柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

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第三章 柴イヌ、出世する

第四十一話 何でこうなった?

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 何でこうなったのでしょうか?

 レーガンさんたちにオレとご主人様の関係を全部話したら、なぜだか檻に閉じ込められてしまいました。

 ここはまるでイヌたちにとって悪名高い、あの恐ろしい保健所の収容施設のようです!
 ま、まさかオレは野良イヌと間違われて殺処分にされるのでは……

「だ、誰か聞いてください! オレは野良イヌではありませんッ! ご主人様の飼いイヌなんですッ!」

「うるさいぞっ! お前は馬鹿か? ドン・キモオタの飼い犬だからこそ、お前は投獄されているんだろうがっ」

 はて? 飼いイヌだから殺処分されるとか意味わからないですね。

「あ、でもオレ、冒険者ギルドの登録証も持っていますよ! これって保健所の登録証と同じものですよね?」

「保健所ってなんだ? 我々冒険者ギルドはすでにお前の登録を抹消しているわ! ドッグランからのスパイのくせして、ほんと厚かましい奴だっ」

「なんですかスパイって?」

「こいつ……とぼけるなッ!」

 うーん。何でこの人は怒っているのでしょうかねえ。まったく人間は意味不明です。
 とにかく殺処分する気満々なのはわかりましたので、やはりご主人様を呼んでもらうしかないようです。

「じゃあご主人様をここに連れて来てください! そうすれば万事解決ですよ」

 すると槍を持っている二人の男の人が、ゲラゲラと笑い出しました。

「こいつ本当に馬鹿だわ。ドン・キモオタの居所が分かれば苦労しないってえの!」

「えっ? みなさんはご主人様のことを知っていると言ってたじゃないですか!?」

「はぁ? そりゃ俺たちギルド本部精鋭部隊のような一部の人間にとっては、ドン・キモオタはかなり有名な犯罪者だからな」

「ってことは、ご主人様のお知り合いでは無いんですか?」

「当たり前だろ! だからお前からドン・キモオタの居所を聞き出すための厳しい取調べを、これから始めるんじゃねえか。覚悟しやがれ!」

 がーん。なんてことでしょうかッ!

 ここの人たちはご主人様とは無関係で、しかも居所もわからないってことですよね?
 つまり、ここにいてもオレはご主人様とは会えないってことですか!? そんなのってがっかりすぎでしょッ!

「はぁ……仕方ありませんね。じゃあこんな檻の中で無駄に待っている必要もないんで、オレは帰ります。殺処分なんて絶対にイヤですし」

「ああ? 帰るだと? どうやって帰るつもりだよ!」

「こうやってです」

 オレは檻の鉄棒をデキるオスモード全開で噛み切って、悠々と檻の外に出てきました。ギルドに恩を売ろうと頑張ったのに無駄骨でしたねえ。

「それではみなさん、さようなら」

 ポカンと口を開けたままオレを見ている男の人たちに、躾のいい飼いイヌのオレは一応挨拶だけはしておきました。

「ちょ……、ちょっと待てえッ!」

「なんでしょう?」

「な、なんでしょうじゃねえッ! 脱獄なんかさせるかよッ!」

 槍をオレに向けて急に強い暴力的な匂いをさせてきたこの人たちは、どうしてもオレを殺処分にしたいようです。
 でもお断りですね。なので容赦なくイヌパンチをお見舞させましょう!

「イヌパーンチッ!」

「ばべぼっ! ぐべばっ!」

 オレは二人が気絶しているのを確認すると、部屋を出てリリアンさんとモニカさんを捜しました。
 匂いからして近くにいそうですね。

「リリアンさーん、モニカさーん、もう帰りましょーう」

「だっ、脱走か!? こいつ捕縛しろッ! 非常ベルを鳴らせッ!」

 ん? なんか槍を持った人たちがたくさん集まってきて、オレに酷い敵意の匂いをさせていますね。
 てか、襲いかかってきましたよ! だんだん腹が立ってきましたね、邪魔するのなら全員イヌパンチですっ!

「イヌパーンチッ!」

 オレは次々と襲いかかってくる男の人たちを、イヌパンチで気絶させ続けました。
 するとリリアンさんの匂いのする部屋から、リリアンさんが飛び出してきたんです。
 拳に血がべっとりついているのは見なかったことにしましょう。

「コテツ殿ッ! ただいま加勢を! って、おや? この屍の山はコテツ殿が?」

「リリアンさん、しかばねって何ですか?」

「死体の事です! 流石はコテツ殿っ」

「いや、死んでないですし……。てか、オレもうここに用はないみたいなんで一緒に帰りませんか?」

「無論です、こんな不愉快な場所には私も居たくはありません! ところでモニカは?」

「モニカさんならその先の部屋にいるみたいですよ。あ、ちょうど出てきました」

 でもモニカさんより早くに二人の男の人が、顔色を青くして飛び出してきたようです。

「うわあっ、漏れるうッ! べ、便所はどこだあーッ!」

「オホホホ、呪詛『便意に御用心』ですわ。お急ぎなさいませ! オホホホ」

「モニカ……。恐ろしいヤツ!」

「モニカさん、一緒に帰りませんか?」

「ええ、コテツさんの声が聞こえましたので、そのつもりで参りましたわ。でもどうやって脱出しましょうか? この非常ベルで本部中の警備兵が集まってきそうですけれど……」

「押して参るのみだッ!」

 リリアンさん、やる気満々ですね! まあ、確かにそれしかないでしょう。

「オレのイヌパンチで全員気絶させていきますね!」

「では殿しんがりは私が受け持ちましょう」

「ちょっとリリアン、あんた剣を取り上げられてて丸腰なんだから無理しないでよ?」

「この拳があれば問題ない! 今こそコテツ殿直伝の哀しき犬の技を披露してくれようぞっ! わっはは」

 オレは頼もしいお友だちの二人と共に、次々と現れる槍を持った男の人たちをイヌパンチで仕留めていきました。
 前に戦ったオークさんやウルクさんたちより弱いので、全然余裕です。

 かなり出口に近づいた頃です。レーガンさんの匂いがしてきたので、オレは用心のために立ち止まりました。

「リリアンさんにモニカさん。レーガンさんが来たので気をつけてくださいね」

 あの人は結構強いですからね、油断は禁物です。戦いになったらさすがにイヌパンチだけでは倒せそうにありません。
 かといって噛み殺したくもないですし、どうしたものか……

「やあコテツ君。お帰りかね?」

「はいレーガンさん。もうここには用はありませんから帰ります」

「ふむ。ところでいま君が倒した警備兵たちの中に死んだ者はいるかい?」

「いいえ、みんな気絶しているだけです」

「それは良かった。君が殺人犯になってしまうと、我々がいま会議でだした結論が御破算になってしまうところだったんだ」

 レーガンさんからはさっきのような敵意の匂いがしていませんね。でも代わりに何だか腹黒い匂いがしています。
 ご主人様に公園に遊びに行くと騙されて、病院へ連れて行かれた時の匂いに似てるような……。要注意ですね!

「それでねコテツ君。どうだろう我々と取引をしないかい? 君は自分を無罪のように話すが、それを証明する方法を持ってはいないだろう? だから我々はその方法を用意する事にしたんだ」

「無罪って何のことですか?」

「ふむ。やはり君は罪を自白するつもりは無いようだ。ならこの際、過去の犯罪に関しては不問にしようじゃないか。しかし今現在君がドッグランの一員であるなら、それは看過できないのは分かるよね」

 今現在といわれましても、ドッグランでイヌ仲間と遊んでいたのはずいぶんと昔のことなんですが……
 ああ、思いだしますねえ。トイプードルのシナモンちゃんは元気にしているでしょうか。

「だからその方法で身の潔白を証明してもらえるなら、対価として我々は君とリリアン君の冒険者身分の復帰と、モニカ君の懲戒免職撤回を約束しようじゃないか」

「な、なんで私の冒険者身分が剥奪されているんだ!? 横暴だそ、理由を言えッ!」

「そうですわ! 何の証拠もないのに私たちを犯罪者扱いした挙げ句、免職までさせられるなんてパワハラもいいところですッ!」

 ん? まさかオレのせいでリリアンさんとモニカさんに、ご迷惑がかかってしまっているんですか?

「状況的に仕方ないだろ? ドン・キモオタという一級犯罪者の仲間だったコテツ君と、君たちは公私ともにかなり親しい関係なのだから。冒険者ギルドの判断は倫理的にも常識の範疇だよ」

「あのぉ、もしかしてオレのせいでリリアンさんとモニカさんが困ったことになっているのでしょうか?」

「そういう事だねコテツ君」

 それは大変ですっ! 飼いイヌであることの必須条件として、番犬の仕事以外で人様に迷惑をかけてはならないとご主人様に厳命されているんです。
 それが守れないようなら即野良行きだとも……あわわ。

「わ、わかりました! その取引お受けいたしますっ。そうすればリリアンさんとモニカさんが困ることはないのですよね?」

「ああ、潔白だったならね」

「じゃあオレは何をすればいいんですか?」

「そう難しい事ではないよ。俺たちと共にドッグランの重要人物を捕縛して欲しいんだ。君もよく知っている錬金術師ボルトミのね」

「おネエさまを捕まえるのですか?」

「ほう、ボルトミをおネエさまと呼ぶとは、やはり君とは親しかったようだな」

「この前初めて会ったばかりですので親しくはないです。それにオレはあの人がキライですし……」

「その言葉が嘘でなければ良いのだがね」

 失敬な! イヌはウソをついたりしませんよっ。まあ、イタズラがバレた時は知らないフリをしますけど……
 するとモニカさんが珍しく怒った匂いをさせながら、レーガンさんを睨みつけました。

「とんだ茶番ですわねレーガン様」

「ほう、どんな茶番かね?」

「コテツさん、そんな取引に応じる事はありませんわ! コテツさんの証言からだけでは犯罪に加担していた証拠にはなりません。具体的な犯罪の自白ではない以上、ギルドもいずれ拘束出来なくなりますわ」

「それは本当かモニカ!? ならこれは何の為の取引なんだ?」

「本当よリリアン。依頼達成基準はそんなに緩くはないもの。だからギルドは取引を餌にしてコテツさんをボルトミのアジトへ連れて行き、ボルトミの味方をしたと偽って抹殺するんだわ。依頼達成をでっち上げるためにッ!」

「そ、それは騙し討ちじゃないかっ! 卑怯者めッ!」

 ひいっ……。やっぱりオレは騙されているのでしょうか? ま、まさか病院へ連れて行かれるのではっ!?

「い、いや君たちさ。それじゃまるでギルドが悪の組織みたいだよね……。そんな事じゃないんだよ。単純にコテツ君の戦闘力が惜しいから、あえて試金石を用意したんだ。我々としても──」

「黙れっ! ケチで誠意のないギルドの言う事など信じられるかっ!」

「まあまあリリアン、最後までレーガン様の話を聞いてみましょうよ」

「そうして貰えると助かるな。我々としてもコテツ君がドッグランと無関係になっているのが事実なら、戦闘力も高く内部事情にも詳しい協力者を得る好機でもあるんだ。だからボルトミの捕縛作戦への参加で、本当に我々に協力してくれるかを検分したいのさ」

「なるほど。もしコテツさんがドッグランの仲間なら、組織の重要人物であるボルトミをみすみす捕縛させるような事はしないだろうと……」

「そういう事だね」

「なら全然いいですよ! この前も戦いましたし、おネエさまはワンコを悲しませた悪い人ですからね!」

「その話が本当である事を祈っているよ。君を敵にまわしたくはないからね」

 こうしてオレとレーガンさんとの取引は成立したのでした。
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