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第三章 柴イヌ、出世する
第三十七話 死のルーレット
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ああ、人間社会の中で便利で心地よい生活と共に生きることこそ、飼いイヌ冥利につきるというものでしょう!
オレはリリアンさんとモニカさんと一緒に雪原の中を歩き続け、命からがら街へと辿り着きました。
もう二度と吹雪で遭難するのはごめんですっ! そういうのは野良にまかせます。
「ああ~んっ、あっああ~んっ」
「おいっ! 変な声を出すなモニカ!」
「だってリリアン、お風呂があんまりにも気持ち良くて声がでちゃうのよお。ああ~んっ」
「ま、まあ。気持ちはわかるけど……」
ここはどこかと言うと駅馬車のある街の宿屋で、オレたちは遭難の苦労を癒している最中です。
リリアンさんとモニカさんはとにかくお風呂だと言って、真っ先に入っていきました。
「コテツさんも一緒にお風呂に入りましょうよ~。気持ちいいですわよお。なんならもっと気持ちよい事もして差し上げますわ!」
「ほう、モニカはどうやら風呂で溺死したいようだな。いいだろう!」
いやいや、風呂が気持ちいいとかあり得ないでしょ。イヌな大抵風呂がキライだと何度も教えたはずなんですが。
「モニカさん、どうぞお一人で入ってて下さい。オレは風呂には入りません!」
「駄目ですよコテツ殿。モニカが風呂から出たら、もちろん出たらです! コテツ殿も風呂に入って下さいッ!」
リリアンさんが恐い顔していますね。こうなるといつも無理矢理に風呂に入れられるのです……。はぁ。
全員お風呂に入った後、オレたちは宿屋の一階にある食堂でご飯を食べることにしました。
久しぶりのトリプルチーズバーガーは最高で、旅の間は骨と冷凍食品しか食べられなかったオレの心を癒してくれます。
「みなさん! タリガの町のギルド支部長として御提案がありますわ」
「何だよモニカ、あらたまって」
「我々は猛吹雪の中で地獄を味わいましたわ。そしてこれから再び駅馬車の旅という地獄を味わおうとしています。これは人として許される事でしょうか?」
人として? ならイヌのオレには関係のない話ですね。
気にせずバーガーを食べていましょう。モグモグ。
「いいえ許されません! なので我々は都市間転移門を使用するべきだと考えますっ」
「異議なしッ! もちろん料金はギルド持ちなんだろうな?」
「残念ながら自腹ですわ」
「異議ありッ!」
「リリアン却下です。無い物ねだりをしても仕方ありません。そこでみなさん! ここはフェアにゲームで勝負といきませんか? 負けた者が三人分の料金を払うのです」
「はあっ? 三百万キンネをか!? そんな金がどこにあるんだよっ!」
二人ともうるさいですね。ご飯を食べる時は黙って食べるのがマナーです。 モグモグ。
「それがあるのですわ。先日の獣人奪還依頼の成功報酬プラスボーナスで、我々は一人五百万キンネを手に入れたのです!」
「ほ、本当かっ!」
「本当ですわ。リリアンはコテツさんへの借金とギルドへの借金を払っても、ギリギリ三百万キンネが残ります」
「すごい……。い、いやだが! 負けたらまた一文無しになるじゃないかッ!」
「なら勝てばいいじゃない。コテツさんはこのゲームでの勝負をどう思われますか?」
ん? 何のゲームでしょうか。全然聞いてなかったので困りましたね。
まあ適当に返事をしておきましょう。
「とても素晴らしいと思います」
「さ、流石はコテツ殿……。勝負への恐れが微塵もない! な、ならば私も尻込みしている場合じゃありませんなっ。やるぞモニカ!」
「フフ、決まりね。ではみなさん、ゲームは何にしましょうか? クジ? それともジャンケン?」
「手緩いっ! そんな子供の遊びの様な勝負でコテツ殿が満足すると思うか? 命懸けに相応しいゲームをコテツ殿に決めてもらおうじゃないか」
「え? オレですか?」
そんなこと言われても、命懸けのゲームなんて知らないんですけど……
てか何で命を懸けなければならないのでしょうか。リリアンさんは物騒な人ですね。
「コテツ殿、ひとつ危険なのをお願いしますね! あ、でも個人の能力で有利になるゲームは駄目ですよ? 完全に運に依存したゲームが公平でいいです」
これまた難しい注文ですねえ。運まかせで命懸けのゲームとかわけわかりません……。あっ、そう言えば同じようなことをご主人様が言っていた気がします。
『なんだよこの糞ゲーはっ! こんなボスに勝てる訳ねえだろッ。何が死のルーレットだよ、即死技引いたら終わりじゃんか! 運ゲー過ぎるだろ、糞がっ』
テレビの画面に向かって独り言を言いながら興奮していたご主人様が懐かしいです。
その後必ずコントローラーとかいうのを投げるんで、とても危険でした。おそらくあれが危険な運のゲームなのでしょう。
「死のルーレット……」
「なっ! なんでコテツさんがその名をご存知なのですか!?」
ん? モニカさんが顔色を青くして驚いていますね。オレ何か変なこと言ったでしょうか?
「ま、まさかコテツさんは我々に死のルーレットをやれと? お、恐ろしすぎますわ……」
「な、なんだモニカ、その死のルーレットってやつは!」
「それは呪術師が運をもって決定を下す時につかう禁断の呪詛ですわ」
「く、詳しく!」
「リリアン、あんた命知らずね……。いいわ聞かせてあげる。呪詛自体は簡単なものなの、術者の私が私たち三人に順番で呪詛をかけるだけよ。そして呪詛が発動しなかった者が勝ちで、発動された者が負けなだけの運任せなゲーム」
「な、なんだ脅かすなよ。クジみたいなものじゃないか」
「そうね……でも恐いのはそこじゃないわ。何の呪詛が発動されるか術者の私でもわからないところが恐いのよ! もし死の呪いが発動されたり、カエルになる呪いが発動されたら……」
「ゲエッ! そんなの危険すぎるだろッ! てか発動される呪詛がわからないってなんだよ、決めとけよっ」
ええ……。カエルさんになってしまうのは人間になるよりイヤですねえ。
あ、でも、イヌになる呪いとかもあるのかな? いやイヌになるのが呪いってのも不愉快ですが……
「馬鹿なのリリアン。術者の意志が反映されたらインチキができちゃうでしょ。だから術者でさえ支配が及ばない呪詛でなければならないの。それこそが死のルーレット!」
「し、しかし。なんで呪術師はそんな恐ろしいもの作ったんだ?」
「さあ? スリルが好きとか?」
オレはどうしてもイヌになる呪いがあるのかを確かめずにはいられませんでした。
もしあるのなら……。本当に素晴らしいじゃないですか!
「ええコテツさん……。犬になる呪い、ありますわよ……」
「おおっ! ほんとですかッ!?」
「はい……。そして猫になる呪いも……」
「ネ、ネコおっ!?」
くっ……。これは確かに危険なゲームのようです。イヌになれたら幸せですが、ネコになったら死ぬよりツラいですね。
「どうしますかコテツさん。それでも死のルーレット、なさりたいですか?」
「も、もちろんですともモニカさんっ!」
そうですとも。もう一度イヌに戻れるのなら、オレはどんな危険な賭けでも挑戦してみたいです!
「わかりましたわ。では始めましょう、呪詛『死のルーレット』をッ! 最初の人は誰にしましょうか?」
「お、オレからお願いします!」
「コテツ殿っ! な、なんという豪胆さっ! 惚れ直しましたっ。たとえコテツ殿がカエルになっても私の愛は変わりませんからッ!」
うーん、ネコよりはましですがカエルもイヤですねえ。
「ちょっと静かにしてよリリアン、集中出来ないでしょ」
なんか少し緊張してきたなと思ったら、モニカさんが例の不気味な言葉を唱え、カッと目を見開いてオレを見ました。
「コテツさん……。それではお覚悟をッ!『死のルーレットおおっ』──キエーッ!」
「!!!…………」
な、何も起こりませんね。人間のままでイヌにはなっていないようです。がっかり。
「コテツさん、おめでとうございます。セーフですわ」
はぁ、イヌになれなかったのですから、ちっともめでたくありませんが!
「つ、強い! 流石はコテツ殿、強すぎるッ……。よ、よしっ、次は私の番だ!」
「わかったわリリアン、いくわよ」
「ま、待てっ。呪詛というのは例のオナラがブーブー出るやつとかもあるのか?」
「もちろんあるわよ。私たちが選べないだけで、くしゃみをするだけみたいな弱い呪詛だってあるわ」
「そ、そうか! よ、よし、オナラブーブーならどんと来いだっ!」
「あんた負ける気満々ね……。まあいいわ──キエーッ」
「!!!…………」
「リリアンおめでとう。あんたもセーフよ」
「あ、あ、あっ、ありがとーうっ! ありがとーーッ!」
「誰に感謝してんのよ……」
ふむ、リリアンさんもイヌになりませんでしたね。なんだかちょっぴり残念です。
「って、私とコテツ殿がセーフと言うことは、モニカが負けで決定なのか?」
「何言ってんのよリリアン。私がまだ呪詛にかかるとは決まってないでしょ? 私がセーフだったら誰かがアウトになるまで、繰り返し死のルーレットは回り続けるのよッ!」
「ま、マジか……」
なんと! オレにもまだイヌになるチャンスがあるということですか?
よし! 俄然やる気が出てきましたよ!
この後モニカさんもセーフとなり、再びオレにチャンスが巡って来ることになるのですが……
しかし、そのチャンスをオレは七回も無駄にしてしまったのでした。しょんぼり。
「も、モニカっ、ちょっとタイム……。呪詛にかかる前に私は恐怖と緊張で死んでしまいそうだ……。ゼエゼエ。だいたい七回もやってまだ決まらないのはおかしいだろッ!」
「馬鹿ねリリアン。この恐怖と緊張こそが死のルーレットの真骨頂なのよ! これで心臓マヒで死んだ人もいるんだからね」
「ひっ!」
「さあリリアンの番だわ、いくわよっ!──キエーッ」
「待てーーエッ! えっ?……。あッ! あわわわわ、みなさん聞いて下さい! 私には誰にも言えない秘密があるのです。それをどうかみなさんに聞いて欲しいっ──って、な、なんだ!? そんなの話したくはないぞっ?……。私の秘密、って、ちょっとやめろおっ、それは……」
「こ、これって……。呪詛『秘密を聞いて』ですわ! つまり、コテツさんと私の勝ちですっ、やりましたわ!」
モニカさんは嬉しそうにオレに抱きついてきましたが、オレはちっとも嬉しくはありません。
くうっ、イヌになれませんでしたか……
「それは……。ちょっ! モニカ止めてくれえッ……。実は私は……」
「無理よリリアン、諦めて白状なさい!」
「私は……。ひひひ」
「ヒヒヒ?」
「ひ、人妻なんだあーーーっ!」
「………………はい?」
だ、そうです。
オレはリリアンさんとモニカさんと一緒に雪原の中を歩き続け、命からがら街へと辿り着きました。
もう二度と吹雪で遭難するのはごめんですっ! そういうのは野良にまかせます。
「ああ~んっ、あっああ~んっ」
「おいっ! 変な声を出すなモニカ!」
「だってリリアン、お風呂があんまりにも気持ち良くて声がでちゃうのよお。ああ~んっ」
「ま、まあ。気持ちはわかるけど……」
ここはどこかと言うと駅馬車のある街の宿屋で、オレたちは遭難の苦労を癒している最中です。
リリアンさんとモニカさんはとにかくお風呂だと言って、真っ先に入っていきました。
「コテツさんも一緒にお風呂に入りましょうよ~。気持ちいいですわよお。なんならもっと気持ちよい事もして差し上げますわ!」
「ほう、モニカはどうやら風呂で溺死したいようだな。いいだろう!」
いやいや、風呂が気持ちいいとかあり得ないでしょ。イヌな大抵風呂がキライだと何度も教えたはずなんですが。
「モニカさん、どうぞお一人で入ってて下さい。オレは風呂には入りません!」
「駄目ですよコテツ殿。モニカが風呂から出たら、もちろん出たらです! コテツ殿も風呂に入って下さいッ!」
リリアンさんが恐い顔していますね。こうなるといつも無理矢理に風呂に入れられるのです……。はぁ。
全員お風呂に入った後、オレたちは宿屋の一階にある食堂でご飯を食べることにしました。
久しぶりのトリプルチーズバーガーは最高で、旅の間は骨と冷凍食品しか食べられなかったオレの心を癒してくれます。
「みなさん! タリガの町のギルド支部長として御提案がありますわ」
「何だよモニカ、あらたまって」
「我々は猛吹雪の中で地獄を味わいましたわ。そしてこれから再び駅馬車の旅という地獄を味わおうとしています。これは人として許される事でしょうか?」
人として? ならイヌのオレには関係のない話ですね。
気にせずバーガーを食べていましょう。モグモグ。
「いいえ許されません! なので我々は都市間転移門を使用するべきだと考えますっ」
「異議なしッ! もちろん料金はギルド持ちなんだろうな?」
「残念ながら自腹ですわ」
「異議ありッ!」
「リリアン却下です。無い物ねだりをしても仕方ありません。そこでみなさん! ここはフェアにゲームで勝負といきませんか? 負けた者が三人分の料金を払うのです」
「はあっ? 三百万キンネをか!? そんな金がどこにあるんだよっ!」
二人ともうるさいですね。ご飯を食べる時は黙って食べるのがマナーです。 モグモグ。
「それがあるのですわ。先日の獣人奪還依頼の成功報酬プラスボーナスで、我々は一人五百万キンネを手に入れたのです!」
「ほ、本当かっ!」
「本当ですわ。リリアンはコテツさんへの借金とギルドへの借金を払っても、ギリギリ三百万キンネが残ります」
「すごい……。い、いやだが! 負けたらまた一文無しになるじゃないかッ!」
「なら勝てばいいじゃない。コテツさんはこのゲームでの勝負をどう思われますか?」
ん? 何のゲームでしょうか。全然聞いてなかったので困りましたね。
まあ適当に返事をしておきましょう。
「とても素晴らしいと思います」
「さ、流石はコテツ殿……。勝負への恐れが微塵もない! な、ならば私も尻込みしている場合じゃありませんなっ。やるぞモニカ!」
「フフ、決まりね。ではみなさん、ゲームは何にしましょうか? クジ? それともジャンケン?」
「手緩いっ! そんな子供の遊びの様な勝負でコテツ殿が満足すると思うか? 命懸けに相応しいゲームをコテツ殿に決めてもらおうじゃないか」
「え? オレですか?」
そんなこと言われても、命懸けのゲームなんて知らないんですけど……
てか何で命を懸けなければならないのでしょうか。リリアンさんは物騒な人ですね。
「コテツ殿、ひとつ危険なのをお願いしますね! あ、でも個人の能力で有利になるゲームは駄目ですよ? 完全に運に依存したゲームが公平でいいです」
これまた難しい注文ですねえ。運まかせで命懸けのゲームとかわけわかりません……。あっ、そう言えば同じようなことをご主人様が言っていた気がします。
『なんだよこの糞ゲーはっ! こんなボスに勝てる訳ねえだろッ。何が死のルーレットだよ、即死技引いたら終わりじゃんか! 運ゲー過ぎるだろ、糞がっ』
テレビの画面に向かって独り言を言いながら興奮していたご主人様が懐かしいです。
その後必ずコントローラーとかいうのを投げるんで、とても危険でした。おそらくあれが危険な運のゲームなのでしょう。
「死のルーレット……」
「なっ! なんでコテツさんがその名をご存知なのですか!?」
ん? モニカさんが顔色を青くして驚いていますね。オレ何か変なこと言ったでしょうか?
「ま、まさかコテツさんは我々に死のルーレットをやれと? お、恐ろしすぎますわ……」
「な、なんだモニカ、その死のルーレットってやつは!」
「それは呪術師が運をもって決定を下す時につかう禁断の呪詛ですわ」
「く、詳しく!」
「リリアン、あんた命知らずね……。いいわ聞かせてあげる。呪詛自体は簡単なものなの、術者の私が私たち三人に順番で呪詛をかけるだけよ。そして呪詛が発動しなかった者が勝ちで、発動された者が負けなだけの運任せなゲーム」
「な、なんだ脅かすなよ。クジみたいなものじゃないか」
「そうね……でも恐いのはそこじゃないわ。何の呪詛が発動されるか術者の私でもわからないところが恐いのよ! もし死の呪いが発動されたり、カエルになる呪いが発動されたら……」
「ゲエッ! そんなの危険すぎるだろッ! てか発動される呪詛がわからないってなんだよ、決めとけよっ」
ええ……。カエルさんになってしまうのは人間になるよりイヤですねえ。
あ、でも、イヌになる呪いとかもあるのかな? いやイヌになるのが呪いってのも不愉快ですが……
「馬鹿なのリリアン。術者の意志が反映されたらインチキができちゃうでしょ。だから術者でさえ支配が及ばない呪詛でなければならないの。それこそが死のルーレット!」
「し、しかし。なんで呪術師はそんな恐ろしいもの作ったんだ?」
「さあ? スリルが好きとか?」
オレはどうしてもイヌになる呪いがあるのかを確かめずにはいられませんでした。
もしあるのなら……。本当に素晴らしいじゃないですか!
「ええコテツさん……。犬になる呪い、ありますわよ……」
「おおっ! ほんとですかッ!?」
「はい……。そして猫になる呪いも……」
「ネ、ネコおっ!?」
くっ……。これは確かに危険なゲームのようです。イヌになれたら幸せですが、ネコになったら死ぬよりツラいですね。
「どうしますかコテツさん。それでも死のルーレット、なさりたいですか?」
「も、もちろんですともモニカさんっ!」
そうですとも。もう一度イヌに戻れるのなら、オレはどんな危険な賭けでも挑戦してみたいです!
「わかりましたわ。では始めましょう、呪詛『死のルーレット』をッ! 最初の人は誰にしましょうか?」
「お、オレからお願いします!」
「コテツ殿っ! な、なんという豪胆さっ! 惚れ直しましたっ。たとえコテツ殿がカエルになっても私の愛は変わりませんからッ!」
うーん、ネコよりはましですがカエルもイヤですねえ。
「ちょっと静かにしてよリリアン、集中出来ないでしょ」
なんか少し緊張してきたなと思ったら、モニカさんが例の不気味な言葉を唱え、カッと目を見開いてオレを見ました。
「コテツさん……。それではお覚悟をッ!『死のルーレットおおっ』──キエーッ!」
「!!!…………」
な、何も起こりませんね。人間のままでイヌにはなっていないようです。がっかり。
「コテツさん、おめでとうございます。セーフですわ」
はぁ、イヌになれなかったのですから、ちっともめでたくありませんが!
「つ、強い! 流石はコテツ殿、強すぎるッ……。よ、よしっ、次は私の番だ!」
「わかったわリリアン、いくわよ」
「ま、待てっ。呪詛というのは例のオナラがブーブー出るやつとかもあるのか?」
「もちろんあるわよ。私たちが選べないだけで、くしゃみをするだけみたいな弱い呪詛だってあるわ」
「そ、そうか! よ、よし、オナラブーブーならどんと来いだっ!」
「あんた負ける気満々ね……。まあいいわ──キエーッ」
「!!!…………」
「リリアンおめでとう。あんたもセーフよ」
「あ、あ、あっ、ありがとーうっ! ありがとーーッ!」
「誰に感謝してんのよ……」
ふむ、リリアンさんもイヌになりませんでしたね。なんだかちょっぴり残念です。
「って、私とコテツ殿がセーフと言うことは、モニカが負けで決定なのか?」
「何言ってんのよリリアン。私がまだ呪詛にかかるとは決まってないでしょ? 私がセーフだったら誰かがアウトになるまで、繰り返し死のルーレットは回り続けるのよッ!」
「ま、マジか……」
なんと! オレにもまだイヌになるチャンスがあるということですか?
よし! 俄然やる気が出てきましたよ!
この後モニカさんもセーフとなり、再びオレにチャンスが巡って来ることになるのですが……
しかし、そのチャンスをオレは七回も無駄にしてしまったのでした。しょんぼり。
「も、モニカっ、ちょっとタイム……。呪詛にかかる前に私は恐怖と緊張で死んでしまいそうだ……。ゼエゼエ。だいたい七回もやってまだ決まらないのはおかしいだろッ!」
「馬鹿ねリリアン。この恐怖と緊張こそが死のルーレットの真骨頂なのよ! これで心臓マヒで死んだ人もいるんだからね」
「ひっ!」
「さあリリアンの番だわ、いくわよっ!──キエーッ」
「待てーーエッ! えっ?……。あッ! あわわわわ、みなさん聞いて下さい! 私には誰にも言えない秘密があるのです。それをどうかみなさんに聞いて欲しいっ──って、な、なんだ!? そんなの話したくはないぞっ?……。私の秘密、って、ちょっとやめろおっ、それは……」
「こ、これって……。呪詛『秘密を聞いて』ですわ! つまり、コテツさんと私の勝ちですっ、やりましたわ!」
モニカさんは嬉しそうにオレに抱きついてきましたが、オレはちっとも嬉しくはありません。
くうっ、イヌになれませんでしたか……
「それは……。ちょっ! モニカ止めてくれえッ……。実は私は……」
「無理よリリアン、諦めて白状なさい!」
「私は……。ひひひ」
「ヒヒヒ?」
「ひ、人妻なんだあーーーっ!」
「………………はい?」
だ、そうです。
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