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第51話

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「ん? REINか?」
 ポケットから取り出して確認してみると、確かにメッセージが一件届いていた。
 そして、その送り主は……。
「結衣さんだ。あっちから連絡してくるなんて珍しいな」
 一応連絡先を交換しているとはいえ、社会人である結衣さんは忙しいようで頻繁にメッセージのやり取りなどはしていない。
 せいぜい、軽い世間話を一週間に十数件やり取りするくらいである。
 しかも、こっちから送らなければ彼女から送られてくる事はほとんどない始末だ。
 これは、放置されていると捉えるべきか俺に遠慮してくれていると捉えるべきか、判断に困る。
 そんな訳で、久しぶりに送られてきた結衣さんからのメッセージに、俺は少しだけ心躍らせながらソレを開いた。
『ユウくん、久しぶり。元気にしてた? って、風邪引いてたらしい子にこんな事を聞くのは野暮って奴かな? 私は元気モリモリで仕事してます。……それで、今日は久しぶりに時間が空いたんだけど、ちょっと会えないかな? 無理なら断ってくれても大丈夫です。お返事、待ってます』
 その内容を呼んで、俺は思わず飛び上がってしまいそうになった。
 まさか、結衣さんからお誘いがあるなんて。
 いろいろと忙しいようで誘ってもなかなかタイミングが合わなかったから、これは千載一遇のチャンスだ。
『もちろん、大丈夫だよ。久しぶりに結衣さんと会えるの、楽しみ。どこで会う?』
 はやる気持ちを抑えながら、俺は一も二もなくOKの返事を送る。
 そうすると結衣さんからもすぐに返事が来た。
『ありがとう、私も楽しみだよ。じゃあ、駅前のファミレスとかどうかな? それと、知り合いも一緒なんだけど、大丈夫?』
「知り合い? 誰だろう……?」
 久しぶりなんだから二人っきりで会いたい気もするんだけど、一緒に会いたいって事は十中八九女の人だろう。
 でなければ俺を呼ぶ必要もない訳だし、これはもしかしたら3Pのお誘いだったりして……。
「病み上がりであんまりセックスもできてないし、これは滾ってきたぞ!」
 これから起こるであろうエロエロな事態を想像して、俺の股間はすでに少し膨らんでしまっている。
 周囲に気付かれないように注意しながら、俺はスキップしたくなる気持ちを抑えてできるだけ平静を装い、下駄箱へと向かう。
 そして靴を履き替えながら、ふとした疑問が頭をよぎった。
「そう言えば、俺って結衣さんにも風邪を引いた事を話したっけ? 確か、言ってないはずなんだけど……」
 あれは、学校に来ない事を心配されないようにと薫ちゃんや菜々ちゃんと言った学校で会う子にしか言ってないはずだ。
 それなのに、どうして結衣さんが知ってるんだ?
「まぁ、それも会ってみれば分かるだろ」
 そんな軽い気持ちで考えるのを止めた俺は、指定されたファミレスへと向けて歩き始めた。

 ────
 ファミレスに着くと、時間帯も相まってかお客さんも少なく程よい空き具合だった。
 そのお蔭で、結衣さんをすぐに見つける事ができた。
 そしてそれは結衣さんも同じのようで、入り口付近に立っている俺を見つけた彼女は微笑みを浮かべながら手を振ってくる。
「おーい、こっちだよー!」
 そんな結衣さんに手を振り返しながら彼女の座っているテーブル席に近づくと、そこにはメッセージに書かれていたようにもう一人の人物の姿がった。
 予想通り女の人だったけど、その後ろ姿にはどことなく見覚えがあった。
「えっと……、灯里先生ですよね?」
 近づいて顔を確認すると、やはり知り合い。
 と言うか、俺の彼女の一人である灯里先生が笑顔を称えながら俺を待ち構えていた。
「まぁ、座って座って」
 混乱する俺を逃がすまいとテーブル席の奥に押し込んだ結衣さんは、そのまま出口を塞ぐように俺の隣へと座る。
 そうすると灯里先生とも向き合うような形になって、目の前の彼女と嫌でも目が合ってしまう。
「あの、どうして灯里先生が結衣さんと一緒に居るんですか?」
「だって、私たちお友達だもん」
「そうなの。高校時代の同級生って奴ね」
 俺の質問に何やら息ピッタリで答えた二人は、そう言いながらお互いに笑い合っている。
 なるほど、それで結衣さんが俺の風邪について知っていた理由が分かった。
 つまりは単純に、灯里先生が教えたんだろう。
 それで、久しぶりに二人であったのだから共通の恋人である俺を呼んでみようとなった訳だ。
 分かってしまえば、それほど複雑な話ではなかったな。
 まぁ、関係性はほんの少し複雑ではあるのだけれど……。
「それにしてもびっくりしたよ。灯里が学校の先生になったのは知ってたけど、まさかユウくんが灯里の教え子だったなんて」
「教え子って言っても、体育だけだけどね」
「しかも、ユウくんが灯里にも手を出してるなんて」
「それは私だって同じだよ。結衣が長瀬くんと知り合いで、しかも私よりも先にそう言う関係になってるなんて……」
 そのまま二人だけで盛り上がってしまい、俺は完全に蚊帳の外だ。
 しかし会話に入っていく事もできないし、そもそもここで口を出したら絶対に面倒な事になる。
 仕方なくメニューを見ながら二人の会話を聞こえないふりで聞き流していると、なぜか視線が俺に集中している気がする。
 メニューから視線を外してチラッと二人を盗み見ると、ニヤニヤした表情で俺を見つめている二人と目が合ってしまった。
「……なに? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。何か注文する?」
 どうやら、今日は結衣さんが奢ってくれるらしい。
「じゃあ、何か食べようかな。どうせこれから、運動もするしね」
 俺の言葉に微かに頷く二人を見ながら、俺は店員を呼ぶといくつか軽食を注文する。
 その時の店員の、不思議な組み合わせを見るような目が俺に突き刺さってきた。
 そうしてしばらくの後に並べられた軽食を三人で摘まんでいると、不意に結衣さんが俺の膝へと手を乗せてくる。
「ちょっと、結衣さん……」
「大丈夫。この位置なら誰からも見えてないから」
 そう言いながら彼女の手は少しずつ太ももを上ってきて、ついには俺の股間にまで到達する。
「あはっ、ちょっとおっきくなってるよ。もしかして、期待してた?」
「相変わらず、長瀬くんはエッチな子なんだね」
 誘うような微笑を浮かべる二人のお姉さんの言葉責めに、不覚にも興奮してしまう自分が居る。
 愚息は更に膨らみを増して、結衣さんの手を押し返すようにズボンを押し上げる。
 そんな感触を楽しむかのように微かに動く結衣さんの手は、常に微弱な快感を俺に伝えてくる。
 そうかと思えば、目の前では灯里先生が妖艶に微笑む。
 ゾクゾクするようなその微笑みで俺を見つめながら、彼女はまるで挑発するようにいやらしく口元を動かして食事をしている。
 その視覚的効果だけで、俺の興奮は更に倍増してしまう。
 もはや、我慢する事など到底できず、舞衣さんはこれから巻き起こる宴を想像して更に固さを増していった。
 そんな俺の様子を目敏く見定めた結衣さんは、止めとばかりに俺の耳元に口を寄せ……。
「ねぇ、これから三人で楽しい所に行こっか……?」
 その呟きに、俺は小さく頷くしかなかった。
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