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第85話
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晶と再会して心も身体も通じ合った次の日の朝、いつものように登校するため玄関の扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
「よっ! おはよう」
女子の制服に身を包んだ晶は、俺の顔を見ると片手を軽く上げて声を掛けてくる。
「お前、なにやってるんだ?」
「なにって、決まってるだろ。一緒に学校へ行こうと思って、待ってたんだよ」
俺の質問に当たり前のように答える彼女を見て、思わず眉をひそめてしまう。
「いや、お前って不登校なんじゃなかったか?」
「ん? ああ、そのことか。まぁ、不登校は今日でおしまいってことで」
まるで他人事のように軽い調子で答える晶に、俺は思わずため息を吐く。
「はぁ……。まぁ、お前がそれでいいなら俺はもうなにも言わないよ。そんな事より、さっさと学校に行こうぜ」
考えるのを止めた俺がそう言いながら歩き出すと、嬉しそうに笑顔を浮かべた晶は跳ねるように俺の後を追ってくる。
そのまま俺の腕を抱きしめるようにして密着してきた彼女にまた小さくため息を吐きながら、俺たちはまっすぐ学校へと向かうのだった。
────
「それじゃ、オレはこれから保健室に行ってくるわ」
「保健室? もしかして、久しぶりの登校でもう体調が悪くなったのか?」
「違うわいっ! 流石のオレでも、いきなり教室で授業を受ける度胸はないっての。勉強だってクラスメイトより遅れてるし、まずはその遅れを取り戻さないとな。だからしばらくは、保健室登校ってやつだ」
俺の軽口に笑顔で軽口を返しながら、晶は俺に手を振って廊下を歩いていく。
「じゃあな! また放課後、一緒に下校しようぜ!」
「分かったよ。授業が終わったら迎えに行くから、ちゃんんと保健室で待ってろよ」
そんな彼女に手を振り返しながら見送ると、俺も自分の教室へと向かう。
いつも通り女子からの熱い視線や黄色い声を楽しみながら廊下を歩いていると、なぜか今日は微かな違和感があった。
いつもの視線に混ざるように、なんだかいつもとは違う視線を感じる気がする。
その視線の正体を確かめるために振り返ろうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
「おはよっ、悠太くん!」
ポンッと俺の肩を叩きながら挨拶してきた薫ちゃんに、俺は思わず笑顔を浮かべてしまう。
「おはよう、薫ちゃん。今日も可愛いね」
「ぅえっ!? あ、ありがとぅっ……」
ただ挨拶しただけなのに、薫ちゃんは一瞬で顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
あいかわらずのチョロさに少し心配になりながらも、それがきっと彼女の魅力を引き立てているのだろう。
いつも通りの可愛い薫ちゃんの反応を楽しんでいると、なにかを思い出したように彼女の視線が微かに厳しくなる。
「そう言えば、さっきまでなんだか楽しそうだったね」
「ん? なんのこと?」
薫ちゃんがいきなりなんのことを言い出したのか分からず首を傾げると、彼女はぷくっと頬を膨らませる。
「さっき、知らない女の子と一緒に歩いてたよね。しかも、なんだか仲良さそうにおしゃべりしてたし」
その言葉を聞いて、俺はやっと彼女の言いたいことを理解した。
同時に、そんな程度のことで嫉妬してしまう薫ちゃんのことがとても愛おしくなって、思わず朝っぱらから抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
そんな衝動とともに動き始めた両手をなんとか抑えると、変なポーズで固まってしまった俺をみて彼女は不思議そうな表情を浮かべた。
そうやって流れてしまった変な雰囲気を打ち破るため、俺は少し強引に話を変える。
「えっと、さっき一緒だった子のことだよね。あれは幼馴染みなんだよ」
「幼馴染み? 悠太くん、この学校に幼馴染みなんて居たんだ」
「まぁね。ずっと不登校だったんだけど、久しぶりに学校に行くって言うから一緒に登校したんだよ」
そこまで答えると、薫ちゃんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そう、だったんだ。……ごめんね、変なことを聞いちゃって」
「いやいや、別に気にしなくても大丈夫だよ。それよりこっちこそ、誤解させてごめんね」
「ううん、それこそ気にしないで! 私が勝手に勘違いしちゃっただけだから!」
そうやって廊下の真ん中で二人とも謝り合っていると、当然のように周りの注目を集めてしまう。
その視線に気付いた俺は、まだ申し訳なさそうにしている薫ちゃんの手をとって歩き出す。
「とりあえず、教室に行こうか。このままじゃ、悪目立ちしちゃうし」
「あっ……! うん、そうだね!」
俺の言葉でやっと自分が注目されていることに気付いた薫ちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤らめながら頷く。
そのまま二人で廊下を歩き始めると、またおかしな視線を感じる気がした。
「うーん……?」
「悠太くん? どうかしたの?」
「いや、なんだか視線を感じるような気がしてさ。チラチラ見られるのはいつものことだから気にしないんだけど、今日のはちょっと違うような気がするんだよね」
言いながら軽く周囲を見渡してみても、そこに居るのはいつも通り俺を盗み見ている女の子しかいない。
いや、なんだか今日はいつもより見られている気がするけど……。
「もしかして、私と手を繋いで歩いてるからかな? だとしたら、ごめんね」
「いや、それならそれでいいんだよ。むしろ、俺と薫ちゃんの仲をもっと見せつけちゃおっか」
そうやって話している間に、妙な視線は感じなくなってしまう。
だったらこれ以上気にしてもしょうがないし、もしかしたら全部オレの自意識過剰な勘違いだったのかもしれない。
そう判断した俺は、からかうようにそう言いながら彼女の身体を抱き寄せる。
「ひゃあっ! ゆ、悠太くんっ!?」
顔を真っ赤にして慌てる薫ちゃんの反応を楽しみながら、俺たちはそのまま教室へと歩いていく。
もちろん、教室に入った瞬間クラスメイト達から驚いたように凝視されたのは言うまでもないだろう。
「よっ! おはよう」
女子の制服に身を包んだ晶は、俺の顔を見ると片手を軽く上げて声を掛けてくる。
「お前、なにやってるんだ?」
「なにって、決まってるだろ。一緒に学校へ行こうと思って、待ってたんだよ」
俺の質問に当たり前のように答える彼女を見て、思わず眉をひそめてしまう。
「いや、お前って不登校なんじゃなかったか?」
「ん? ああ、そのことか。まぁ、不登校は今日でおしまいってことで」
まるで他人事のように軽い調子で答える晶に、俺は思わずため息を吐く。
「はぁ……。まぁ、お前がそれでいいなら俺はもうなにも言わないよ。そんな事より、さっさと学校に行こうぜ」
考えるのを止めた俺がそう言いながら歩き出すと、嬉しそうに笑顔を浮かべた晶は跳ねるように俺の後を追ってくる。
そのまま俺の腕を抱きしめるようにして密着してきた彼女にまた小さくため息を吐きながら、俺たちはまっすぐ学校へと向かうのだった。
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「それじゃ、オレはこれから保健室に行ってくるわ」
「保健室? もしかして、久しぶりの登校でもう体調が悪くなったのか?」
「違うわいっ! 流石のオレでも、いきなり教室で授業を受ける度胸はないっての。勉強だってクラスメイトより遅れてるし、まずはその遅れを取り戻さないとな。だからしばらくは、保健室登校ってやつだ」
俺の軽口に笑顔で軽口を返しながら、晶は俺に手を振って廊下を歩いていく。
「じゃあな! また放課後、一緒に下校しようぜ!」
「分かったよ。授業が終わったら迎えに行くから、ちゃんんと保健室で待ってろよ」
そんな彼女に手を振り返しながら見送ると、俺も自分の教室へと向かう。
いつも通り女子からの熱い視線や黄色い声を楽しみながら廊下を歩いていると、なぜか今日は微かな違和感があった。
いつもの視線に混ざるように、なんだかいつもとは違う視線を感じる気がする。
その視線の正体を確かめるために振り返ろうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
「おはよっ、悠太くん!」
ポンッと俺の肩を叩きながら挨拶してきた薫ちゃんに、俺は思わず笑顔を浮かべてしまう。
「おはよう、薫ちゃん。今日も可愛いね」
「ぅえっ!? あ、ありがとぅっ……」
ただ挨拶しただけなのに、薫ちゃんは一瞬で顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。
あいかわらずのチョロさに少し心配になりながらも、それがきっと彼女の魅力を引き立てているのだろう。
いつも通りの可愛い薫ちゃんの反応を楽しんでいると、なにかを思い出したように彼女の視線が微かに厳しくなる。
「そう言えば、さっきまでなんだか楽しそうだったね」
「ん? なんのこと?」
薫ちゃんがいきなりなんのことを言い出したのか分からず首を傾げると、彼女はぷくっと頬を膨らませる。
「さっき、知らない女の子と一緒に歩いてたよね。しかも、なんだか仲良さそうにおしゃべりしてたし」
その言葉を聞いて、俺はやっと彼女の言いたいことを理解した。
同時に、そんな程度のことで嫉妬してしまう薫ちゃんのことがとても愛おしくなって、思わず朝っぱらから抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
そんな衝動とともに動き始めた両手をなんとか抑えると、変なポーズで固まってしまった俺をみて彼女は不思議そうな表情を浮かべた。
そうやって流れてしまった変な雰囲気を打ち破るため、俺は少し強引に話を変える。
「えっと、さっき一緒だった子のことだよね。あれは幼馴染みなんだよ」
「幼馴染み? 悠太くん、この学校に幼馴染みなんて居たんだ」
「まぁね。ずっと不登校だったんだけど、久しぶりに学校に行くって言うから一緒に登校したんだよ」
そこまで答えると、薫ちゃんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そう、だったんだ。……ごめんね、変なことを聞いちゃって」
「いやいや、別に気にしなくても大丈夫だよ。それよりこっちこそ、誤解させてごめんね」
「ううん、それこそ気にしないで! 私が勝手に勘違いしちゃっただけだから!」
そうやって廊下の真ん中で二人とも謝り合っていると、当然のように周りの注目を集めてしまう。
その視線に気付いた俺は、まだ申し訳なさそうにしている薫ちゃんの手をとって歩き出す。
「とりあえず、教室に行こうか。このままじゃ、悪目立ちしちゃうし」
「あっ……! うん、そうだね!」
俺の言葉でやっと自分が注目されていることに気付いた薫ちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤らめながら頷く。
そのまま二人で廊下を歩き始めると、またおかしな視線を感じる気がした。
「うーん……?」
「悠太くん? どうかしたの?」
「いや、なんだか視線を感じるような気がしてさ。チラチラ見られるのはいつものことだから気にしないんだけど、今日のはちょっと違うような気がするんだよね」
言いながら軽く周囲を見渡してみても、そこに居るのはいつも通り俺を盗み見ている女の子しかいない。
いや、なんだか今日はいつもより見られている気がするけど……。
「もしかして、私と手を繋いで歩いてるからかな? だとしたら、ごめんね」
「いや、それならそれでいいんだよ。むしろ、俺と薫ちゃんの仲をもっと見せつけちゃおっか」
そうやって話している間に、妙な視線は感じなくなってしまう。
だったらこれ以上気にしてもしょうがないし、もしかしたら全部オレの自意識過剰な勘違いだったのかもしれない。
そう判断した俺は、からかうようにそう言いながら彼女の身体を抱き寄せる。
「ひゃあっ! ゆ、悠太くんっ!?」
顔を真っ赤にして慌てる薫ちゃんの反応を楽しみながら、俺たちはそのまま教室へと歩いていく。
もちろん、教室に入った瞬間クラスメイト達から驚いたように凝視されたのは言うまでもないだろう。
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