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第90話
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西森胡桃、高校二年生。
それが今回俺のターゲットとなる少女だ。
生徒会の書記として働く傍ら陸上部にも所属している彼女は、どうやら次世代のエースと呼ばれて期待されているらしい。
すらっと引き締まった体系に小麦色に焼けた肌が眩しく、笑うと時折りチラッと見える八重歯がとってもキュート。
そのうえ人懐っこい性格をしている彼女は、性別の壁を越えて男女ともに友人が多いようだ。
それは、今日初めて会った俺に対して熱心に仕事を教えてくれている姿からもよく分かる。
肩が触れてしまいそうなくらい近い距離からアレコレと教えてくれる彼女からは、俺に対する警戒心など微塵も感じられない。
これが前の世界だったら、きっとそんな彼女の態度に勘違いをしてしまう男子が大量発生していたことだろう。
しかし残念なことに、この世界では彼女の容姿はイマイチと評されてしまう。
友達として一緒に居るのは楽しいけど、恋愛対象として見ることはできない。
それがこの世界での、周囲からの彼女の評価だと言えるだろう。
そしてもちろん、その評価は俺には当てはまらない。
俺から見れば彼女は、クラスのアイドル級に可愛らしい女の子だ。
人懐っこい性格やちょっと変わった喋り方も相まって、小動物系の魅力を感じることができる。
もしこんな女の子が彼女だったら、きっと毎日が楽しくて仕方ないだろう。
「っと、マネージャーの仕事はこんなもんっすね。どうっすか? ちゃんと覚えられたっすか?」
なんてことをつらつらと考えていると、仕事の説明を終えた彼女がそう問いかけてくる。
「え? ああ、うん。たぶん大丈夫、だと思う……」
正直に言ってあまり説明を聞いていなかった俺は、誤魔化すように曖昧に答えることしかできない。
そんな俺の返事を聞いて、胡桃ちゃんは俺の顔をジト目で睨む。
「ホントに大丈夫っすかぁ? もしかして、話聞いてなかったとかじゃないっすよね?」
どうやら、俺が上の空だったことはもうバレてしまっているらしい。
こうなれば下手に誤魔化すよりも、素直に謝った方がいい。
そう判断した俺は、彼女に向けて小さく頭を下げる。
「ごめん。胡桃ちゃんの可愛い顔に見惚れてて、あんまり話を聞いてなかった」
「むぅ、そんな見え透いた嘘で私は誤魔化されないっすよ。私が可愛いだなんて、そんな訳ないじゃないっすか」
「いやいや、胡桃ちゃんはとっても可愛いよ。少なくとも俺は、胡桃ちゃんみたいな女の子は魅力的だと思う」
「はいはい、ありがとうっす。それじゃ、もう一回だけ説明してあげるっすから、今度はちゃんと聞いて覚えるっすよ」
どうやら俺の言葉を全く信じてくれていないみたいで、素っ気なく答えた胡桃ちゃんはもう一度マネージャーの仕事について説明を始める。
「嘘じゃないんだけどなぁ……」
とは言え、このままではどれだけ言っても信じてもらえそうにない。
それに、胡桃ちゃんに何度も仕事の説明をさせてしまうのも可哀想だ。
ともかくまずはマネージャーとしての仕事を覚えるために、俺は彼女の説明に真剣に耳を傾けるのだった。
────
「はい。以上で、陸上部マネージャーの仕事は全部っす。今度こそ、ちゃんと覚えたっすか?」
「うん、もちろん。胡桃ちゃんの説明が分かりやすかったから、おかげでばっちり覚えたよ」
流石に二度目ともなれば彼女の説明も手慣れていて、俺はすんなりと仕事を理解することができた。
「へへっ、それなら良かったっす。もし後でなにか分からないことがあったりしたら、遠慮なく聞いてほしいっす」
「分かった。その時は、真っ先に胡桃ちゃんを頼ることにするよ」
俺に褒められて嬉しそうに笑う彼女に、思わず俺の頬も緩んでしまう。
なんだかほのぼのとした空気が流れ始めたところで、胡桃ちゃんはふと壁に掛けてある時計へと視線を向けた。
「ありゃ、もうこんな時間っすか。これは、今日は練習できなさそうっすねぇ」
彼女につられて俺も時計を見ると、確かにそろそろ部活動も終了する時間が近かった。
「ごめんね、俺のせいで。二度も同じことを説明させちゃったから、無駄に時間を使わせちゃって」
「いやいや、気にしないで大丈夫っす。もともと今日の練習は軽く済ませるつもりだったっすから」
なんだか申し訳なくなった俺が頭を下げると、胡桃ちゃんは気にした様子もなく軽く答える。
「……それにその分だけ長瀬くんと一緒に居られたから、むしろラッキーだったっすね」
「え? 今なんて……?」
「なっ、なんでもないっすよ! 気にしないで欲しいっす!」
彼女の言葉を思わず聞き返すと、胡桃ちゃんは慌てた様子で俺の言葉を遮る。
「あー、そんなことより! これからどうしよっかなぁ。帰るにはまだ早いっすし、かと言って今から練習に参加するのも中途半端っすね。うーん、どうやって時間を潰すのが良いっすかね?」
明後日の方向を見ながら、誤魔化すように早口で喋る胡桃ちゃん。
そんな彼女の様子を微笑ましく感じると同時に、もしかしてこれはチャンスかもしれないと思い至る。
悪戯っぽい考えが頭に浮かんだ俺は、相変わらずブツブツとひとりで喋っている彼女に声を掛ける。
「ねぇ、だったらちょっと試してみたいことがあるんだけど、付き合ってくれないかな?」
「試してみたいこと? って、なにっすか?」
いきなりの俺からの提案に、胡桃ちゃんは不思議そうな表情を浮かべながら小さく首を傾げた。
それが今回俺のターゲットとなる少女だ。
生徒会の書記として働く傍ら陸上部にも所属している彼女は、どうやら次世代のエースと呼ばれて期待されているらしい。
すらっと引き締まった体系に小麦色に焼けた肌が眩しく、笑うと時折りチラッと見える八重歯がとってもキュート。
そのうえ人懐っこい性格をしている彼女は、性別の壁を越えて男女ともに友人が多いようだ。
それは、今日初めて会った俺に対して熱心に仕事を教えてくれている姿からもよく分かる。
肩が触れてしまいそうなくらい近い距離からアレコレと教えてくれる彼女からは、俺に対する警戒心など微塵も感じられない。
これが前の世界だったら、きっとそんな彼女の態度に勘違いをしてしまう男子が大量発生していたことだろう。
しかし残念なことに、この世界では彼女の容姿はイマイチと評されてしまう。
友達として一緒に居るのは楽しいけど、恋愛対象として見ることはできない。
それがこの世界での、周囲からの彼女の評価だと言えるだろう。
そしてもちろん、その評価は俺には当てはまらない。
俺から見れば彼女は、クラスのアイドル級に可愛らしい女の子だ。
人懐っこい性格やちょっと変わった喋り方も相まって、小動物系の魅力を感じることができる。
もしこんな女の子が彼女だったら、きっと毎日が楽しくて仕方ないだろう。
「っと、マネージャーの仕事はこんなもんっすね。どうっすか? ちゃんと覚えられたっすか?」
なんてことをつらつらと考えていると、仕事の説明を終えた彼女がそう問いかけてくる。
「え? ああ、うん。たぶん大丈夫、だと思う……」
正直に言ってあまり説明を聞いていなかった俺は、誤魔化すように曖昧に答えることしかできない。
そんな俺の返事を聞いて、胡桃ちゃんは俺の顔をジト目で睨む。
「ホントに大丈夫っすかぁ? もしかして、話聞いてなかったとかじゃないっすよね?」
どうやら、俺が上の空だったことはもうバレてしまっているらしい。
こうなれば下手に誤魔化すよりも、素直に謝った方がいい。
そう判断した俺は、彼女に向けて小さく頭を下げる。
「ごめん。胡桃ちゃんの可愛い顔に見惚れてて、あんまり話を聞いてなかった」
「むぅ、そんな見え透いた嘘で私は誤魔化されないっすよ。私が可愛いだなんて、そんな訳ないじゃないっすか」
「いやいや、胡桃ちゃんはとっても可愛いよ。少なくとも俺は、胡桃ちゃんみたいな女の子は魅力的だと思う」
「はいはい、ありがとうっす。それじゃ、もう一回だけ説明してあげるっすから、今度はちゃんと聞いて覚えるっすよ」
どうやら俺の言葉を全く信じてくれていないみたいで、素っ気なく答えた胡桃ちゃんはもう一度マネージャーの仕事について説明を始める。
「嘘じゃないんだけどなぁ……」
とは言え、このままではどれだけ言っても信じてもらえそうにない。
それに、胡桃ちゃんに何度も仕事の説明をさせてしまうのも可哀想だ。
ともかくまずはマネージャーとしての仕事を覚えるために、俺は彼女の説明に真剣に耳を傾けるのだった。
────
「はい。以上で、陸上部マネージャーの仕事は全部っす。今度こそ、ちゃんと覚えたっすか?」
「うん、もちろん。胡桃ちゃんの説明が分かりやすかったから、おかげでばっちり覚えたよ」
流石に二度目ともなれば彼女の説明も手慣れていて、俺はすんなりと仕事を理解することができた。
「へへっ、それなら良かったっす。もし後でなにか分からないことがあったりしたら、遠慮なく聞いてほしいっす」
「分かった。その時は、真っ先に胡桃ちゃんを頼ることにするよ」
俺に褒められて嬉しそうに笑う彼女に、思わず俺の頬も緩んでしまう。
なんだかほのぼのとした空気が流れ始めたところで、胡桃ちゃんはふと壁に掛けてある時計へと視線を向けた。
「ありゃ、もうこんな時間っすか。これは、今日は練習できなさそうっすねぇ」
彼女につられて俺も時計を見ると、確かにそろそろ部活動も終了する時間が近かった。
「ごめんね、俺のせいで。二度も同じことを説明させちゃったから、無駄に時間を使わせちゃって」
「いやいや、気にしないで大丈夫っす。もともと今日の練習は軽く済ませるつもりだったっすから」
なんだか申し訳なくなった俺が頭を下げると、胡桃ちゃんは気にした様子もなく軽く答える。
「……それにその分だけ長瀬くんと一緒に居られたから、むしろラッキーだったっすね」
「え? 今なんて……?」
「なっ、なんでもないっすよ! 気にしないで欲しいっす!」
彼女の言葉を思わず聞き返すと、胡桃ちゃんは慌てた様子で俺の言葉を遮る。
「あー、そんなことより! これからどうしよっかなぁ。帰るにはまだ早いっすし、かと言って今から練習に参加するのも中途半端っすね。うーん、どうやって時間を潰すのが良いっすかね?」
明後日の方向を見ながら、誤魔化すように早口で喋る胡桃ちゃん。
そんな彼女の様子を微笑ましく感じると同時に、もしかしてこれはチャンスかもしれないと思い至る。
悪戯っぽい考えが頭に浮かんだ俺は、相変わらずブツブツとひとりで喋っている彼女に声を掛ける。
「ねぇ、だったらちょっと試してみたいことがあるんだけど、付き合ってくれないかな?」
「試してみたいこと? って、なにっすか?」
いきなりの俺からの提案に、胡桃ちゃんは不思議そうな表情を浮かべながら小さく首を傾げた。
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