柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

文字の大きさ
上 下
51 / 53
第三章 柴イヌ、出世する

第五十一話 パフとの仲直り

しおりを挟む
 はぁ、ションボリ……

 ご主人様が居るかもしれないヤイーズの港町に来ているオレは、結局そこにご主人様が居なかったことで激しくションボリしています。

 一緒に来たレーガンさんやパフさんたちも、オレほどではありませんがションボリしているようです。
 特にレーガンさんは珍しく悔しい匂いを強くさせていました。

「くそっ! これでまた振り出しかッ」

「仕方ねえよレーガン。ボルトミ捕縛作戦は成功して、王国からの依頼は達成できたんだ。今回はそれで良しとしようじゃねえか」

「……むぅ。まあそうだな、バウワーの言う通りだ。少々俺は欲深くなってしまったようだね」

「気持ちは分かるぜ。しかし俺たちならいつか必ずドン・キモオタを捕まえられるって、そうだろ?」

「ああ、必ずなっ! よし、では王都へ撤収しようか。パフ、屋敷内の捜索は終わったんだったね?」

「うん、隠し部屋とかも探してみたけど、結局この屋敷には何も残っていなかったよ」

「分かった。ありがとう」

 こうしてオレたちはすぐに王都へと戻ることになりました。
 オレとしてはご主人様の残り香を吸い込んだまま、この懐かしい感じのするヤイーズを散歩したかったのですがね。

 しかも王都へ戻ったら今度は会議とかいう集まりに強制参加です。
 せめて部屋でふて寝しようと思っていたのに、ほんとこの人たちには動物愛護の心を学んで欲しいと思いますよ!

 まあいいです。この会議室の床でふて寝をしますのでっ。

「こ、コテツ君。そろそろ会議を始めたいので、寝るのはやめて席に着いてくれると嬉しいのだが……」

「レーガンさん、オレのことはどうぞお構いなく!」

「ちょっと貴方っ、失礼にもほどがありますでしょッ! レーガン殿、この女たらしはもう一度牢にブチ込むべきですわッ! イケメンだからって図に乗りすぎですっ」

「いやミネルバ、何の罪でだね……」

「もちろん女性侮辱罪です。この女たらしがしたパフへの仕打ちは、許される事ではありませんっ!」

「やめてよミネルバっ! あたいそんなこと頼んでないよ。それに女性侮辱罪なんて法律、王国には無いじゃん」

「パ、パフがそう言うのでしたら、私はいいのですけれど……」

「けどコテッちんも真面目にして! あたいたちはこれでお金貰ってるんだから、冒険者としてちゃんとしなよねっ」

 ご、ごもっともでこざいます……
 オレは無様な駄犬のようになっていた自分を反省しました。ツラくとも仕事をやりのけるのが名犬の条件でしたね!

「パフさん、こんなオレを叱ってくれてありがとうございます!」

「…………」

 パフさんからの返事はありませんでしたが、気持ちは届きました。なのでちゃんと椅子に座ったのですが……
 レーガンさんの長くて難しい話は相変わらず退屈で、すぐに睡魔との戦いが始まってしまいアクビが止まりません!

 それでも隣に座るパフさんがチラチラとオレを見てくるので、何とか頑張って真面目に起きていたのです。

「そういうわけでボルトミの研究所から押収した証拠と彼の証言によって、ドン・キモオタの拠点は王国内にまだ七ケ所あることが判明したんだ。その内の二ヶ所についてはおおよその場所も分かっているから、監視部隊を直ちに編成して送り込む手筈になっている」

 うーん、ヤバいです。いよいよこのレーガンさんの長話に耐えられなくなってきてしまいました。
 ウトウト……

「それから謎の多い組織であるドッグランについてだけど、驚くことにドッグランに吸収された各犯罪組織は大小合わせて三十八にもなるらしい。つまり現時点でドッグランは、王国内の犯罪組織のおよそ八割を吸収した事になるね」

「マジかよ……。じゃあもしドッグランが本気で王国に牙を剥いたら、そりゃ戦争ってことになっちまうのか!?」

「そうだね、そうなったらもはや冒険者の手に負える話ではなくなるね。王国の軍隊を総動員しての酷い内戦になるだろう」

「そりゃ洒落にならねえな……」

 バウワーさんの声がなぜか子守唄のように聞こえます。
 グウグウ……

「しかもだ。ドン・キモオタは我らの王国のみならず、隣国にまで手を拡げ始めているらしい。そうなるとドッグランの勢力はますます拡大されて──」

「ちょっとコテッちん、寝ちゃダメだよお、起きなよおっ」

 ハッ! オレはパフさんに肘で突っつかれて目が覚めました。
 危ない危ない、またレーガンさんに怒られるところでしたね。

「パフさん、またまたありがとうございます!」

「えっと、べつに……」

「だからこそ戦争のような悲劇を招く前に、我々の手でドン・キモオタを捕縛もしくは抹殺しなくてはならないんだよ。首領を失ったドッグランは間違いなく内部抗争を始め、組織を瓦解させるだろうからね」

「だなっ! 悪党たちにとってのお決まりの筋書きだよな。よしっ、ドン・キモオタをぶっ殺そうぜっ!」

 なんかとんでもないことをバウワーさんが言ってますねっ!
 もし本気でご主人様を殺そうとしたら、オレが逆に皆殺しにしますッ! あ、お友だちのパフさんは別ですが。

「そういうわけでSランカーの俺たちは、これからも休む間もなく働くことになると思う。大変だろうが王国の平和を守る為にお互い頑張っていこうじゃないか!」

「おう、任せておけっ!」

「ごっつぁんですッ!」

「もちろんですわ。この世から女の敵は全て排除いたしますッ!」

「あたいも頑張るよん!」

「お断りします!」

 オレがそう言った途端でした。みんなが一斉にオレを睨んできたんです。しかも強い軽蔑の匂いをさせて!
 でもそんなこと知ったことではありませんね。

「コ、コテッちん……」

「な、なんという破廉恥な! この全女性の敵はやはり牢屋にブチ込むべきですっ!」

「まあまあミネルバ、コテツ君は少々変り者のようだから……」

「いやレーガン、今のはないぞ?」

「ごっつぁんですっ!」

 てかだって、そもそもの約束はおネエさまの捕縛作戦の参加だけでしたよね?
 なんでオレまでご主人様をぶっ殺さなくちゃならないんですか。そんなの絶対にイヤに決まってますよっ!

「なあコテツ君。君の気持ちも分からなくはないんだ。そもそも冒険者とは自由な生き方を選んだ者がなる職業だからね。王国が滅びて犯罪組織がそれに替わったとて、自分の自由が守られれば正直どうでもいいのかもしれない。むしろそれを非難される謂れは無いと思うだろう」

 まーたレーガンさんは難しいことを言ってますね。何かの病気でしょうか?

「だがね、俺たちはもはやただの冒険者ではないのだよ。Sランクの冒険者なんだ。王国でも十人とはいない破格の力を持った存在になってしまったんだ。その力を持つ者は己の意志とは無関係に、力を持たざる者への責任が生まれる。つまり破格とはそういうものなんだ」

 そういうものと言われましても、まったく意味不明です。

「分かるねコテツ君。Sランカーになったばかりで戸惑いも多いだろうが、すでに君は破格の存在であるんだよ」

 そもそもハカクって何ですかね? でも聞いたらまたレーガンさんの長い話が始まりそうですし……
 とりあえず知ったかぶりで賢いイヌのフリをしておいて、後でリリアンさんかモニカさんに聞いておきますか。

「そうですか。オレはハカクなのですね」

「そうだね、分かってくれた様で俺も嬉しいよ。ではこれからも皆で力を合わせて、この王国を守っていこうじゃないか」

 王国だかなんだか知りませんが、正直どうでもいいです。勝手にみなさんで力を合わせてください。
 だいいちオレはみなさんより先にご主人様を見つけるので、そしたら冒険者ともオサラバです。

 そしたらまた飼いイヌに戻って、ご主人様との幸せな生活が始まります! ああ、待ち遠しいっ!


 
「──ではドン・キモオタおよびドッグランに関する新たな情報によって作戦が更新されるまで、各自で備えを怠らないように。以上だ、みんなご苦労様」

 ふぅ、長かった会議もようやく終わりました。ご主人様を殺すとか言うので帰ろうかと思いましたが、パフさんに真面目にしろと叱られたので我慢したのです。

「ね、ねえコテッちん。あのお……。途中まで一緒に帰らない、かな?」

 なんと! 嫌われているはずのパフさんからのお誘いですっ。これは嬉しいですねえ。
 会議の途中で帰らなかったオレへの御褒美でしょうか?

「はい! もちろんお供しますっ」

 オレとパフさんはブラブラとお散歩をするように一緒に歩きました。
 出来ることなら首輪にリードをつけて、パフさんに引いて欲しいくらいオレの心はウキウキです。

「コテッちんはこの先の宿屋に泊まっているんだっけ?」

「はい、リリアンさんとモニカさんと同じ部屋に泊まっています」

「お、同じ部屋、なんだ……」

「その方が安上がりだそうですよ」

「そっか……。あのね! あのぉ。私ね、コテッちんとお話したい事があるの」

「なんなりとお話しくださいっ!」

 しかしパフさんはすぐには話さずに、少し無言で歩いていました。
 やがて噴水のある広場のようなところまで来ると、急にモジモジしだしたものだから、オレはパフさんにきいてみたんです。

「オシッコですか?」

「ちっ、違うよおッ! えっとね、あのね。この前さ、コテッちんは私のこと、恋人だって言ってくれたけどお。リリアンさんとモニカさんのことも恋人だって言ってたでしょ?」

 そんなこと言いましたっけ? まあ恋人ってのがイマイチよくわかりませんが、言ったかもしれませんね。

「でもね、それって変だと思うの。恋人ってさ、将来夫婦になりたいと思う大切な人のことじゃん? だからそういう人って本当は一人のはずじゃん? なのにコテッちんはあたいとリリアンさんとモニカさん、三人とも恋人だって言ってて……」

 ええっ!? 恋人って将来夫婦になる相手のことだったのですかっ?
 し、知りませんでした。オレはてっきり大事なお友だちと大体同じような意味かと思っていましたが、これは大変な勘違いをしていたようですね!

「そ、それはいけませんッ! イヌは一夫一婦制でそのつがいと一緒に家族を守るものです。もちろんずっと同じ番でいるとは限りませんが、番が同時に何匹もいるのはあり得ませんよッ!」

「そうだよねっ! あり得ないよねッ!」

「はい、恋人が番になる相手のことを意味するのなら、オレにとっては一匹だけです」

「だよねっ! だよねっ! そっか、コテッちんは恋人と大事な友だちを同じものだと勘違いしてたんだね! じ、じゃあさ。大事なその友だちの中から、これから恋人を見つけるってコト? そ、それとも恋人は、も、もういるの?」

「恋人はまだいません! てかまだ番のことは考えてもいませんからね。でも将来オレも立派なオスイヌとして家族を作らねばなりませんので、その時選ぶ番は当然大事なお友だちの中から選びます。もちろん一匹だけですよっ!」

「!! ってことはコテッちん。あ、あたいもこの先に恋人になれる可能性が、あるってコト、かな?」

「もちろんですともッ!」

「やだもうっ、ちょー恥ずかしいッ! コテッちんのバカバカバカーっ!」

「ええっ!?」

 なぜだかパフさんはオレを馬鹿だと罵倒しています。それなのに何だかとても嬉しそうなんです──
 まったくわけがわかりませんね。でもそのパフさんが仲良しだった頃のパフさんと同じ匂いをさせていたことに、オレはとってもホッとしたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...