33 / 36
第三十三話 ありがとう
しおりを挟む
「子供の頃の俺は、都合のいい操り人形だったんだろうな──」
比翼の鳥を解除する為にヘルミーネへの説得を試みていたグロリエンは、いま己の昔話を始めている。
説得とは何の関係もない迂遠なアプローチの様にも見えるが、グロリエンはその遠回りこそが説得成功の鍵となると信じていた。
「勇者の加護持ちという宿命と王国の期待。俺の気持ちとは関係のないこの二つの思惑が、俺を覇王にさせようとしていたんだ」
淡々と話しながらも何処か痛々しさを感じるグロリエンに、ヘルミーネの胸はちりりと痛む。
それは子供の頃のグロリエンを思い出していたせいかもしれない。
「もちろん加護や人々の期待に悪意があったわけではない。操り人形になったのも、要するに俺自身が何も考えない馬鹿なガキだったからだ」
「グロリエン様……」
「そんな馬鹿なガキの鼻っ柱を叩き折って、ちょっとはマシなガキにしてくれたのがお前だよ、ヘルミーネ」
「私がですか?」
心当たりのないヘルミーネは僅かに狼狽した様子を見せたが、そんな彼女に「ありがとうな」と謝辞を述べたグロリエンの言葉には嘘偽りはなかった。
どうやら自分より年下の女の子で、しかも筋力強化という下級加護しか持たぬヘルミーネに負け続けた事が、グロリエンの傲慢さを粉々にしたらしい。
「ですが私、そんなつもりじゃなくて。子供の頃はただグロリエン様にかまって貰える事が嬉しかっただけで……」
意図せぬ事で感謝され、ヘルミーネはその気まずさに困惑してしまう。
しかしグロリエンはそんな困惑さえも愛おしげに、ヘルミーネを見つめて言った。
「お前はいつだって俺を勇者としては見ていなかったもんな」
「そ、そんなこと! ……あったかも」
「ハハ、いいんだ。それでこそヘルミーネだ。そのおかげで俺は、ありのままの自分を受け入れて変われたんだと思う」
するとヘルミーネは少し不思議そうな顔をする。
「子供の頃のグロリエン様も、今のグロリエン様も、私にはずっと変わっていないように思えますけど?」
「なにっ!?」
「だ、だって。確かにちょっぴり意地悪でしたけれど、とてもじゃないですが覇王になれる様な子供ではありませんでしたから」
「うぐっ……。ま、まあ、お前からしてみれば、俺は年下の少女にも負ける様な勇者だったしな。それが覇王になろうっていうのもお笑い種か……フッ、ですよねぇ」
グロリエンが顔を引き攣らせて落ち込むのを見たヘルミーネは、慌てて手のひらを横に動かし否定の手振りをする。
「あっ、そうじゃなくて。グロリエン様は最初から変わらず心の優しい方だったので、覇王なんかになるはずが無いなって」
「俺が優しい?」
「はい」
「それは違う。さっきも言ったが覇王になるのをやめた理由だって、お前に嫌われたくないからだ。優しさとか関係ない」
「それ、やっぱり本当なんですか?」
「俺が覇王をやめた理由のことか? だったら本当だぞ」
「そうですか……何か、すみません」
「どうしてお前が謝る?」
「だって。幼い私が何も考えずに言った言葉で、グロリエン様の将来を決めさせてしまったなんて……」
ようするにヘルミーネは怖気づいたのだ。思いも寄らないところで、他人の人生の重要な決断に関わっていたことに。
そうと気づいたグロリエンはきわめて真面目な態度でヘルミーネに尋ねた。
「戦争をしたがる覇王が大嫌いだと言ったお前の気持ちは嘘だったのか?」
「嘘ではありませんわ! 今だって同じ気持ちのままです」
「じゃあそんな顔するなよ。俺だって覇王になってお前に嫌われるのは御免だと思った気持ちに嘘はない。二人の気持ちに嘘がないなら、何の問題もないだろ」
「グロリエン様……」
「とにかく俺はお前に嫌われたくないんだ。俺がお前より強くありたいと、必死で勝負を挑み続けているのを見れば分かるだろ」
そう言って微かに優しく微笑んだグロリエンに、ヘルミーネは首を捻った。
「ちょっと意味分からないです」
「な、なんで!?」
「だ、だって。嫌われたくないという気持ちと、私より強くあろうとする気持ちが結びつかないんですもの」
グロリエンにしてみれば、至極明解な気持ちの成り行きであったのだろう。だからヘルミーネが彼の気持ちが分からない事に、戸惑ってしまった。
「あ、いや、単純な話だぞ? 強者であるお前に相応しい男となるには、俺自身も強者となり対等となる必要があるって事だ。お前だってお前に勝てないような男に好かれても、迷惑なだけじゃないか?」
「は? いえ、ぜんぜん」
「え? 全然?」
「はい、ぜんぜん」
「…………」
無言で見つめ合う二人であったが、もちろんその内心はそれぞれに違う。
会話が途切れたゆえにただ黙っているヘルミーネに対し、グロリエンのそれは言葉を失っていたに近い。というのも頭の中が混乱しきっていたからだ。
(全然って。どういう事だよっ!?)
何を混乱していたかと言えば、ヘルミーネにフラれた理由についてである。
フラれたと勘違いしたままのグロリエンにとって、心の傷はいまだ生々しい。
それでも未練な男でいたくはなかったグロリエンは、自分がフラレた理由を考えた。
結果グロリエンは、ヘルミーネより弱い自分がフラれるのは当然だという、単純明快な理由にたどり着いたのである。
それなのに──
「ちょ、ちょっと待ってくれヘルミーネ! じゃあなぜお前は俺をフッたんだ!?」
するとヘルミーネは訝しそうにグロリエンを見た。彼が何を言っているのかまったく分からなかったからだ。
「私、グロリエン様をフッてなんかいませんけど……」
「いや、フッただろ」
「フッてませんわ」
「たしかにフッたぞ!」
「フッてませんったらフッてません!」
比翼の鳥の問題解決のため、説得に来ているはずのグロリエンなのである。
グロリエンとしては、子供の頃からの自分の素直な気持ちをヘルミーネに打ち明け、長い年月二人で培ってきた友情の絆を確かめ合おうとしていた。そうする事で信頼を強めれば、ヘルミーネも戦いに応じてくれると思ったのだ。
だというのに当初の目的をすっかり忘れたグロリエンは、友情の絆どころか痴話喧嘩に夢中になってしまっている。
「おのれっ。ついさっきお前は俺をフッたではないか! それで俺がどんなに辛い思いをしたことか……」
「はあ? 夢でも見ていたんじゃございませんの!?」
だが実は、この痴話喧嘩が災い転じて福となす──
「だいたい私がグロリエン様をふるわけないじゃない! 私だってグロリエン様のことを愛しているのですものっ!」
興奮したヘルミーネは思わず本心をぶち撒けてしまったのだ。
比翼の鳥に捕らわれた以上もはや叶わぬ恋だと思い定め、一生秘めたままでいようとしていた恋心だったのに。
「あっ! えっと……今のはナシでっ!」
当然ながらグロリエンがナシにするはずもなく、それどころかヘルミーネのその言葉さえ届いている様には見えない。
呆然として立ち尽くし、ワナワナと唇を震わせているグロリエンは「あー、あー」と変な声を出していた。
ようやくまともに声が出せるようになると、グロリエンは開口一番ヘルミーネへと言ったのである。
ぽろりと涙をこぼしながら、今日二度目の「ありがとう」を。
ヘルミーネは思わず胸をキュンとさせてしまった。グロリエンのその様子が、なんとも愛おしく思えてしまったからだ。
「ま、まったく! グロリエン様ったら、何を勘違いして私にふられたと思ったのかしらっ。バ、バカみたい」
ほとんど照れ隠しのようにして、ヘルミーネはそっぽを向きながら悪態をついた。
そんな彼女にグロリエンは鼻をすすって口をへの字にしたようだ。
「だってお前、会議場で言ったじゃないか。俺との恋愛は無理だって」
「私が会議場で?」
「そうだよ、俺とお前との恋愛で比翼の鳥を消すのは無理って言ったぞ。つまり俺からの愛情は受け取れないって事だろ」
「ああ! 確かに言いましたわね。だってその通りですもの」
「そ、その通りぃ!?」
素っ頓狂な声を上げたグロリエンが、また変な誤解をしそうだと思ったヘルミーネは、慌ててその理由を話した。
あの時そう言ったのは、互いの愛情が両想いであることを確認できたにもかかわらず、比翼の鳥に消える様子が無かったからだと。
「だから私は恋愛では無理だと申したのですわ」
「なるほどな。俺はそれを勘違いしたというワケか……」
するとグロリエンは「むう」と唸って考え込んでしまった。だがそれはほんの僅かな時間である。ハッとして顔を上げたグロリエンは、その目を輝かせてヘルミーネの両手を握りしめた。
「ヘルミーネ! やっぱり俺はニセ者のお前と恋愛したいッ」
「なんですって!?」
間髪入れずに放たれたヘルミーネのアッパーカットが、グロリエンの顎へと突き刺さる。乙女心からの鉄拳制裁であった。
「グエッ!!」
だというのに、悶絶するグロリエンの顔はどこか嬉しそうで、「やはり間違いではなかったか……」とあえぎながら呟いた。
「き、き、聞いてくれ……ヘルミーネ」
「浮気の言い訳を聞けと?」
「ち、違うよ! 俺はお前との勝負に、ようやく勝てる確信が持てた」
「ほほう。どうやらブッ飛ばされたいようですわね!」
「だ、だからそうじゃなくて! くそっ、ややこしいなあ……」
つまりグロリエンの言った勝てる確信とは、会議場でニセ者のヘルミーネから食らったパンチを指しての事らしい。
その時受けた攻撃には、本物のヘルミーネのような破壊力が無かったのだ。だからニセ者との戦いならば勝てるとグロリエンは踏んだのである。
「──ほんとかしら」
正直ヘルミーネとしては半信半疑である。意識は違えど筋力強化を使うのは同じ自分なのだ、変化があるとは思えない。
しかしグロリエンは自信満々にして、「伊達にお前との勝負で負け続けてはおらん!」と胸を張ったのであった。
比翼の鳥を解除する為にヘルミーネへの説得を試みていたグロリエンは、いま己の昔話を始めている。
説得とは何の関係もない迂遠なアプローチの様にも見えるが、グロリエンはその遠回りこそが説得成功の鍵となると信じていた。
「勇者の加護持ちという宿命と王国の期待。俺の気持ちとは関係のないこの二つの思惑が、俺を覇王にさせようとしていたんだ」
淡々と話しながらも何処か痛々しさを感じるグロリエンに、ヘルミーネの胸はちりりと痛む。
それは子供の頃のグロリエンを思い出していたせいかもしれない。
「もちろん加護や人々の期待に悪意があったわけではない。操り人形になったのも、要するに俺自身が何も考えない馬鹿なガキだったからだ」
「グロリエン様……」
「そんな馬鹿なガキの鼻っ柱を叩き折って、ちょっとはマシなガキにしてくれたのがお前だよ、ヘルミーネ」
「私がですか?」
心当たりのないヘルミーネは僅かに狼狽した様子を見せたが、そんな彼女に「ありがとうな」と謝辞を述べたグロリエンの言葉には嘘偽りはなかった。
どうやら自分より年下の女の子で、しかも筋力強化という下級加護しか持たぬヘルミーネに負け続けた事が、グロリエンの傲慢さを粉々にしたらしい。
「ですが私、そんなつもりじゃなくて。子供の頃はただグロリエン様にかまって貰える事が嬉しかっただけで……」
意図せぬ事で感謝され、ヘルミーネはその気まずさに困惑してしまう。
しかしグロリエンはそんな困惑さえも愛おしげに、ヘルミーネを見つめて言った。
「お前はいつだって俺を勇者としては見ていなかったもんな」
「そ、そんなこと! ……あったかも」
「ハハ、いいんだ。それでこそヘルミーネだ。そのおかげで俺は、ありのままの自分を受け入れて変われたんだと思う」
するとヘルミーネは少し不思議そうな顔をする。
「子供の頃のグロリエン様も、今のグロリエン様も、私にはずっと変わっていないように思えますけど?」
「なにっ!?」
「だ、だって。確かにちょっぴり意地悪でしたけれど、とてもじゃないですが覇王になれる様な子供ではありませんでしたから」
「うぐっ……。ま、まあ、お前からしてみれば、俺は年下の少女にも負ける様な勇者だったしな。それが覇王になろうっていうのもお笑い種か……フッ、ですよねぇ」
グロリエンが顔を引き攣らせて落ち込むのを見たヘルミーネは、慌てて手のひらを横に動かし否定の手振りをする。
「あっ、そうじゃなくて。グロリエン様は最初から変わらず心の優しい方だったので、覇王なんかになるはずが無いなって」
「俺が優しい?」
「はい」
「それは違う。さっきも言ったが覇王になるのをやめた理由だって、お前に嫌われたくないからだ。優しさとか関係ない」
「それ、やっぱり本当なんですか?」
「俺が覇王をやめた理由のことか? だったら本当だぞ」
「そうですか……何か、すみません」
「どうしてお前が謝る?」
「だって。幼い私が何も考えずに言った言葉で、グロリエン様の将来を決めさせてしまったなんて……」
ようするにヘルミーネは怖気づいたのだ。思いも寄らないところで、他人の人生の重要な決断に関わっていたことに。
そうと気づいたグロリエンはきわめて真面目な態度でヘルミーネに尋ねた。
「戦争をしたがる覇王が大嫌いだと言ったお前の気持ちは嘘だったのか?」
「嘘ではありませんわ! 今だって同じ気持ちのままです」
「じゃあそんな顔するなよ。俺だって覇王になってお前に嫌われるのは御免だと思った気持ちに嘘はない。二人の気持ちに嘘がないなら、何の問題もないだろ」
「グロリエン様……」
「とにかく俺はお前に嫌われたくないんだ。俺がお前より強くありたいと、必死で勝負を挑み続けているのを見れば分かるだろ」
そう言って微かに優しく微笑んだグロリエンに、ヘルミーネは首を捻った。
「ちょっと意味分からないです」
「な、なんで!?」
「だ、だって。嫌われたくないという気持ちと、私より強くあろうとする気持ちが結びつかないんですもの」
グロリエンにしてみれば、至極明解な気持ちの成り行きであったのだろう。だからヘルミーネが彼の気持ちが分からない事に、戸惑ってしまった。
「あ、いや、単純な話だぞ? 強者であるお前に相応しい男となるには、俺自身も強者となり対等となる必要があるって事だ。お前だってお前に勝てないような男に好かれても、迷惑なだけじゃないか?」
「は? いえ、ぜんぜん」
「え? 全然?」
「はい、ぜんぜん」
「…………」
無言で見つめ合う二人であったが、もちろんその内心はそれぞれに違う。
会話が途切れたゆえにただ黙っているヘルミーネに対し、グロリエンのそれは言葉を失っていたに近い。というのも頭の中が混乱しきっていたからだ。
(全然って。どういう事だよっ!?)
何を混乱していたかと言えば、ヘルミーネにフラれた理由についてである。
フラれたと勘違いしたままのグロリエンにとって、心の傷はいまだ生々しい。
それでも未練な男でいたくはなかったグロリエンは、自分がフラレた理由を考えた。
結果グロリエンは、ヘルミーネより弱い自分がフラれるのは当然だという、単純明快な理由にたどり着いたのである。
それなのに──
「ちょ、ちょっと待ってくれヘルミーネ! じゃあなぜお前は俺をフッたんだ!?」
するとヘルミーネは訝しそうにグロリエンを見た。彼が何を言っているのかまったく分からなかったからだ。
「私、グロリエン様をフッてなんかいませんけど……」
「いや、フッただろ」
「フッてませんわ」
「たしかにフッたぞ!」
「フッてませんったらフッてません!」
比翼の鳥の問題解決のため、説得に来ているはずのグロリエンなのである。
グロリエンとしては、子供の頃からの自分の素直な気持ちをヘルミーネに打ち明け、長い年月二人で培ってきた友情の絆を確かめ合おうとしていた。そうする事で信頼を強めれば、ヘルミーネも戦いに応じてくれると思ったのだ。
だというのに当初の目的をすっかり忘れたグロリエンは、友情の絆どころか痴話喧嘩に夢中になってしまっている。
「おのれっ。ついさっきお前は俺をフッたではないか! それで俺がどんなに辛い思いをしたことか……」
「はあ? 夢でも見ていたんじゃございませんの!?」
だが実は、この痴話喧嘩が災い転じて福となす──
「だいたい私がグロリエン様をふるわけないじゃない! 私だってグロリエン様のことを愛しているのですものっ!」
興奮したヘルミーネは思わず本心をぶち撒けてしまったのだ。
比翼の鳥に捕らわれた以上もはや叶わぬ恋だと思い定め、一生秘めたままでいようとしていた恋心だったのに。
「あっ! えっと……今のはナシでっ!」
当然ながらグロリエンがナシにするはずもなく、それどころかヘルミーネのその言葉さえ届いている様には見えない。
呆然として立ち尽くし、ワナワナと唇を震わせているグロリエンは「あー、あー」と変な声を出していた。
ようやくまともに声が出せるようになると、グロリエンは開口一番ヘルミーネへと言ったのである。
ぽろりと涙をこぼしながら、今日二度目の「ありがとう」を。
ヘルミーネは思わず胸をキュンとさせてしまった。グロリエンのその様子が、なんとも愛おしく思えてしまったからだ。
「ま、まったく! グロリエン様ったら、何を勘違いして私にふられたと思ったのかしらっ。バ、バカみたい」
ほとんど照れ隠しのようにして、ヘルミーネはそっぽを向きながら悪態をついた。
そんな彼女にグロリエンは鼻をすすって口をへの字にしたようだ。
「だってお前、会議場で言ったじゃないか。俺との恋愛は無理だって」
「私が会議場で?」
「そうだよ、俺とお前との恋愛で比翼の鳥を消すのは無理って言ったぞ。つまり俺からの愛情は受け取れないって事だろ」
「ああ! 確かに言いましたわね。だってその通りですもの」
「そ、その通りぃ!?」
素っ頓狂な声を上げたグロリエンが、また変な誤解をしそうだと思ったヘルミーネは、慌ててその理由を話した。
あの時そう言ったのは、互いの愛情が両想いであることを確認できたにもかかわらず、比翼の鳥に消える様子が無かったからだと。
「だから私は恋愛では無理だと申したのですわ」
「なるほどな。俺はそれを勘違いしたというワケか……」
するとグロリエンは「むう」と唸って考え込んでしまった。だがそれはほんの僅かな時間である。ハッとして顔を上げたグロリエンは、その目を輝かせてヘルミーネの両手を握りしめた。
「ヘルミーネ! やっぱり俺はニセ者のお前と恋愛したいッ」
「なんですって!?」
間髪入れずに放たれたヘルミーネのアッパーカットが、グロリエンの顎へと突き刺さる。乙女心からの鉄拳制裁であった。
「グエッ!!」
だというのに、悶絶するグロリエンの顔はどこか嬉しそうで、「やはり間違いではなかったか……」とあえぎながら呟いた。
「き、き、聞いてくれ……ヘルミーネ」
「浮気の言い訳を聞けと?」
「ち、違うよ! 俺はお前との勝負に、ようやく勝てる確信が持てた」
「ほほう。どうやらブッ飛ばされたいようですわね!」
「だ、だからそうじゃなくて! くそっ、ややこしいなあ……」
つまりグロリエンの言った勝てる確信とは、会議場でニセ者のヘルミーネから食らったパンチを指しての事らしい。
その時受けた攻撃には、本物のヘルミーネのような破壊力が無かったのだ。だからニセ者との戦いならば勝てるとグロリエンは踏んだのである。
「──ほんとかしら」
正直ヘルミーネとしては半信半疑である。意識は違えど筋力強化を使うのは同じ自分なのだ、変化があるとは思えない。
しかしグロリエンは自信満々にして、「伊達にお前との勝負で負け続けてはおらん!」と胸を張ったのであった。
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】旦那様は元お飾り妻を溺愛したい
春野オカリナ
恋愛
デビュタントでお互いに一目惚れしたコーネリアとアレクセイは5年の婚約期間を終えて、晴れて結婚式を挙げている。
誓いの口付けを交わす瞬間、神殿に乱入した招からざる珍客せいで、式は中断・披露宴は中止の社交界を駆け巡る大醜聞となった。
珍客の正体はアレクセイの浮気相手で、彼女曰く既に妊娠しているらしい。当事者のアレクセイは「こんな女知らない」と言い張り、事態は思わぬ方向へ。
神聖な儀式を不浄な行いで汚されたと怒った神官から【一年間の白い結婚】を言い渡され、コーネリアは社交界では不名誉な『お飾り妻』と陰口を叩かれるようになる。
領地で一年間を過ごしたコーネリアにアレクセイは二度目のプロポーズをする。幸せになりたい彼らを世間は放ってはくれず……
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
君を愛することはないと言う夫とお別れするためのいくつかのこと
あかね
恋愛
フレアとは結婚式当日夜に君を愛することはないと言われ、愛人の存在を告げられたことにより、ショックを受けることもなく婚姻を無効にするため、実家連絡をするような女である。そして、昔好きだった相手が襲来し、再婚の予約をしたので、さっさと別れたいと夫を元夫にすべく丸め込むのであった。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる