逆転世界で俺はビッチに成り下がる

樋川カイト

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第25話

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「ふぅ、暑い……」
 とある日曜日、俺は自宅のある所から少し離れた駅の前にあるバス停に一人で立っていた。
 夏真っ盛りの今日、晴天の空からは真っ赤に燃えた太陽が燦々と輝いている。
 そこから浴びせられる強い日差しはジリジリと俺の身体をやき、額からは知らず知らずのうちに大粒の汗が流れ出してくる。
 日陰に避難しようとしても、周りには陰になっている所などない。
 一応遠くに行けばない事もないんだけど、そこに移動するのもすでに億劫だ。
 結局全てを諦めた俺は、ただ輝く太陽を恨めしそうに眺めるしかない。
「それにしても、ちょっと早く着すぎたかなぁ?」
 時刻は九時半くらい。
 待ち合わせの時間には、まだ三十分弱早い。
 それでも楽しみでつい早く来てしまったけど、こういうのって遅れてきた方が良かったりするのかな?
「でも、二人をこんな炎天下で待たせるわけにはいかないし……」
 今日の待ち合わせ相手を思い浮かべた俺は、頭を振って邪な考えを振り払った。
 そもそもどうして俺がこんな所に立っているのか。
 それは三日前の放課後にまで遡る。

 ────
「ねぇ、悠太くん。ちょっと聞きたい事があるんだけど、今って時間ある?」
 部活に行く中田中を見送ってそのまま帰ろうとした時、そのタイミングを見計らったように薫ちゃんが声を掛けてきた。
 周りにはほとんど人も居なかったし、たぶん本当にタイミングを見計らったんだろう。
 自分で言うのもなんだけど、異性から結構モテる俺に話しかけるのは、薫ちゃんみたいな女の子にはハードルが高い。
 俺も経験があるけど、そう言う時の周りの視線ってかなり厳しいんだよな。
 しかし今は俺たちを見ている人は居ない。
 だからこそ薫ちゃんは、このタイミングで話しかけてきたんだろう。
 なんて考察をしていると、俺の返事がなかった事で薫ちゃんの表情が少し弱々しくなってきた。
 どうやら、俺が気を悪くしたのかと思って不安なようだ。
 この程度で機嫌の悪くなる奴なんて、ほとんど居ないだろ。
 そりゃあ中にはそう言う輩もいるだろうけど、そいつはたぶん真の意味での友達が少ないだろう。
 そんな扱い辛い奴、俺だったら絶対に仲良くしない。
 っと、また放置してしまった。
 遂に今にも泣きそうになってしまった薫ちゃんを慰めるように、俺は努めて笑顔で彼女に声を掛ける。
「時間なら大丈夫だよ。と言うか、薫ちゃんならいつだって大歓迎だから」
 だから、もっと話しかけても良いんだよ。
 そんな気持ちを込めて言った言葉だったけど、どうも薫ちゃんにはうまく伝わっていないようだ。
 それでもまぁ、とりあえず薫ちゃんが泣くのを阻止できたしそれで良しとするか。
 なんとか笑顔を取り戻した薫ちゃんは、今度は何故かモジモジとし始める。
「えっと、その……。ちょっと、悠太くんに聞きたい事があるんだけど……」
「うん、なにかな? 俺に答えられる事なら答えるよ」
 そうしてさっきと同じ事を言われると、ちょっとイラッとしてしまう。
 しかしそんな気持ちを心の奥にグッと仕舞い、平常を装って答える。
「その……、今度の日曜日って、なにか予定があったりするのかな?」
「日曜日? 別に予定なんて何もないけど、それがどうしたの?」
「えっと、私は菜々ちゃんとプールに行こうって話してたんだ。ほら、最近暑いから」
 日曜日の予定を聞いて来たかと思いきや、唐突に自分の予定を披露してくる薫ちゃん。
 しかし、プールか……。
「良いなぁ、プール。俺は最近そう言う所に行ってないから、羨ましいよ」
 泳ぐのは嫌いじゃないし、それにプールと言えば水着だ。
 水着なんて、最近は映像や写真でくらいしか見ていない。
 この世界に来てから水着どころか全裸を見ているのだけど、それでも久しぶりに水着が見たい。
 裸とは違った魅力がある、それが水着なのだ。
 そう言えば貞操逆転世界物の作品では、よく男も水着で胸を隠したりしている。
 しかし俺の着てしまった貞操逆転世界では、そう言う文化は生まれなかったようだ。
 男は普通に海パン一丁だし、女の子はビキニが主流らしい。
 それでも気にする男なんかが胸を隠せるように上半身用水着もあるのだけど、しかしそれを着ているのはだいたい自意識過剰系男子だ。
 ほとんどの男は、気にする事もなく胸をさらけ出している。
 俺も別に気にしないし、断然さらけ出す派だ。
 しかし、薫ちゃんはどうして俺にプールに行くなんて事を伝えてきたんだろう。
 そんな疑問は、次に紡がれた彼女の言葉ですぐに解決した。
「それで、その……。悠太くんも一緒にどうかなって、菜々ちゃんと話してたんだけど……」
「えっ? 俺も一緒に行って良いの?」
「う、うん。悠太くんさえ良ければ、どうかな?」
「行くっ! 絶対行くよっ! 何時にどこで集合する? そもそも、どこのプールに行くの?」
「うぇっ!? えっと……」
 食い気味に答えて薫ちゃんの手を握ると、そのあまりの剣幕に薫ちゃんは若干引き気味に身体をのけ反らせる。
「えっと、隣町のレジャープールだけど分かる?」
「あぁ、あそこ。行った事ないから一度行ってみたかったんだよね」
 つい去年オープンしたそこは、多種多様なプールにウォータースライダーなんかまである人気のスポットだ。
 機会がなくて行った事はなかったけど、一度行ってみたかったのは本当だ。
 そのチャンスが、突然巡ってきた。
 しかも、女子と一緒に行くと言う超幸運が舞い込んできたのだ。
 こんなの、行くしかない。
「それじゃ、待ち合わせは駅前のバス停で良いかな? そこからプールまでは、バスで行けるんでしょ?」
「うん、そうだね。じゃあ、待ち合わせはバス停で。時間は菜々ちゃんと相談して後で連絡するね」
「分かった。楽しみに待ってるよ」
 こうして俺たちは、三人でプールに行く約束を交わしたのだ。
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