柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

文字の大きさ
上 下
44 / 53
第三章 柴イヌ、出世する

第四十四話 野伏のパフ

しおりを挟む
「パフさんはあの魔獣さんたちが見えていますか?」

 オレが指差した森の中をパフさんは目を凝らしてじっと見ています。

「んー、まだ見えないなあ。けど魔獣の気配は感じるね、それもかなりヤバい気配! ねえコテッちん、奴らに見つかる前に仲間の居る場所に戻ろ?」

「それは無理そうです。魔獣さんたちにオレたちはもう見つかっていますからね。ガッチリ四匹で囲まれていますよ!」

「そうなの!? てか、なんでコテッちんには見えるのさ! マジすごいんですけど」

「見た感じはオレの大キライなネコにそっくりな魔獣さんですね。しかもすっごく大きいブサネコです」

「うっそ! それって魔爪を持つ凶悪な猫魔獣のキャスパリーグじゃない? ちょーヤバい奴らだよッ!」

 ほう。やはりネコでしたか! 悪いネコなら心置きなく懲らしめてやれますね。
 もしオレとパフさんに襲いかかってきたら容赦はしません!

「レーガンさんに言われた通り、オレがパフさんを守りますんで心配いりません。てか奴らやる気満々ですよ! 腹立つわあ」

「あっ!……いま私にも見えた。ほんとにキャスパリーグだ! 素早く動いて毒のある魔爪で抉ってくる危ない奴らだよ? Sランカーでも一人で四匹は難しいよ。ましてやBランカーのコテッちん一人じゃ絶対倒せないよ、だから私も戦うよ!」

「フン、あんなネコどもオレ一人で十分です。だからパフさんはこの場所から動かないでくださいね」

「で、でもっ!」

 見れば見るほど憎たらしい顔ですね。ネコのくせしてオレより大きいし、威嚇してくるのもムカつきます。

「おいネコども! お前たちはイヌのオレと本気で喧嘩するつもりか!」

「シャーッ! 喧嘩じゃないシャーッ、殺すっシャーッ!」

「何がシャーッだ、ネコならニャーと言え! てか殺すとか生意気ですね、お前たち全員死亡決定なっ!」

「シャーッ! お前犬人族か? 犬は大嫌いだシャーッ!」

「オレだってネコは大嫌いだっ! それからオレは柴イヌな、憶えておけッ」

「こ、コテッちん? 魔獣と話せるの?」

「はいパフさん。あの間抜け面したネコどもはオレたちを殺すとかほざいていますよ、笑っちゃいますよね! あっはは」

「ええっ? 笑い事じゃないよ!」

 ところで化けネコどもの毛が針のように尖ってて痛そうです。
 念のためイヌの牙をつけてお口をガードしておきますか──カチリ。

「シャーッ! とりあえずあの犬野郎から殺すっシャーッ! 全員同時に跳びかかって切り刻むっシャーッ!」

 ぷっ、馬鹿な奴らめっ。お前らネコどもの性格はお見通しなんですよッ!

「性悪な化けネコなんかにイヌであるこのオレが騙されるわけないだろっ!」

 すると案の定オレを殺すと息巻いているネコ以外の三匹は、パフさんに襲いかかってきました。ほんと性格悪いですね。
 なのでオレはパフさんを抱きかかえて大きな木の上へと跳び移ります。

「コテッ!? きゃあーッ!」

 オレは驚いているパフさんを木の枝に置くと、すぐ下で馬鹿のようにネコパンチを空振りさせているネコへと急降下しました。

「き、消えたっシャーッ?」

「こっちです! てかニャーと言え!」

 オレを見上げた一匹の化けネコは、その瞬間にオレに首筋を噛み千切られて死亡です。
 そのお隣にいた化けネコもオレに振り向いた途端、息を飲む間もなく首から血を噴いて死亡しました。

 こいつら化けネコに比べると、ホークンの街にいたニャンキチはかなりまともなネコでしたねえ。
 今ごろ何をしているのでしょう。元気にしているかなあ?

「シャーッ! に、二匹死んだっシャーッ! 一体何が起きたっシャーッ!」

「別に何も起きていないですけど?」

 オレは一番威張っている化けネコの後ろに回ると、首筋近くに顔を寄せてそう答えてあげました。

「イヌがネコより強いのは当たり前なので、こうなる結果は最初からわかっていたことですね。違いますか?」

「シャッ!? な、なんでそこにお前は居るっシャーッ!!」

 ガブリッ──はい終了です。

「こ、コテッちんっ! 一匹逃げたよッ! そいつ逃がすと仲間を呼んできて不味いかもだよッ!」

「逃げたネコは逃がしてやりましょう。戦う気のない奴を殺すのは可哀想ですからね」

「け、けど……」

「仲間を連れて来たらまた戦えばいいんてすよ。心配いりません!」

「そ、そっかあ。コテッちんは強くて……。優しいんだね」

 するとレーガンさんたち四人の匂いが、オレたちに近づいてくるのがわかりました。とても急いでいるようです。

「おーいパフーっ、無事かあーッ!」

「あっ、バウワーさんだ! バウワーさーん、こっちは無事だよおーッ!」

 パフさんは合流した四人に何が起きたかを説明しています。
 その間オレはごっつぁんですさんから水をもらって口をすすぎ、気持ち悪い化けネコの血をキレイにしました。

「まあコテツ君ならそれくらいやってのけるだろうな」

「レーガンさんは驚かないんだ。あたいなんかめっちゃ驚いたのにい!」

「正直コテツ君の実力はトップクラスのSランカーと同等かそれ以上だからね。もしかしたら俺より強いかもだ」

「ウソっ!?」

「レーガン殿、それは過大評価というものです。確かにキャスパリーグは恐ろしい魔獣ですが、三匹倒したくらいでその評価を与えるのはどうかと」

「まあミネルバ。とりあえず二人が無事で良かったじゃねえか。偵察の戻りがあまりにも遅せえから心配したぜ」

「ごめんねバウワーさん。今回はコテッちんのおかげで命拾いしたよお」

 その後オレたちはまた森の真ん中を目指して歩き始めました。パフさんは一段と用心深くしているようです。
 けど、おネエさまの匂いのする所からは離れていっているんですけどね。

「……ねえコテッちん。さっき言ってた事って本当なの?」

「何がですか?」

「ボルトミの研究所がこっちの方角じゃないって事……」

「別の方から匂いがするのは本当ですよ。もっとあっちの方です」

「それって、信じてもいいのかな?」

「どうですかねえ? おネエさまの匂いは確かにしていますが、探しているところとは限りませんし」

「ハァ、なんか野伏としての自信なくしちゃうなあ。なんでコテッちんにはそんな事がわかっちゃうの?」

「それはオレがイヌだからですね」

「もうっ! からかわないでよ、コテッちんの意地悪……。キライ!」

 はて? オレの何が意地悪なのでしょうかね。嫌われる理由もさっぱりです。
 でもパフさんからは怒った匂いはしてきませんし、むしろとても好意的ないい匂いがしていますが。

「けど、コテッちんの言う事を信じた方がいいって、あたいの直感は言ってるんだよね。夜営地を確保したら戻ってレーガンさんと相談しよっか?」

 その日の夜にレーガンさんたちはパフさんと話し合いをしていました。
 ミネルバさんはオレのことを信じていなかったようですが、結局オレが嗅ぎつけたおネエさまの匂いを目指すことに決まったみたいです。

「コテッちん、見張りご苦労様。あたいと交代の時間だよお」

「了解ですパフさん──ガリガリ」

「って、なに食べているのさ!?」

「さっき食べた肉の骨ですよ、おやつには最高なんです。パフさんも食べますか?」

「あ、あたいはいいや。ありがとねん」

「そうですか。あっ、そうだパフさん! オレとお友だちになりませんか?」

「えっ? うん! それは嬉しいなあ、友だちになろうコテッちん」

 パフさんはとても優しくていい人です。どことなく顔がコーギーにも似ていて、とても好感がもてます。

「あらためてそう言われると、なんか照れちゃうな、エヘヘ」

「では、お友だちの儀式をしましょう!」

「儀式? それってどうするの?」

「お互いの匂いを嗅ぎあって、色々な情報を共有しあうのです」

「に、匂いを嗅ぎあうのぉ!?」

「そうです。まずはオレからいきますね!」

 オレはいつものように股間の間に鼻を突っ込んで、パフさんの匂いを嗅ぎました。
 クンカクンカ……

「ちょーッ! こ、コテッちんっ、い、いきなりこんなの駄目だよぉッ!」

 ふむふむ、なるほど……クンカクンカ。

「あ、あっ、あっん、だ、駄目だって!」

 駄目とパフさんは言っていますが、匂いからは嫌がっている匂いはしてきません。
 健康状態は良いようですね。肉より野菜が好きなようです。あと見た目よりずっと長く生きてますね。それともう治っていますが昔にたくさん怪我をしています。オレとの相性もいいみたい。

「ハァハァ……。こ、コテッちん……」

 だいたいパフさんの情報はわかりました。なので今度はオレのことをパフさんに知ってもらいましょう。
 それにしてもパフさんは何でこんなにくったりしているのでしょうかね?

「パフさん大丈夫ですか? 次はパフさんの番ですよ、オレの匂いを嗅いでください!」

「えっ!?」

 パフさんが匂いを嗅ぎやすいように、オレはお尻をくいっと突き出してあげました。

「どうぞっ!」

「ど、どうぞって……。ええっ? じ、じゃあちょっとだけ……。スン」

「ち、ちょっと、お待ちなさいッ!」

 おや? さっきから這いつくばってオレたちをこっそり覗いていたミネルバさんが、いきなり怒って現れました。
 変ですね? 今まで喜んで見ていたのに急に怒りだすなんて。

「あ、あ、あ、貴方たちっ! そこで一体なにをなさっているのッ! は、破廉恥にもほどがありますッ!」

「うわっ!? ち、違うんだよミネルバ! こ、これは破廉恥とかそういう事じゃなくて、友だちになる為の儀式? なんだってコテッちんが……。で、いいんだよね? たぶん……」

「しどろもどろなのが怪しいですね! というかさっきから見ていましたけど、貴女は歓喜の声をあげていたじゃないですか! ズルい……。じゃなくて不届き千万ですッ!」

「さっきから見てたの? じゃあミネルバは隠形の魔法まで使って覗いていたの!? それってちょっと酷くない?」

「の、覗いていたのではありませんっ! わ、私はコテツ殿を監視していたのですッ!」

「ほんとかなあ……」

「と、とにかくっ! パフ、貴女はこの女たらしにもっと警戒するべきです。いいですね、私は忠告いたしましたわよッ!」 

 ミネルバさんはぷりぷりと怒りながら帰って行きました。一体何がしたかったのかまったく意味不明です。

「ミネルバがごめんねコテッちん、嫌な思いしなかった?」

「オレは全然問題ありませんよ! それよりパフさんが怒られていたみたいですけど大丈夫ですか?」

「うん、あたいは大丈夫だよ。ところであたいたち、これで友だちになれたと思っていいの、かな?」

「はいっ、オレたちはもうお友だちです!」

 するとパフさんは、はにかんだ笑顔をオレに見せてくれました。

「エヘヘ……」

 なのでオレは儀式の締めくくりとして。

「!!」

 パフさんの口をペロリと舐めたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...