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5.突撃隣の-(再)大事なのは退かぬ心。間合いは踏み抜いていくスタイル。
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こう兄の手作りオムライスは美味しかったしデザートのシュークリームも絶品だった。さらに、こう兄の連絡先をゲットしてうきうき気分。
「今日はご機嫌だね」
顔に出まくってたのかこう兄に指摘されて思わずえへへとにやけてしまう。
「にーちゃんはゆきちゃんが大学でちゃんとやれてるのか心配だなー」
「む。ちゃんとしてるし。こう兄の前だと緩んじゃうだけだし。しいていうならこう兄の責任だよね」
「そうか、俺のせいか。それじゃ責任取らないとな」
「そうだそうだ!」
「責任とってこれからは厳しく接しよう」
「え……そういうのいらない」
顔を見合わせ笑いあう。
「それにほら、俺はこう兄やはる兄と違って遊び人じゃないし!」
「あ、ゆきちゃんそれ言っちゃうんだ」
「そうだよ!昨夜だって……」
こう兄は悪びれもせずにこにこしながら返してくるから、そんなこう兄にちょっと、そうちょっとだけ苛々してしまい余計な言葉が口をついてしまった。
コトンとこう兄がマグカップを置いた音がやけに大きく響く。
「昨夜が、何?」
思わず目を逸らす。
「昨夜は星が綺麗だったなと思って」
「昨夜は曇りだけど」
そんなの知ってるって叫びだしそうになる。時間を巻き戻してなかったことにさせて欲しい。
「セフレだよ」
「……」
「彼も、セフレだ」
「聞こえてるし。2回も言わなくていいし」
たぶん、そうなんだろうと思っていたけど、こう兄の口から聞きたくなかった。
胸がずきずきする。
視界が……滲む。
「聞きたくないから話変えたかったのに……」
「ゆきちゃんが隣に越してきてからも、女も男も部屋に連れ込んでたから、いつかはバレると思ってた」
「そんな事!」
聞きたくなくて、知りたくなくて、思わずこう兄を睨む。涙が溢れ出てこないよう目に力を入れる。強く。
「ゆきちゃんは俺の事、気持ち悪いって思う?」
いつもの、優しい笑顔のまま、こう兄が俺に問いかけてくる。何を言われてるかわからなくて、一瞬、頭の中が真っ白になる。やがて、頬をつっと一筋の何かが伝う感触。
その後は悲しくて、苦しくて、決壊したかのように、涙が溢れてきた。
「こう兄は馬鹿だ……」
「うん」
「俺が……俺が、こう兄を気持ち悪いだなんて……思うわけないじゃん」
「……うん」
「ばか、ばか兄」
「そうだな、ばかにーだな」
両の手で拭っても溢れてくる涙が止まらない。こう兄に、「気持ち悪いって思う?」と聞かれたことが酷く悔しかった。俺がこう兄にそんなことを思うなんてありえないのに。
こう兄がタオルを手渡してくれる。受け取ると「ごめんな」という言葉と共に、そっと頭を撫でてくれて、冷めてしまった珈琲の代わりにホットミルクを淹れてくれた。
こう兄の入れてくれたホットミルク。
一口含むと、蜂蜜入りのホットミルクは暖かくて、優しい甘みを舌に感じた。
「昔な、両親に言われたんだ。男同士なんて気持ち悪い。この出来損ないって。俺は両親との仲が良好だったわけじゃないけど、さすがに堪えた」
伺うようにこう兄を見ると、当時の事を思い出してるのか、少し苦い表情を浮かべていた。
「堪えるってことは、親ってのは、最後には無条件で味方になってくれんじゃないかって甘えがあったんだろうな」
こう兄の言葉にズキリと胸が痛む。父さんも、母さんも、俺達兄弟には無条件で味方になってくれるって当たり前のように信じてる。俺達にとっては当たり前のことなのに、こう兄にとってはそれが「甘え」になってしまうことが苦しいくて、だから、俺は。
「俺、俺がこう兄の無条件の味方になる」
「ゆき……ちゃん?」
こう兄が戸惑うように、俺の名を呼ぶ。俺はそれに構わず、言葉を続けた。
「俺じゃ……ダメ?」
「ゆきちゃん、自分が何言ってるかわかってる?」
言い聞かせるように、強く、言葉を区切ってもう一度決意を口にする。
「どんな時も、何があっても、俺がこう兄の味方になる」
こう兄が、俺の言葉に目を見張った。
「ちびのゆきちゃんにそんな事いわれる日が来るなんてな」
「言ったろ。俺だって頼りになる男に成長したの!」
こう兄が、嬉しそうに笑ってくれている。それが嬉しくて俺もつられて笑顔になってしまう。
「それじゃ無条件の味方になってもらおうかな」
「任せてよ」
「覚悟しとけよ」
「不穏だよ」
折角の良い場面だったのにーっと不満を表明したら「まだまだちびゆきちゃんだな」と鼻を摘ままれてしまった。
「そういえば、あっちゃんは?」
「両親との縁は切っても兄妹の縁は切るなって言われたよ」
「うわぁ……頼もしい」
「ほんとにな。弟からは「もっと上手くやれ馬鹿兄。言っとくが兄弟の縁は切らないからな」と言われてしまった」
「弟とか新情報」
「え?知らなかった?双子の弟」
「ちょっとまって情報量」
「え?夕凪と付き合ってるんだけど」
「まって、お願い、情報量多すぎ」
こう兄の兄妹は、妹のあっちゃんだけかと思ったら、双子の弟がいて、ゆう姉と付き合ってるとか今日はお腹いっぱいです。
「そうだ、ゆきちゃん、ちょっとベランダでないか?昨日は曇りだったけど、今夜は晴れてるから星が見えるよ」
「ソウデスネ」
昨日が曇りだった話はもう勘弁してほしい。終わり!その話終わった!
不満そうな俺の手を「ほら立った立った」と引張りベランダに連れ出す。確かに今日は外が晴れていて星も見える。
「ほら、あそこに月が出てる」
こう兄が空を指さして、下ろした左手の小指が、俺がベランダの手すりにかけた右手の小指に触れた。
「綺麗だね」
「うん。星も、月も好き。夜の散歩も好き」
「夜中に時々、出かけてるなとは思ってたけど散歩に行ってたのか。今度行くとき誘ってよ」
「え?いいけど……こう兄、夜はよく人呼んでるけど……大丈夫?」
伺うように問いかける。そりゃそうだ。誘いにいったら最中でしたなんてのはさすがに俺も勘弁願いたい。
「ゆきちゃん、もう誰もこの部屋には呼ばない。ゆきちゃん以外は。だからいつでも声をかけてくれ」
こう兄の言葉に面食らってると「やっぱわかってなかったか」と笑われてしまう。
何が「わかってないのか」は教えてくれなかったけど、こう兄の言葉を聞いてから、さっき触れた右手の小指が無性に熱く感じた。
「今日はご機嫌だね」
顔に出まくってたのかこう兄に指摘されて思わずえへへとにやけてしまう。
「にーちゃんはゆきちゃんが大学でちゃんとやれてるのか心配だなー」
「む。ちゃんとしてるし。こう兄の前だと緩んじゃうだけだし。しいていうならこう兄の責任だよね」
「そうか、俺のせいか。それじゃ責任取らないとな」
「そうだそうだ!」
「責任とってこれからは厳しく接しよう」
「え……そういうのいらない」
顔を見合わせ笑いあう。
「それにほら、俺はこう兄やはる兄と違って遊び人じゃないし!」
「あ、ゆきちゃんそれ言っちゃうんだ」
「そうだよ!昨夜だって……」
こう兄は悪びれもせずにこにこしながら返してくるから、そんなこう兄にちょっと、そうちょっとだけ苛々してしまい余計な言葉が口をついてしまった。
コトンとこう兄がマグカップを置いた音がやけに大きく響く。
「昨夜が、何?」
思わず目を逸らす。
「昨夜は星が綺麗だったなと思って」
「昨夜は曇りだけど」
そんなの知ってるって叫びだしそうになる。時間を巻き戻してなかったことにさせて欲しい。
「セフレだよ」
「……」
「彼も、セフレだ」
「聞こえてるし。2回も言わなくていいし」
たぶん、そうなんだろうと思っていたけど、こう兄の口から聞きたくなかった。
胸がずきずきする。
視界が……滲む。
「聞きたくないから話変えたかったのに……」
「ゆきちゃんが隣に越してきてからも、女も男も部屋に連れ込んでたから、いつかはバレると思ってた」
「そんな事!」
聞きたくなくて、知りたくなくて、思わずこう兄を睨む。涙が溢れ出てこないよう目に力を入れる。強く。
「ゆきちゃんは俺の事、気持ち悪いって思う?」
いつもの、優しい笑顔のまま、こう兄が俺に問いかけてくる。何を言われてるかわからなくて、一瞬、頭の中が真っ白になる。やがて、頬をつっと一筋の何かが伝う感触。
その後は悲しくて、苦しくて、決壊したかのように、涙が溢れてきた。
「こう兄は馬鹿だ……」
「うん」
「俺が……俺が、こう兄を気持ち悪いだなんて……思うわけないじゃん」
「……うん」
「ばか、ばか兄」
「そうだな、ばかにーだな」
両の手で拭っても溢れてくる涙が止まらない。こう兄に、「気持ち悪いって思う?」と聞かれたことが酷く悔しかった。俺がこう兄にそんなことを思うなんてありえないのに。
こう兄がタオルを手渡してくれる。受け取ると「ごめんな」という言葉と共に、そっと頭を撫でてくれて、冷めてしまった珈琲の代わりにホットミルクを淹れてくれた。
こう兄の入れてくれたホットミルク。
一口含むと、蜂蜜入りのホットミルクは暖かくて、優しい甘みを舌に感じた。
「昔な、両親に言われたんだ。男同士なんて気持ち悪い。この出来損ないって。俺は両親との仲が良好だったわけじゃないけど、さすがに堪えた」
伺うようにこう兄を見ると、当時の事を思い出してるのか、少し苦い表情を浮かべていた。
「堪えるってことは、親ってのは、最後には無条件で味方になってくれんじゃないかって甘えがあったんだろうな」
こう兄の言葉にズキリと胸が痛む。父さんも、母さんも、俺達兄弟には無条件で味方になってくれるって当たり前のように信じてる。俺達にとっては当たり前のことなのに、こう兄にとってはそれが「甘え」になってしまうことが苦しいくて、だから、俺は。
「俺、俺がこう兄の無条件の味方になる」
「ゆき……ちゃん?」
こう兄が戸惑うように、俺の名を呼ぶ。俺はそれに構わず、言葉を続けた。
「俺じゃ……ダメ?」
「ゆきちゃん、自分が何言ってるかわかってる?」
言い聞かせるように、強く、言葉を区切ってもう一度決意を口にする。
「どんな時も、何があっても、俺がこう兄の味方になる」
こう兄が、俺の言葉に目を見張った。
「ちびのゆきちゃんにそんな事いわれる日が来るなんてな」
「言ったろ。俺だって頼りになる男に成長したの!」
こう兄が、嬉しそうに笑ってくれている。それが嬉しくて俺もつられて笑顔になってしまう。
「それじゃ無条件の味方になってもらおうかな」
「任せてよ」
「覚悟しとけよ」
「不穏だよ」
折角の良い場面だったのにーっと不満を表明したら「まだまだちびゆきちゃんだな」と鼻を摘ままれてしまった。
「そういえば、あっちゃんは?」
「両親との縁は切っても兄妹の縁は切るなって言われたよ」
「うわぁ……頼もしい」
「ほんとにな。弟からは「もっと上手くやれ馬鹿兄。言っとくが兄弟の縁は切らないからな」と言われてしまった」
「弟とか新情報」
「え?知らなかった?双子の弟」
「ちょっとまって情報量」
「え?夕凪と付き合ってるんだけど」
「まって、お願い、情報量多すぎ」
こう兄の兄妹は、妹のあっちゃんだけかと思ったら、双子の弟がいて、ゆう姉と付き合ってるとか今日はお腹いっぱいです。
「そうだ、ゆきちゃん、ちょっとベランダでないか?昨日は曇りだったけど、今夜は晴れてるから星が見えるよ」
「ソウデスネ」
昨日が曇りだった話はもう勘弁してほしい。終わり!その話終わった!
不満そうな俺の手を「ほら立った立った」と引張りベランダに連れ出す。確かに今日は外が晴れていて星も見える。
「ほら、あそこに月が出てる」
こう兄が空を指さして、下ろした左手の小指が、俺がベランダの手すりにかけた右手の小指に触れた。
「綺麗だね」
「うん。星も、月も好き。夜の散歩も好き」
「夜中に時々、出かけてるなとは思ってたけど散歩に行ってたのか。今度行くとき誘ってよ」
「え?いいけど……こう兄、夜はよく人呼んでるけど……大丈夫?」
伺うように問いかける。そりゃそうだ。誘いにいったら最中でしたなんてのはさすがに俺も勘弁願いたい。
「ゆきちゃん、もう誰もこの部屋には呼ばない。ゆきちゃん以外は。だからいつでも声をかけてくれ」
こう兄の言葉に面食らってると「やっぱわかってなかったか」と笑われてしまう。
何が「わかってないのか」は教えてくれなかったけど、こう兄の言葉を聞いてから、さっき触れた右手の小指が無性に熱く感じた。
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