星の涙、竜の慟哭

路傍 之石

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急募デリカシー。シリアス成分はふりかけ程度でお願いします。

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 「はいそこまで」

 女が満面の見えを浮かべたその瞬間、男の声がして、女はその動きを止めた。女の動きに併せて漂っていた髪も、凍り付いたように静止している。

 次にカチリ、と音と共に視界に光が満ち、気が付けば革張りのソファーに腰掛けていた。

 目の前には草臥れたスーツを着た無精ひげの男。

 あの時の、あの世界に行く前に出会った男だ。

 「やー危なかったね。おじさん焦っちゃった」

 「は?いや、あの、とりあえず状況説明をお願いします。これって最初に言われた成果が上がった時の連絡ってヤツですか?」

 ちょっと、もう、ほんと、説明、頼むから説明。

 周囲を見渡すと、後ろにはさっきの女が静止した状態で浮かんでいた。さっきと違うのはゆったりと膝下まであるような服を着ていることだ。

 「あー、服着ちゃって残念とか思った?睦月君ってばエッチだな~。あんな裸の女の子ほっといて誰かに見られたらおっさんセクハラて訴えられちゃうからねぇ。あ、けどまぁ睦月君は年頃だもんね。今なら特別サービスで捲って覗きたいほうだいだよ?サービスしとくよ?」

 「うるせぇ黙れ!いいから説明!!」

 明らかに揶揄ってくる草臥れリーマンに思わず切れ気味の俺。

 「まぁまぁ、落ち着いて。疲れたでしょ?お茶でもどうだい。日本茶だよ」

 いつの間にか目の前には懐かしい薄緑の透き通った液体と湯呑が置かれていた。思わずだまって手に取り、一口。

 ほどよい熱さ。鼻孔を擽る緑茶の香り。堪らずふぁ~っと息をついてしまう。仕方ない。緑茶は俺を縁側気分にさせる魔法の液体だ。

 「説明だっけね。成果はまだ未達成で、君も死んでない。少し話をしたら戻すからお勤めがんばってね」

 「はぁ、それであの女は?」

 「あ~、ごめん。おっさんの立場だと詳しくは言えないんだ~。ほら、クビになっちゃうからね。アドバスがあるとしたら全力で無視すること。うっかりあの女に「あいつ等殺して」なんて思っちゃうと、視界の人間皆殺しだよ?」

 「いや、物騒すぎだろ!そんな剥き身のナイフみたいの仕舞っとけよな!それより戻すなら言葉だ。言葉をなんとかしてくれ。これ以上言葉が通じないのは無理だ」

 戻れるなら、あいつ等と、ちゃんと話しないと。

 途端に草臥れリーマンが「はぁ?」っといった感じの顔をする。

 「え?まさか今までヤってなかったの?」

 「はい?」

 いや、やってなかったのって……何をだ?

 揶揄うようにニヤニヤしながら草臥れリーマンが口を開く。

 「セック」

 「黙れ」

 黙らせた。

 コイツがニヤニヤし始めた時点で嫌な予感はしていたけどさすがに俺も俺大混乱。

 「だからセッ」

 「だから黙れって!いや、え?そうなの?なんで?」

 「だからーおっさんの立場じゃー言えること少ないんだってー!一気に言っちゃうと喋れることなくなっちゃうでしょ!それでどうなのよ、相手の子美人?2人なんでしょ!金髪ちゃんと銀髪ちゃん!ぼんっきゅっぼんなの!?おっさん嬉しくないなー。今どきの若い子と違っておっさんは一途だし2人とか身体がもたない~」

 いや、もう殴りたい。くねくねすんな気色悪い。

 だれか殴って黙らせてこのリーマン。

 「男だ」

 俺が呟いた瞬間、空気が凍った。

 空気と一緒に草臥れリーマンの動きも凍ったようだ。

 「え?」

 「だから、男だ」

 「え?いや、だって?あれ?え?したの?」

 「したの?じゃねーよ!されたんだよ!」

 コラ!ご愁傷様!みたいな顔してんじゃねーよ!

 あと尻押さえてんじゃねーよ!

 「はー、最近の若い子は凄いね」

 「知らねーよ!いいから!だから!説明!」

 思わずローテーブルを叩きつける。

 さっさと最後まで説明しろ!

 「わかりやすく言うと睦月君が最後まで言わせてくれないセック某的な事をするとだね、君の魂とあの世界の器が馴染むわけだよ。するとあ~ら不思議、会話も出来るようになるって寸法だ。便利で凄いね。そもそも君のあの世界での仕事ってその子たちとスルことだから。それが必要なことなの!だからもう諦めてがんがんヤっちゃて!ガンガンいれちゃって!楽しんでこ!」

 「だからうるせーよ!なんてエロゲーだよ!あとデリカシーもてよ!エグいよ!」

 途中から自棄になったオッサンに捲し立てられて俺は思わず怒鳴り返す。

 「あー!もう!とりあえずそろそろ戻りなさい。この先、あの女が何を言って来ても絶対に無視すること。会話をしない事が最善だ。アレは「喉が渇いたな」とか願っちゃうと手直な人間を縊り殺した後に、搾り取った血液をコップに注いで出してくるタイプの女だ。それがアレについておっさんの立場で言える精一杯」

 すまんね、と本当に申し訳なさそうに、不満そうに言ってくる言葉は嘘だと思えなくて。

 「いや、それは、ためになる忠告を有難うございます」

 「戻ったら、それこそ世界が変わったようになってるはずだ。さっきはヤりまくれって言ったけど、それを見てから考えたっていい。大丈夫だ、時間はまだある」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は最初のあの時のように意識が遠のく。

 言葉、言葉がわかるようになったらあいつ等とちゃんと話しないとな。

 あいつ等と再び会えるという嬉しさと、あんな事になってしまった気まずさとが綯交ぜになりながら、俺の意識は深い闇の中に沈んだ。
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