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第46話

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「いやぁ、ちょっとやり過ぎちゃったなぁ」
 あの後、風呂場でのセックスを終えて美希はすっかりのぼせてしまった。
 いくら小柄で体重も軽いとはいえ、身体に力が入らない人間を一人抱きかかえるのは至難の業で、入浴で取れたはずの疲れが一気にぶり返してくる。
 そんな疲れと共に美希をいったんリビングのソファに寝転ばせ、水分を与えながらうちわであおいでやっていると、時刻はすっかり深夜になろうとしていた。
 そうやって何とか回復した美希はバスタオルを羽織っただけの姿で部屋に行ってしまい、リビングには俺一人だけが残されてしまった。
 なんとなくテレビを点けてもくだらない番組しかやっておらず、そうかと言って眠ろうと思っても肝心の眠気はどこか遠くへ行ってしまっている。
 結局面白くもないテレビを垂れ流しながら、俺は最近の幸せな生活について思いを馳せる事にした。
 思えば、この世界に来て色々な事が起こったものだ。
 最初の頃は訳が分からず、だけど確実に前に居た世界よりも楽しい毎日が送れると確信していた。
 そして事実、この世界での生活は非常に充実している。
 前の世界では在り得ないくらいに美希とは仲良くなれた。
 相変わらず一緒に登下校はしてくれないけれど、家では良く会話をしてくれるし何より合意の上でセックスする事だってできる。
 さらにセックスと言えば、前の世界では俺みたいな平凡な男では見向きもされないような美少女たちと関係を持つ事ができた。
 美少女なのになんだか残念な性格のチョロインである薫ちゃんに、美少女なのに露出狂の変質者である菜々ちゃん。
 さらに最近では、そんな菜々ちゃんを凌ぐ可能性さえある変質者の菫ちゃんとも知り合う事ができた。
 それに灯里先生や結衣さんなんかの大人な女性とも、きっとこの世界でなければ出会う事は出来なかっただろう。
 特に灯里先生なんかは、前の世界ではどこで何をしている人なのかが全く分からない。
「……そう言えば、この世界についてちゃんと考えた事ってなかったよな」
 男女の貞操が逆転している世界だって事はすぐに分かったけど、そもそもどうして俺がこんな世界に来る事ができたのかを一度も考えた事がない。
 なんとなくそう言うものだと思って納得していたけれど、そうやって考え始めるともっといろいろな疑問が芋づる式に浮かび上がってくる。
 どうして男女の貞操が逆転しているのか、どうして俺がこの世界で唯一逆転していないのか。
 この二つについては今のところ何のヒントもなく、ただそう言うものだと納得するしかない。
 もう少し深く掘り下げれば何か分かるのかもしれないけれど、俺は現状に満足しているからとりあえず良しとしよう。
 その他の疑問と言えば、やっぱり男女比の事だろうか?
 前にも一度調べた事があるけれど、この世界の男女比はだいたい男1:女5くらいの割合だ。
 この割合は、前の世界とは大きく変わってしまっている。
 実際、クラスに居たはずの男子の大半は姿を消してしまい、その代わりのように見知らぬ女子の姿もちらほらと見受けられる。
 だとしたら彼らは何処へ消え、彼女たちは何処から来たのだろうか?
 別の世界なんだから知らない人間が居ても当たり前だと切り捨てるのは簡単だし、実際に今までの俺もそうやって考えないでいた。
 だけどこうやって冷静に頭を悩ませてみると、どうしてもその事が気になってしまう。
 まぁ、この疑問も結局は棚上げするしかないのだけれど。
「そもそも、ヒントが少なすぎるよなぁ。ピースの足りてないパズルをやらされてるような、そんな気分だよ」
 それでは、いつまで経っても完成した絵を見る事は叶わない。
「だけど、調べるって言ってもどうしたら良いのか見当もつかないし……。ふぁぁ……」
 そうやって難しい事を考えていると、どこかへ行っていた眠気が帰ってきた。
 思わず欠伸をしてしまうと、今にも眠ってしまいそうだ。
「そろそろ寝るか。考えても分かんない事だって、きっとそのうちに分かるだろうし」
 結局、考えるのは後回しにしてソファから立ち上がると、俺は欠伸を抑えながらゆっくりと自分の部屋へと歩いていった。

 ────
「……瀬、長瀬っ!」
 誰かに肩を揺さぶられて、俺は突っ伏していた身体をゆっくりと起こした。
「誰だよ……。さっき眠ったばっかりなんだから、もう少し寝かせてくれぇ……」
「なに言ってんだよ、もう放課後だぜ。相変わらず、午後の授業はほとんど聞いてないな」
 なんとなく聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには小学生時代からの幼馴染である小笠原おがさわらあきらの姿があった。
「お前、小笠原か? ……久しぶりだな」
「本当になにを言ってんだ、お前は。今朝だって挨拶したし、昼飯も一緒に食っただろうが」
 俺の呟きに怪訝な表情を隠そうともしない晶は、そう言いながら肩を竦める。
 今朝? 昼飯?
 確か俺は、セックスの疲れを癒すために入った風呂で余計疲れて、いつもより少し早めに寝たはずなんだけど……。
「て言うか、どうして俺は学校に居るんだ? 確か自分の部屋で寝たはずなんだけど」
「なんだよ、それ? 夢でも見てたんじゃないか?」
「夢? まさか、そんな事があるはず……」
 しかし考えれば考えるほど、夢でなければおかしいような話しか思い出せない。
 男女の貞操が逆転していて、しかも俺がモテモテで複数の美少女たちと関係を持っている世界。
 そんな男の夢が詰まった世界が本当に存在すると考えるよりも、全てが夢だったと結論付ける方がはるかに現実的だろう。
 その証拠とばかりに目の前には居なくなったはずの悪友が居るし、中田中は前のように学年カースト上位の男子たちとつるんでいて俺になど見向きもしない。
 そして何より、一番違うのは薫ちゃんだろう。
 あの世界と違い、元の世界の薫ちゃんは常に自信を身に纏った美少女になっていた。
 男子から向けられる視線を当然のものと受け取り、可愛い女子たちと一緒に談笑をする姿は、あの世界の薫ちゃんに見られた少しオドオドとした態度は微塵も感じられない。
 清楚にして可憐、まるで高嶺の花のような雰囲気の美少女へと変貌してしまっていた。
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