柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

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第三章 柴イヌ、出世する

第五十三話 新たなる冒険

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 なぜかモニカさんがとってもご機嫌です。そしてなぜかリリアンさんはご機嫌ななめなのでした。

「よーしよしっ! 上手いこと王国からの特別依頼をゲットできましたわね! 冒険者として生活する第一歩として、この高額報酬は大きいですわよっ!」

「モニカお前さあ、私をダシにしてレーガン殿と交渉しただろっ!」

「なによリリアン。あんたどうせ離婚しにパラピール王国へ帰るつもりだったんでしょ? 帰省費用も全部経費で賄えて、そのうえ高額報酬まで貰えるのよ? 逆に感謝して欲しいくらいだわッ!」

「そうなんだけどさ……。なんかムカつくんだよなっ!」

「さあさあ、そんな小さなこと気にしていないで、ギルド本部に最終打ち合わせへ行きますわよ。コテツさんも準備出来まして?」

「オレはいつでもいいですよ!」

 どうやらオレたちはパラピール王国という場所へ行き、潜入調査という仕事をすることになったらしくって。
 でも、それがどんな依頼内容なのかはまだわかりません。なのでこれからギルド本部へ行って教えてもらうのです。


 本部の会議室で待っていると、すぐにレーガンさんと本部長さんがやってきました。

「うーむレーガン君。本当にこの三人に任せて大丈夫なのかね?」

「彼らの他にパフも同行しますので大丈夫でしょう。Sランカー二人にAランカー二人です、潜入調査としてはかなり贅沢な人員構成ですよ?」

「まあ確かにそうだけどねえ。ギルドの評判と利益を落としはしないか、些か不安が残るのだが……」

 この本部長のおじさんのイヤミな感じは、いつもながらムッとしますね。
 どうやらリリアンさんもオレと同じ気持ちだったらしく、おじさんに文句を言い始めたようです。いいですね、ギャフンといわせてやりましょう!

「ふんっ、これでギルドの本部長というのだから呆れてしまうわッ!」

「な、なんだと!? 君っ、無礼だそ、取り消したまえっ!」

「無礼なのはお前だっ! 我ら冒険者の覚悟も知らぬ愚か者めがッ!」

「き、貴様ッ!」

「聞け老害っ! 我ら上級冒険者とは安売りの商品であるッ! 評判は安物、利益は投売り、そういう存在であると心得よッ!」

「……はあっ?」

 このおじさん、どうやらハカクの意味も知らなかったようです。
 オレたちがハカクの冒険者であることに驚いて、ギャフンという顔をしていますね。さすがはリリアンさんです!

「フフフ、これでよろしいのですよね、レーガンさん」

「えっ? い、いや、俺に同意を求められても……。ちょっと困るなあ」

「ごめーん、遅刻しちゃったん!」

 ちょうどその時、重そうに紙の束を抱えたパフさんが部屋に入ってきました。

「資料探しに思いの外手間取っちゃったのお。ごめんねレーガンさん」

「いやなに、頼んだのは俺だからね。ありがとうパフ。それにグッドタイミングだ!」

「ん、そうなの? あ、コテッちん!」

 パフさんはオレを見つけると、小さく手を振ってくれました。こういうフレンドリーなのはいいですね!

「では本部長、全員揃ったようなので作戦会議を始めてよろしいかな?」

「もういい! 好きにしたまえ」

「今回の特別依頼の参加者はパフ、コテツ君、モニカ君、リリアン君の四人と決まった。作戦名は『伯爵令嬢作戦』だ。潜入にあたっては、実際の令嬢であるリリアン君のお供に扮した三人という形をとる。パフは馭者、モニカ君は侍女、コテツ君は護衛という役割りだよ」

 おおっ! これは素晴らしいんじゃありませんか? 全員お友だちだけでのパーティは初めてですよっ。
 なんだかワクワクしてきましたね!

「作戦内容はドッグランとパラピール王国内貴族との関係を調査する事だね。ギルド本部からの現地諜報員がすでに調査を開始しているのだが、証拠は何も掴めていないんだ。そこで伯爵令嬢であるリリアン君の人脈を駆使して、疑わしいとされる貴族たちとのドッグランの活動証拠を掴んで欲しい」

 相変わらずレーガンさんの言うことは、長い上に難しすぎてちんぷんかんぷんですねえ。まあモニカさんとパフさんがわかっていれば問題ありません。
 オレとリリアンさんは二人の番犬ってところでしょうしね。

「だが無理はしないでくれ。無理してドッグランに怪しまれては元も子もないからね。むしろ今回は証拠を掴む為の下準備くらいでいい。潜入調査は繰り返しする事になるだろうからね」

「という事はレーガン様、潜入調査をする度に我々は報酬を頂けると考えてよろしいのですか?」

「うん、モニカ君の言う通り。一次二次と潜入調査を繰り返せば、その都度報酬は出るよ。とはいえ無駄に長引かせる様な事はしないでくれたまえよ?」

「もちろんで御座いますわっ! うふふ、それでも支部長だった頃の年収は軽く超えちゃいそうッ! ウヘヘ」

「それから潜入ルートについてだが、パフが持ってきてくれた地図を見て欲しい。パラピール王国は我が国の北に位置する隣国だね。ドッグランの本拠地は国境を守るゴリスロン辺境伯爵領のどこかにあるようだ。このゴリスロン辺境伯はパラピール王国でもかなりの武闘派で、領地も大きい。おそらく彼を中心とした貴族の派閥が最も疑わしいだろう」

「リリアンはそのゴリスロン辺境伯ってご存知なのかしら?」

「いや知らん。私の家は王都に近いから、田舎貴族とは親交がない。だが……。あの憎いスコムチン伯爵家とゴリスロン辺境伯は親戚同士だったはずだ」

「まあっ。あなたの旦那の実家の! となるとつては作れそうですわね、これはラッキーですわよっ」

「何がラッキーだっ! 不吉にもほどがあるだろッ! それに旦那いうなっ」

 名前が一杯でてきていますが、こんなの憶えられるわけがありませんね。
 てか面倒くさくて憶えたくないです。

「まあ現地での作戦は君たちに任せるので、とりあえずは潜入ルートの話を続けよう。リリアン君がいくらパラピールの貴族とはいえ、我が国から真っ正直に国境を越えてきたら当然警戒されてしまう。なのでパラピール東部に隣接する獣人たちの自治領から潜入しようと思う。幸い君たちは犬人族の姫と面識があるだろ? 彼女からの支援を受けて内密にパラピール王国へと入ってくれたまえ」

 まあこんな感じでレーガンさんの長話が続くのですが、オレがもう少しで睡魔に敗れると思った頃にようやく解放してもらえたのでした。
 その後は潜入準備とかでオレたちは別の部屋へと連れていかれ、衣裳合わせという拷問をうけたのですっ!

 ただでさえイヌのオレは服を着たくはないというのに、ゴテゴテとした服を無理やり着せられてもう泣きそうですよ……

「わあ、コテッちんカッコいいよお! 銀色の胸当てと籠手を着けて戦士みたい。腰にいた剣も背中のマントもよく似合っているなあ、惚れれしちゃうよお」

「いやパフさん、こんなの邪魔で窮屈なだけで最悪ですッ! むしろパフさんの服の方がラクそうで羨ましい。とくにその半ズボンがいいですねっ」

「あたいは馭者だからねん。てかやっぱ武闘家のコテッちんは軽装の方がいいんだね」

 しかしオレよりも泣きそうな人がもう一人いたのでした。いやもうすでに泣きながら怒っていますね。

「何でこんなヒラヒラしたドレスを着なくちゃならんのだッ! コルセットで息ができんっ、しかも何だこの縦ロールの髪型はっ! 私を馬鹿にしてるのかッ!?」

「ちょっとリリアン落ち着いて! だいたいあんた昔はそういう格好で生活してたんでしょ? いまさら何の文句があるって言うのよ、我慢なさいっ!」

「うるさいモニカっ! 私は昔からドレスなんか大嫌いだったんだ。ええい脱ぐぞっ! こんなの着るくらいなら真っ裸でいる方がマシだッ!」

「こ、これは駄目だわ……真打ちを登場させなければっ! コテツさんお願いいますっ、コテツさんが褒めればリリアンの気も変わるはずなのでっ!」

 そんなのゴメンですね。むしろオレはリリアンさんの味方になって一緒に真っ裸になりたいのですが!?

「イヤです。リリアンさんの気持ちを考えると、オレにはそんな可哀想な真似はできませんっ! 真っ裸大賛成ですねッ」

「コテッちんてば、優しいっ!」

「パフさん、当然のことですよ。ツラい思いをしているお友だちを見捨てることは出来ませんからね!」

「い、いいですわコテツさん。協力して頂けたらコテツさんは今までと同じ服に槍を持つだけで許して差し上げますわッ!」

「ご協力いたしましょうっ!」

「コ、コテッちん。簡単に見捨てちゃってるんだケド……」

 不思議なことにオレがリリアンさんの拷問服を褒めた途端、リリアンさんは急に怒るのを止めて上機嫌になりました。
 一体なぜあんなにイヤがっていたのか謎なほどです。

「クルクルクルー。フワフワフワー。うふふ、見て下さいコテツ殿、私ってばお姫様の様ではありませんか?」

「そうですね! とってもその拷問服がお似合いですよリリアンさん」

「ちょっ、コテッちん。拷問服じゃなくてドレスだよお!」

「そうでした、ドレスです!」

「ふぅ……。何はともあれ良かったですわ。それではみなさん、パラピール王国に入ったらその格好をして活動して頂くのでよろしくお願いしますね」

 モニカさんはすっかりオレたちのリーダーになって仕切っていますね。
 そこはかとない威厳さえ感じます。

「ねえコテッちん。侍女の格好をしているモニカさんって、お局様みたいな逆らえない雰囲気があるよね……」

「あのお方に逆らうと恐ろしい呪いをかけられてしまいますよ。すごい呪術師なのでパフさんも御用心ください!」

「ひぃっ! こわいよお……」


 ◇*◇*◇*◇*◇



 冷たい風に混じった微かな春の匂いが、懐かしいタリガの町に吹いています。
 泥と雪で歩きづらいと文句を言っているリリアンさんの横で、遠くにみえる無人のギルド支部をモニカさんが見ていました。

「コテッちんたちは、前にこの町で冒険者をしてたんでしょお? やっぱ懐かしい?」

「ですねパフさん、そんな気がします」

「それにしてもこの町から獣人の自治領って、ホンと目と鼻の先なんだねえ。でもコテッちんはまだ行った事ないんだよね?」

「はい、初めて行きますよ。元気にしていますかねえ、アジェルさんは」

「アジェルさんって?」

「アジェル姫。我々がこれから会いに行く獣人、犬人族のお姫様の御名前ですわ」

「おいモニカ、そんな事よりお腹がすいたぞ。あの息子が出て行った可哀想なばあさんの食堂で、何か食べようじゃないか!」

「いいですねリリアンさん、オレもお腹がペコペコです!」

「そうですわね。時間も丁度いいですし、昼食にしましょうか」

 オレたちがおばあさんの食堂のドアの前に立った時でした。オレはなんだかとても不思議な気持ちになったんです。
 ちょぴり胸が苦しくなるような、だけどホッとして和らぐような。そんな不思議な気持ちに──

 ご主人様に会いたいな。

 突然そう思ったオレはご主人様の匂いを探してみたのです。しかしどこにもご主人様の匂いはありませんでした。

 だけどなんでだろう?

 オレはなぜだかご主人様にもうすぐ会えるような、そんな予感がしたのです。

  
〈第三章 柴イヌ、出世する 完〉
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