12 / 18
急募デリカシー。シリアス成分はふりかけ程度でお願いします。
しおりを挟む
「はいそこまで」
女が満面の見えを浮かべたその瞬間、男の声がして、女はその動きを止めた。女の動きに併せて漂っていた髪も、凍り付いたように静止している。
次にカチリ、と音と共に視界に光が満ち、気が付けば革張りのソファーに腰掛けていた。
目の前には草臥れたスーツを着た無精ひげの男。
あの時の、あの世界に行く前に出会った男だ。
「やー危なかったね。おじさん焦っちゃった」
「は?いや、あの、とりあえず状況説明をお願いします。これって最初に言われた成果が上がった時の連絡ってヤツですか?」
ちょっと、もう、ほんと、説明、頼むから説明。
周囲を見渡すと、後ろにはさっきの女が静止した状態で浮かんでいた。さっきと違うのはゆったりと膝下まであるような服を着ていることだ。
「あー、服着ちゃって残念とか思った?睦月君ってばエッチだな~。あんな裸の女の子ほっといて誰かに見られたらおっさんセクハラて訴えられちゃうからねぇ。あ、けどまぁ睦月君は年頃だもんね。今なら特別サービスで捲って覗きたいほうだいだよ?サービスしとくよ?」
「うるせぇ黙れ!いいから説明!!」
明らかに揶揄ってくる草臥れリーマンに思わず切れ気味の俺。
「まぁまぁ、落ち着いて。疲れたでしょ?お茶でもどうだい。日本茶だよ」
いつの間にか目の前には懐かしい薄緑の透き通った液体と湯呑が置かれていた。思わずだまって手に取り、一口。
ほどよい熱さ。鼻孔を擽る緑茶の香り。堪らずふぁ~っと息をついてしまう。仕方ない。緑茶は俺を縁側気分にさせる魔法の液体だ。
「説明だっけね。成果はまだ未達成で、君も死んでない。少し話をしたら戻すからお勤めがんばってね」
「はぁ、それであの女は?」
「あ~、ごめん。おっさんの立場だと詳しくは言えないんだ~。ほら、クビになっちゃうからね。アドバスがあるとしたら全力で無視すること。うっかりあの女に「あいつ等殺して」なんて思っちゃうと、視界の人間皆殺しだよ?」
「いや、物騒すぎだろ!そんな剥き身のナイフみたいの仕舞っとけよな!それより戻すなら言葉だ。言葉をなんとかしてくれ。これ以上言葉が通じないのは無理だ」
戻れるなら、あいつ等と、ちゃんと話しないと。
途端に草臥れリーマンが「はぁ?」っといった感じの顔をする。
「え?まさか今までヤってなかったの?」
「はい?」
いや、やってなかったのって……何をだ?
揶揄うようにニヤニヤしながら草臥れリーマンが口を開く。
「セック」
「黙れ」
黙らせた。
コイツがニヤニヤし始めた時点で嫌な予感はしていたけどさすがに俺も俺大混乱。
「だからセッ」
「だから黙れって!いや、え?そうなの?なんで?」
「だからーおっさんの立場じゃー言えること少ないんだってー!一気に言っちゃうと喋れることなくなっちゃうでしょ!それでどうなのよ、相手の子美人?2人なんでしょ!金髪ちゃんと銀髪ちゃん!ぼんっきゅっぼんなの!?おっさん嬉しくないなー。今どきの若い子と違っておっさんは一途だし2人とか身体がもたない~」
いや、もう殴りたい。くねくねすんな気色悪い。
だれか殴って黙らせてこのリーマン。
「男だ」
俺が呟いた瞬間、空気が凍った。
空気と一緒に草臥れリーマンの動きも凍ったようだ。
「え?」
「だから、男だ」
「え?いや、だって?あれ?え?したの?」
「したの?じゃねーよ!されたんだよ!」
コラ!ご愁傷様!みたいな顔してんじゃねーよ!
あと尻押さえてんじゃねーよ!
「はー、最近の若い子は凄いね」
「知らねーよ!いいから!だから!説明!」
思わずローテーブルを叩きつける。
さっさと最後まで説明しろ!
「わかりやすく言うと睦月君が最後まで言わせてくれないセック某的な事をするとだね、君の魂とあの世界の器が馴染むわけだよ。するとあ~ら不思議、会話も出来るようになるって寸法だ。便利で凄いね。そもそも君のあの世界での仕事ってその子たちとスルことだから。それが必要なことなの!だからもう諦めてがんがんヤっちゃて!ガンガンいれちゃって!楽しんでこ!」
「だからうるせーよ!なんてエロゲーだよ!あとデリカシーもてよ!エグいよ!」
途中から自棄になったオッサンに捲し立てられて俺は思わず怒鳴り返す。
「あー!もう!とりあえずそろそろ戻りなさい。この先、あの女が何を言って来ても絶対に無視すること。会話をしない事が最善だ。アレは「喉が渇いたな」とか願っちゃうと手直な人間を縊り殺した後に、搾り取った血液をコップに注いで出してくるタイプの女だ。それがアレについておっさんの立場で言える精一杯」
すまんね、と本当に申し訳なさそうに、不満そうに言ってくる言葉は嘘だと思えなくて。
「いや、それは、ためになる忠告を有難うございます」
「戻ったら、それこそ世界が変わったようになってるはずだ。さっきはヤりまくれって言ったけど、それを見てから考えたっていい。大丈夫だ、時間はまだある」
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は最初のあの時のように意識が遠のく。
言葉、言葉がわかるようになったらあいつ等とちゃんと話しないとな。
あいつ等と再び会えるという嬉しさと、あんな事になってしまった気まずさとが綯交ぜになりながら、俺の意識は深い闇の中に沈んだ。
女が満面の見えを浮かべたその瞬間、男の声がして、女はその動きを止めた。女の動きに併せて漂っていた髪も、凍り付いたように静止している。
次にカチリ、と音と共に視界に光が満ち、気が付けば革張りのソファーに腰掛けていた。
目の前には草臥れたスーツを着た無精ひげの男。
あの時の、あの世界に行く前に出会った男だ。
「やー危なかったね。おじさん焦っちゃった」
「は?いや、あの、とりあえず状況説明をお願いします。これって最初に言われた成果が上がった時の連絡ってヤツですか?」
ちょっと、もう、ほんと、説明、頼むから説明。
周囲を見渡すと、後ろにはさっきの女が静止した状態で浮かんでいた。さっきと違うのはゆったりと膝下まであるような服を着ていることだ。
「あー、服着ちゃって残念とか思った?睦月君ってばエッチだな~。あんな裸の女の子ほっといて誰かに見られたらおっさんセクハラて訴えられちゃうからねぇ。あ、けどまぁ睦月君は年頃だもんね。今なら特別サービスで捲って覗きたいほうだいだよ?サービスしとくよ?」
「うるせぇ黙れ!いいから説明!!」
明らかに揶揄ってくる草臥れリーマンに思わず切れ気味の俺。
「まぁまぁ、落ち着いて。疲れたでしょ?お茶でもどうだい。日本茶だよ」
いつの間にか目の前には懐かしい薄緑の透き通った液体と湯呑が置かれていた。思わずだまって手に取り、一口。
ほどよい熱さ。鼻孔を擽る緑茶の香り。堪らずふぁ~っと息をついてしまう。仕方ない。緑茶は俺を縁側気分にさせる魔法の液体だ。
「説明だっけね。成果はまだ未達成で、君も死んでない。少し話をしたら戻すからお勤めがんばってね」
「はぁ、それであの女は?」
「あ~、ごめん。おっさんの立場だと詳しくは言えないんだ~。ほら、クビになっちゃうからね。アドバスがあるとしたら全力で無視すること。うっかりあの女に「あいつ等殺して」なんて思っちゃうと、視界の人間皆殺しだよ?」
「いや、物騒すぎだろ!そんな剥き身のナイフみたいの仕舞っとけよな!それより戻すなら言葉だ。言葉をなんとかしてくれ。これ以上言葉が通じないのは無理だ」
戻れるなら、あいつ等と、ちゃんと話しないと。
途端に草臥れリーマンが「はぁ?」っといった感じの顔をする。
「え?まさか今までヤってなかったの?」
「はい?」
いや、やってなかったのって……何をだ?
揶揄うようにニヤニヤしながら草臥れリーマンが口を開く。
「セック」
「黙れ」
黙らせた。
コイツがニヤニヤし始めた時点で嫌な予感はしていたけどさすがに俺も俺大混乱。
「だからセッ」
「だから黙れって!いや、え?そうなの?なんで?」
「だからーおっさんの立場じゃー言えること少ないんだってー!一気に言っちゃうと喋れることなくなっちゃうでしょ!それでどうなのよ、相手の子美人?2人なんでしょ!金髪ちゃんと銀髪ちゃん!ぼんっきゅっぼんなの!?おっさん嬉しくないなー。今どきの若い子と違っておっさんは一途だし2人とか身体がもたない~」
いや、もう殴りたい。くねくねすんな気色悪い。
だれか殴って黙らせてこのリーマン。
「男だ」
俺が呟いた瞬間、空気が凍った。
空気と一緒に草臥れリーマンの動きも凍ったようだ。
「え?」
「だから、男だ」
「え?いや、だって?あれ?え?したの?」
「したの?じゃねーよ!されたんだよ!」
コラ!ご愁傷様!みたいな顔してんじゃねーよ!
あと尻押さえてんじゃねーよ!
「はー、最近の若い子は凄いね」
「知らねーよ!いいから!だから!説明!」
思わずローテーブルを叩きつける。
さっさと最後まで説明しろ!
「わかりやすく言うと睦月君が最後まで言わせてくれないセック某的な事をするとだね、君の魂とあの世界の器が馴染むわけだよ。するとあ~ら不思議、会話も出来るようになるって寸法だ。便利で凄いね。そもそも君のあの世界での仕事ってその子たちとスルことだから。それが必要なことなの!だからもう諦めてがんがんヤっちゃて!ガンガンいれちゃって!楽しんでこ!」
「だからうるせーよ!なんてエロゲーだよ!あとデリカシーもてよ!エグいよ!」
途中から自棄になったオッサンに捲し立てられて俺は思わず怒鳴り返す。
「あー!もう!とりあえずそろそろ戻りなさい。この先、あの女が何を言って来ても絶対に無視すること。会話をしない事が最善だ。アレは「喉が渇いたな」とか願っちゃうと手直な人間を縊り殺した後に、搾り取った血液をコップに注いで出してくるタイプの女だ。それがアレについておっさんの立場で言える精一杯」
すまんね、と本当に申し訳なさそうに、不満そうに言ってくる言葉は嘘だと思えなくて。
「いや、それは、ためになる忠告を有難うございます」
「戻ったら、それこそ世界が変わったようになってるはずだ。さっきはヤりまくれって言ったけど、それを見てから考えたっていい。大丈夫だ、時間はまだある」
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は最初のあの時のように意識が遠のく。
言葉、言葉がわかるようになったらあいつ等とちゃんと話しないとな。
あいつ等と再び会えるという嬉しさと、あんな事になってしまった気まずさとが綯交ぜになりながら、俺の意識は深い闇の中に沈んだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?
優
BL
前世、自分の命を使い国全土に防護魔法をかけた救国の騎士……が、今世は普通の平民として生まれた!?
普通に生きていこうとしているのに、前世の知識が邪魔をする!そして、なぜか前世で縁のあった王公貴族達に溺愛される!!
もし、生まれ変わりがバレたらとんでもないことになる……平民として生きるために普通を目指す!!
総愛されです。でも、固定。
R18は後半になります。
*をつけます。
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
【完結】君に愛を教えたい
隅枝 輝羽
BL
何もかもに疲れた自己評価低め30代社畜サラリーマンが保護した猫と幸せになる現代ファンタジーBL短編。
◇◇◇
2023年のお祭りに参加してみたくてなんとなく投稿。
エブリスタさんに転載するために、少し改稿したのでこちらも修正してます。
大幅改稿はしてなくて、語尾を整えるくらいですかね……。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる