星の涙、竜の慟哭

路傍 之石

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月に惑いて喰らわんとするなど

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 陽が落ちると、壁に設置されている燭台に灯りがともる。

 燭台の灯りは炎のように揺らめいているが、誰かが陽が落ちれば勝手にともるし、朝には勝手に消えている。

 一度、手を翳してみたり、枯れ枝を近づけてみたりしたが、熱くもなくいし、燃えることもなく不思議なものである。

 先ほどまで床に寝そべりながら俺とのコマ取りゲームに興じていたイオも、夜になると仕事モードになる。

 ゲームが途中でもはいこれで終わりとばかりにコマもボードも片してしまうのだ。

 そのまま机に向かい書類仕事を始める。

 邪魔しちゃ悪いし、俺はベットでゴロゴロしてようかなと思ったが、その時ザラが人数分のカップと白湯を持ってきてくれた。

 ちなみにここの食事は最初に出された白い板みたいなものと白湯だけ、ザラとイオはここでは食事はしないし、白湯も俺用と、二人用のでポットが分かれてる。

 ザラから白湯を受け取ると、草が茂ってる方に設置されたソファーに移動して腰掛ける。

 夜はここから月が綺麗に見えるんだ。

 ローテーブルにカップを置き、空を見上げると雲が無い夜空に浮かぶのは2つの満月。

 俺が夜空を見るようになって、気が付いたが満ち欠けをするのは片方の月のようだ。

 といっても、まだ満ちていく所しか見たことが無い。

 今夜は待望の、満月ふたつ。

 月明りに照らされつつ、ぼんやりと月を見上げてるとザラが自分のカップをもって隣に座って俺と同じように夜空を見上げる。

 「■■■■■■■■■■■■」

 片方の月、ずっと満月だったほうの月を指さして俺に話しかける。

 ザラとイオの名前が出てくるから自分達のことなんだろう。
 
 もう一度、同じ月を指さすと「ザラ、イオ」と手を下ろすと自分の当てる。

 さっぱりわからんと手を左右に振ってみる。

 するとザラはシャツのボタン幾つか外し襟を捲る。
 
 捲ったところから竜の文様が少し顔を覗かせる。

 ザラだけでなくイオも左胸に竜の文様があり、風呂場で何度か見てはいる。

 ザラの左胸に刻まれた竜は翼を休め丸まった姿で描かれていてた。

 その姿が
  
     イトオしくテ、

   隠されてるのがもどかしくて

    竜に触れタくて、

  手が伸ばす

 「ムツキ?■■■■■■■」

 ああ、ザラが何か、

   どうでも

    月ノ光に照らされ、思考が溶けていク

 愛しい

       やっと

  指先が触れる

    触れた指先から熱が伝わり、ザラの動きが止まる

   蛇に睨まれた蛙みたいだ

       いや、この場合は■■に睨まれた■か

  自分の思考に自然と口角があがる

 ザラをソファに押し倒し、シャツのボタンを全て外してその竜を全て露わにする

 触れた指先から広がる熱がザラの全身を巡り、その息を荒くさせていた。

  もっト

   触レたい

       モっと

 俺の顔が竜の文様に近づく

 「ムツ、ムツキ!」

 ああ、ザラ

   大丈夫だよ

     怯える必要は無い

  俺の唇が

       舌が

  イトオシイ  触レ

 ぱかんっという音が二つ、俺の後頭部に衝撃一つ。もう一つはザラのおでこから。

 この懐かしい感触はプリント丸めて叩かれる奴だ。

 ふと顔を上げると呆れた顔でイオが立っている。

 あれ?俺って何してっけ?

 白湯呑んで、月を見てたらザラがやってきて……ザラ?

 正面を向くと、俺に組み敷かれて上半身を露わにしたザラがいる。

 その左胸は微かに濡れていた。

 ザラは目を必死に瞑って顔を背けているが、本日も耳真っ赤である。いや違う、そういう言い方をしたいんじゃない。

 俺……何した?

 「■■■■■■■■■■」

 イオは呆れた顔でザラに何かを言っている。

 そんなイオを見て、俺に組み敷かれて真っ赤になってるザラが、顔を背けていたザラのうるんだ瞳と目があい、俺は完全に正気に戻って飛びのいた。

 「ざ、ザラ、その、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ!」

 イオはため息をつくと、頭を掻きながら元の場所に戻ってく。

 え?戻っちゃうの!?この空気なんとかしてよ!

 ザラもまたシャツの乱れを直すと、「ムツキ、イイヨ」と笑顔で言ってくれる。

 何事もなかったかのようにカップをお盆に纏めて片手で持つと、もう片手で俺の手を強く握ってくる。

 そのままイオの所まで戻ると、ザラはお盆を置いた後に、書類仕事をしてるイオの机を勢いよく叩く。

 一瞬驚いたような表情を浮かべたイオが、面倒そうにザラを見上げる。

 二言ほど言葉を交わしているが、2人の間にはいつになく冷たい雰囲気が漂ってる。

 えーっと、な、仲良くな?

 俺もう先寝るなーと、寝台に上がろうとした所で後ろからザラに覆いかぶさられて寝台にそのまま倒れる。

 うっわ、何事!

 「ムツキ■■■■■」

 ちょ、さっきの悪かったって!な?

 そのまま寝台の中央まで移動して横にさせられる。

 ザラに背中からハグされてる格好だ。

 こ、これて寝るんですか?

 不思議と嫌な感じはしないけど、違くね?

 「ムツキ」

 ザラに耳元で囁かれざわざわする。

 畜生、さっきの仕返しか!

 最初はびっくりして気が付かなかったが、俺を抱く腕が微かに振るえてる。

 ため息をつくと、返事の代わりに俺を抱くザラの腕をぽんぽんと叩き、大人しく目を閉じる。

 ザラが大きく息を吐くと、腕の震は収まり俺を抱く力が緩んだ。

 背中にあたるザラの身体や、まわされた腕の体温が思いのほか心地よくて、俺の意識はそれから程なくして夢の中へと旅立った。
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