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第83話
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気が付くと俺は、いつもの教室に居た。
がやがやと騒がしい教室を見渡せば、カーストトップのグループの中で薫ちゃんが楽しそうに会話をしていた。
すでに見慣れてしまったその光景が示す通り、ここはいつもの夢の中だ。
そんな喧騒の中で、俺は誰からも注目されることなくひっそりと教室の隅に座っている。
と、そんな俺に近づいてくる影があった。
「よぉ、長瀬。調子はどうだ?」
「さっきまでは最高の気分だったさ。誰かさんがこんな悪夢を見せなければ、ずっと最高だったんだけどな」
「ははっ、そう言うなって。これが最後なんだから、ちょっとくらいは大目に見てくれよ」
俺の言葉に軽口を返す小笠原だったけど、その言葉に少し引っかかる。
「最後? それって、どういう意味だよ?」
「どういう意味って、そのまま言葉通りだよ。お前がこの夢を見るのもこれで最後だし、男の俺がお前とこうやって喋るのも、今回で終わりだ」
まるで別れを告げるような言葉に、だけどその口調に寂しそうな空気は全くなかった。
むしろ清々しそうな雰囲気すらまとった小笠原は、俺の疑問に満面の笑みを浮かべる。
「そりゃあ、寂しくなんてないさ。そっちの世界の俺がようやくお前と再会できたんだからな」
その言葉で頭に浮かぶのは、目の前の男とどこか似ている一人の少女の姿。
さっきまで身体を重ねて愛を伝え合っていた彼女の姿を思い出していると、小笠原は少し照れくさそうに笑う。
「まさか俺も、お前相手にあそこまで乱れちまうとは思わなかったよ。……いや、お前相手だからかもな」
冗談交じりにそう言って笑った小笠原は、ふとその表情を真剣なものへと変える。
「それじゃ、マジでこれが最後なんだけど……。最後に一つ、お前に謝らないといけないことがあるんだ」
「謝る? お前、なんか悪い事でもしたのか?」
「まぁ、悪いと言えば悪いのかな……。そもそも、お前はおかしいと思わなかったか? なんでいきなり、自分以外の世界が変わってしまったんだろうって。なんであの世界で、自分だけが変わる前の価値観を持ったままなんだろうって、不思議に思った事はなかったか?」
「いや、そりゃあ思ったけど……。それとお前の謝罪に、いったいどんな関係があるんだよ」
話の繋がりが分からず混乱する俺に向けて、小笠原は悪戯が成功した子供のように笑う。
「実はそれ、俺の仕業なんだ」
「……はぁ?」
いったいこいつは、何を言っているんだろうか?
訳が分からず混乱していると、小笠原は少し申し訳なさそうに言葉を続ける。
「信じられないと思うけど、事実なんだよ。俺が神様に願って、お前をあの世界に連れて行ったんだ」
「神様? お前、頭でも打ったんじゃないか? そんな質の悪い冗談、誰が信じるんだよ」
「いや、冗談じゃないんだって! 信じられない気持ちも分かるけど、まずは俺の話を聞いてくれ!」
必死で訴えてくる小笠原にふざけている様子はなく、どうやらこいつは本当のことを言っているつもりらしい。
「……仮にその話が本当だったとして、なんでお前はそんなことを神様に願ったんだ? ふつうだったら、もっと自分のための願いを言うだろ。俺を貞操逆転世界に行かせるなんて、お前に全然関係ないじゃないか」
そもそも、そこが良く分からないのだ。
そんな意味不明な願いを叶えてもらって、いったい小笠原になんのメリットがあるのだろう?
「なんのって、そりゃあお前……。あれだよ……」
いくら考えても理解できない疑問を投げかけると、小笠原はバツが悪そうに視線をそらしながら口ごもる。
しばらくそうやって逡巡した後、小笠原は意を決したように俺をまっすぐ見つめる。
「……理由を聞いても、引かないって約束してくれるか?」
いつもならここで茶化したりするのだけど、小笠原のあまりに真剣な視線に俺も真面目に答える。
「分かった、約束する。それで、どんな理由があってそんな願いを叶えてもらったんだ?」
俺が頷いたことに少しだけ表情を明るくしながら、小笠原はゆっくりと口を開く。
「お前は気付いてなかったかもしれないけど、俺には好きな奴が居たんだ」
そして語り始めたのは、なぜか恋バナだった。
「なんだそれ? 質問の答えになってないぞ」
「いいから、黙って聞いてくれ。……俺の好きな奴ってのはお調子者でノリが軽くて、だけど一緒に居てすごく楽しい奴でさ。こんなに他人を好きになるなんて、人生で初めてだったんだ」
そう語る小笠原の表情は本当に楽しそうで、それだけ相手が好きだったということが伝わってくる。
「お前にそこまで好きな相手が居たなんて、知らなかったよ。俺にくらい、教えてくれても良かったんじゃないか?」
「ははっ、バーカ。お前にだけは、なにがあっても言えるわけないだろ」
いつもの軽口のように、だけど少しだけ寂しさを感じさせる口調で小笠原が答え、そして俺の顔をまっすぐに見つめてくる。
「この恋心は、絶対に悟られちゃ駄目だったんだよ。もし相手に知られたら、きっと俺たちの関係は最悪な形で終わってしまうからな。……だけど、諦めきれなかったんだ。だから俺は、神様に願った」
そこで言葉を切った小笠原は、覚悟を決めた表情で俺を見つめて再び口を開く。
「俺が好きだったのは、お前なんだよ。お前のことが、ずっと好きだったんだ」
がやがやと騒がしい教室を見渡せば、カーストトップのグループの中で薫ちゃんが楽しそうに会話をしていた。
すでに見慣れてしまったその光景が示す通り、ここはいつもの夢の中だ。
そんな喧騒の中で、俺は誰からも注目されることなくひっそりと教室の隅に座っている。
と、そんな俺に近づいてくる影があった。
「よぉ、長瀬。調子はどうだ?」
「さっきまでは最高の気分だったさ。誰かさんがこんな悪夢を見せなければ、ずっと最高だったんだけどな」
「ははっ、そう言うなって。これが最後なんだから、ちょっとくらいは大目に見てくれよ」
俺の言葉に軽口を返す小笠原だったけど、その言葉に少し引っかかる。
「最後? それって、どういう意味だよ?」
「どういう意味って、そのまま言葉通りだよ。お前がこの夢を見るのもこれで最後だし、男の俺がお前とこうやって喋るのも、今回で終わりだ」
まるで別れを告げるような言葉に、だけどその口調に寂しそうな空気は全くなかった。
むしろ清々しそうな雰囲気すらまとった小笠原は、俺の疑問に満面の笑みを浮かべる。
「そりゃあ、寂しくなんてないさ。そっちの世界の俺がようやくお前と再会できたんだからな」
その言葉で頭に浮かぶのは、目の前の男とどこか似ている一人の少女の姿。
さっきまで身体を重ねて愛を伝え合っていた彼女の姿を思い出していると、小笠原は少し照れくさそうに笑う。
「まさか俺も、お前相手にあそこまで乱れちまうとは思わなかったよ。……いや、お前相手だからかもな」
冗談交じりにそう言って笑った小笠原は、ふとその表情を真剣なものへと変える。
「それじゃ、マジでこれが最後なんだけど……。最後に一つ、お前に謝らないといけないことがあるんだ」
「謝る? お前、なんか悪い事でもしたのか?」
「まぁ、悪いと言えば悪いのかな……。そもそも、お前はおかしいと思わなかったか? なんでいきなり、自分以外の世界が変わってしまったんだろうって。なんであの世界で、自分だけが変わる前の価値観を持ったままなんだろうって、不思議に思った事はなかったか?」
「いや、そりゃあ思ったけど……。それとお前の謝罪に、いったいどんな関係があるんだよ」
話の繋がりが分からず混乱する俺に向けて、小笠原は悪戯が成功した子供のように笑う。
「実はそれ、俺の仕業なんだ」
「……はぁ?」
いったいこいつは、何を言っているんだろうか?
訳が分からず混乱していると、小笠原は少し申し訳なさそうに言葉を続ける。
「信じられないと思うけど、事実なんだよ。俺が神様に願って、お前をあの世界に連れて行ったんだ」
「神様? お前、頭でも打ったんじゃないか? そんな質の悪い冗談、誰が信じるんだよ」
「いや、冗談じゃないんだって! 信じられない気持ちも分かるけど、まずは俺の話を聞いてくれ!」
必死で訴えてくる小笠原にふざけている様子はなく、どうやらこいつは本当のことを言っているつもりらしい。
「……仮にその話が本当だったとして、なんでお前はそんなことを神様に願ったんだ? ふつうだったら、もっと自分のための願いを言うだろ。俺を貞操逆転世界に行かせるなんて、お前に全然関係ないじゃないか」
そもそも、そこが良く分からないのだ。
そんな意味不明な願いを叶えてもらって、いったい小笠原になんのメリットがあるのだろう?
「なんのって、そりゃあお前……。あれだよ……」
いくら考えても理解できない疑問を投げかけると、小笠原はバツが悪そうに視線をそらしながら口ごもる。
しばらくそうやって逡巡した後、小笠原は意を決したように俺をまっすぐ見つめる。
「……理由を聞いても、引かないって約束してくれるか?」
いつもならここで茶化したりするのだけど、小笠原のあまりに真剣な視線に俺も真面目に答える。
「分かった、約束する。それで、どんな理由があってそんな願いを叶えてもらったんだ?」
俺が頷いたことに少しだけ表情を明るくしながら、小笠原はゆっくりと口を開く。
「お前は気付いてなかったかもしれないけど、俺には好きな奴が居たんだ」
そして語り始めたのは、なぜか恋バナだった。
「なんだそれ? 質問の答えになってないぞ」
「いいから、黙って聞いてくれ。……俺の好きな奴ってのはお調子者でノリが軽くて、だけど一緒に居てすごく楽しい奴でさ。こんなに他人を好きになるなんて、人生で初めてだったんだ」
そう語る小笠原の表情は本当に楽しそうで、それだけ相手が好きだったということが伝わってくる。
「お前にそこまで好きな相手が居たなんて、知らなかったよ。俺にくらい、教えてくれても良かったんじゃないか?」
「ははっ、バーカ。お前にだけは、なにがあっても言えるわけないだろ」
いつもの軽口のように、だけど少しだけ寂しさを感じさせる口調で小笠原が答え、そして俺の顔をまっすぐに見つめてくる。
「この恋心は、絶対に悟られちゃ駄目だったんだよ。もし相手に知られたら、きっと俺たちの関係は最悪な形で終わってしまうからな。……だけど、諦めきれなかったんだ。だから俺は、神様に願った」
そこで言葉を切った小笠原は、覚悟を決めた表情で俺を見つめて再び口を開く。
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