祝福されしドラゴンの花嫁

まさかこの領内に、あの恐ろしいドラゴンが棲み付くだなんて──

 アリシア・ロマーダ伯爵令嬢は、つくづく自分は運命に見放されていると思った。

 古からの慣わしにて、領主の娘はドラゴンの生け贄とされる定めである。
 領主の一人娘として生まれたアリシアはその定めに従い、生け贄となる運命となった。

 自分を守ってくれるはずの父や母も、運命に連れ去られてもういない。
 残った家族の継母は、アリシアを虐げ続けてきた女である。生け贄となることを喜んでさえいた。

 だけど騎士であり婚約者でもある彼だけはと──そう願ったアリシアであったが、婚約者もまたドラゴンが現れては仕方がないと、あっさりと婚約を破棄してしまったのであった。

 運命は悲しいことばかりを与えてくれた。その締めくくりが、自分の死であったというだけの話なのか……
 アリシアはもうそれでいいと思った。

 ドラゴンの棲む洞窟へと、アリシアはたった独りで歩いていく。
 果たしてドラゴンはそこにいた。彼の名はラフィンドル。

 そのドラゴンは意外にも、アリシアの知る人間たちの誰よりもずっと、優しかったのであった────

*全12話(短編)
*他サイトにも掲載
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