星の涙、竜の慟哭

路傍 之石

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朔 心静かにその時を待つ

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 あの日以来、気持ちは凪いでいる。

 俺が起きていられる時間はどんどん少なくなっているけど、イオもザラも普通に接してくれている。

 今日は起きたら2人とも揃っていて、それがなんだか嬉しかった。

 イオが用意してくれていた白湯を口に含む。程よい温度の液体が口内を潤し、喉を通り胃へ流れていく。

 ほうっと一息ついてふと空を見上げると、満月が一つ寂しそうに浮かんでいた。

 「お前の相棒はどこにいっちゃったんだろうな」

 今日は朔日。満ち欠けする月は夜闇の中に浮かんでいるんだろうな。

 ぽつりと呟くと、相変わらず俺の頭に居座っているチュン太も同意するように「ちゅん」っと鳴いた。

 「お前は雀なのに、こんな時間まで起きてて大丈夫なのか?」

 まるで「大丈夫ですよ」と返すように「ちゅんちゅん」と鳴き声が返ってくる。

 周囲を見渡すと、一面の枯れた草花。

 下弦からさらに月が隠れていくのに合わせるように。草花は日に日に枯れていった。

 今夜、眠りについたら、俺が目覚めることは、もう無いんだ。

 体調が悪いわけじゃない。

 それでも、それが紛れも無い事実なんだと、頭が理解している。

 ただ、今はあの時みたいに苦しくはない。

 言葉は通じないけどザラやイオも居てくれる。

 俺は友達だと思ってるけど、あいつ等はどうかな?

 仕事だからやってるみたいな感じだったら正直へこむ。

 言葉が分かったら、もっと色々話してみたかったな。あいつ等の事、もっと知りたかった。俺のこと、もっと知ってほしかった。

 湿っぽい思考になってると、いつの間にか肩に移動したのか、ちゅん太が俺の首に身体をすりつけている。

 「そうだな、ちゅん太も一緒だったから寂しくなかったよ」

 そうでしょうとばかりに力強く一声鳴くちゅん太が可笑しくて笑ってしまう。

 戻る……か。






 こいつら何やろうとしてんだ。

 思わず呆れ顔になる。

 寝台の辺りまで戻ったら、防具を身に着けたイオとザラが木剣を構えてる。

 俺の起きている時間が減りはじめた下弦の月頃まで一緒にやってた打ち合いに使っていた簡素な軽い木の棒じゃなくて、重そうな、それこそ当たったら滅茶苦茶痛そうなやつだ。

 いや、だから防具付けてるんだろうけど。

 今にも打ち合いが始まるってところでイオが俺に気が付き手を振ってくる。

 ザラも俺に気が付き、テーブルに白湯を用意して、椅子まで用意してくれる。

 いや、俺そろそろ……あ、はい何でもないです。見守らせていただきます。

 そうさ所詮俺はノーと言えない日本人だ。なんとでも言え。

 和やかムードも2人が構えをとると一瞬で掻き消え、激しい打ち合いが始まった。
 
 突然の事に、え?そこまでやるの?と俺ドン引き。

 いや、だって防具付けてるとはいえ、あの勢いでぶん殴られた死なない?死なないの?俺はきっと死ねるぞ?

 普段の2人の打ち合いから、2人の剣の腕は互角ぐらいなのかなと勝手に思っていた。

 けれど今、目の前ではザラが凄い勢いでイオを追い詰めていて、イオはいつになく焦った顔をしている。

 あっという間に追い詰められて、イオが降参し、ザラが雄たけびを上げて勝負は終わり。

 初めて聞いたザラの雄たけびにちょっとびびったのは秘密。

 机の上に用意されていたタオルを手に取り、座って防具を外している2人に渡してやる。

 イオはしてやられたって顔をしてるが、ザラはいつになく嬉しそうな顔をしている。

 思わずザラの頭を撫でてやると、くしゃっとした笑顔を浮かべ抱き着いてくる。

 どうどう!

 嬉しいのは分かったから離れろ!

 ぽんぽんと背中を叩いてやるが、何やら超嬉しそうにしていてなかなか離してくれない。

 どうしたもんかと思ってたら上着を脱いで、肩にタオルを引っかけたイオが近づいてくる。

 お、助けてくれるのかな?

 そして、俺の思考はイオの左胸の竜の文様に心が奪われる。

 その姿は羽ばたく竜。

 力強く翼を振り下ろした姿。

    アレ   ハ ■■■■■■

 思考が塗りつぶされる。

 手が伸ば……そうとしたところでザラにその手をはたき落とされ正気に戻る。

 顔を見ると、さっきの嬉しそうな顔から一転、不満そうにぶすっとしている。

 そんなザラを呆れ顔のイオが引き剝がしてくれた。

 「■■■■■」

 「■■■■■■■■■■■■」

 不満そうにザラがイオに何か言うが、イオは頭を掻きながら呆れた顔で言葉を返している。

 「■■■■」

 ザラは一瞬思案した後、イオに同意を示し、いつも通り俺の手を取ろうとするが、その手はイオに叩き落とされた。

 「■■■■■」

 イオはニヤニヤしながらザラに何かを言うと、ザラは再び不満そうな顔をしてタオルを持ったまま外へと通じる扉の方へ歩いていってしまった。

 「■■■■■■、■■」

 成り行きがわからなく茫然としてる俺に、イオが芝居がかった笑顔を動作で手を差し出してくる。

 いや、言ってる言葉はさっぱり分からんが手を取れってことだよな?

 そう、俺は空気を読む日本人。

 差し出された手に自分の手を乗せると、イイ笑みを浮かべたままそっと手を握られる。

 「お前って絶対イイ性格してるよな」

 半眼でそういう俺に、だいたい言われてるのか察したのか、とたんに紳士的な笑顔が剥がれてニヤニヤし始めた。

 「■■■■■■■■■■■■■■」

 イオは楽し気に言葉を返すと、口笛を吹きながら俺の手を引いてザラの向かった外へ通じる扉へ向かう。

 あ、行き先は大浴場でした。

 3人で風呂って初めてかも。
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