でもないでしょう」
 ……そう言われればそうか。
 だけど、だからってミリィが俺の奴隷になる説明にはならないぞ。
「いや、その説明をする気はないですし」
 そもそも、もうなってると思いますよ。
 そう言われて慌ててスマホを確認してみると、確かに奴隷の欄にミリィの名前が増えていた。
「どうせだから、ついでにステータスでも見たらどうですか?」
「恥ずかしいです……」
 そう言って頬を押さえながら照れてはいるけど、別に嫌がってはいないようだ。
 それなら、大丈夫か。
 ミリィのそんな様子を確認してから、俺はミリィのステータスを開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...