上 下
113 / 185
偽りの月光を映す川面

#9

しおりを挟む
 美味しいマカロニを楽しんだ後に鍋を片付け、空いたテーブルに簡単なオツマミを並べました。
 それからしばらく皆様でアツカンを飲みながら歓談しておりましたが、日付が変わる前には何名かの方はお帰りになりました。
 年越しにはまだ早いものの、しばらくは色んな場所で忘年会が行われでいるようです。

「ビャンコさんが犯人だったとはねぇ、ドルチェはダメよ。いくらミケーノとキーノスでも無理よ」
「えーでも食べてみたくない?」
「イヤよ、今日のお鍋だってあの色見て心配になったのよ?」
「ミケーノが大丈夫と言うから信用しましたけど、なんで牛乳ラッテ持ってきたんですか?」
「え、今日ミケさんとキーちゃんいるし? 美味しそうなの持ってったら普通に美味しくなるじゃん」
「ダメなんですか?」
「だってヤミナベだし、意外性が欲しいよね!」
「いらないわよ! ……でもあのお鍋牛乳ラッテのお陰で美味しかったし、文句も言い難いわね」

 今は残ったシオ様、カーラ様、ビャンコ様と私でヤミナベの反省会のようになっております。
 結果美味しい物になり、調理場でのミケーノ様とジャン様の楽しそうな様子を考えると私もあれで良かったと思います。

「ミケーノとキーノスの店で何か協業するのはどうですか? 良い商売になりそうですが」
「いえ、今回はミケーノ様の手腕によるものですから、私などご迷惑にしかなりません」
「あ、ミソのドルチェとかどう? あんまり食べたくないけど」
「お作りしましょうか?」
「いらんよ、キーちゃんが食べたいならどーぞ」
「結構です」

 ビャンコ様は甘いものをあまり好まないのにドルチェに拘るのかが謎です。
 今もお出ししたメカブをつまみながら、ソファの上に寝転がりながら話しています。

「そう言えば、このお店特有のドルチェってあるのかしら?」
「一応ございます、優しい甘みの物が多いです」
「どんな物ですか?」
いんげん豆ファジョリーノ砂糖ツッケロで煮たアンコと呼ばれる物を使用した物が多いです」
「メニューでも見たことないわよ?」
「当店ではジェラートを好まれる方が多いので普段はあまり作りません」
「美味しいよ、モチの中に入った奴食べたなぁ」

 ビャンコ様には試作品を食べていただいた事があります。
 サチ様はもっと甘くして欲しいと言い、ビャンコ様はそのままが良いと口論なさっていったのを思い出します。

「モチは良いわよね、キーノス年始の頃しか出してくれないけど」
「ドルチェで作る場合はそれに限りませんよ」
「え、そうなの?」
「春の季節に合うものがありますが、最近はあまり作りません」
「どんな物なの?」
「サクラモチと言い、赤いクリザンテーモで色つけしたリーソで作る物です」
「え、赤いの?」
「いえ、綺麗なピンク色をした華やかなドルチェです」

 それを聞いたカーラ様の表情が明るい物になります。

「何それ、食べてみたいわ!」
「サクラモチですか、変わった名前ですね」
チリエージョの色に似ているからその名前が付いたと聞きました」
チリエージョならバルサミーナの観光で有名ですね」
「ハナミ? だっけ、サチさんが広めた宴会形式」
「確か満開のチリエージョの下に敷物を引いてやるんですよね」
「そうそれ。チリエージョじゃなきゃダメなんだってね、木蓮マリョニヤでも良いじゃんね」

 辺境都市として既に栄えていた上にハナミによる観光客の増加で、バルサミーナはオランディでも有数の観光名所になっています。
 ただバルサミーナのチリエージョはサチ様が探していた物とは違う種類だったそうです。

「ワタシ、ハナミでサクラモチ食べてみたいわ、なんだかチリエージョ食べてるみたいで楽しそうじゃない?」
「ハナミとサクラモチですか、女性に受けそうですね」
「でしょ? それに合わせてピンクか……いえ水色が良いわね、満開のチリエージョの下で綺麗な色のお洋服は映えると思うの!」
「ハナミに合わせた貸衣装でサクラモチを合わせるのは悪くないですね」
「それならシアンさんの髪に使ってる染料とかもどう?」
「良いですね、あの染料が一時的なものならサクラモチと合わせて売れますね」

 そろそろ慣れてきていますが、おそらくまたお二人で何か協業なさる相談が始まっています。
 流れを見守る事しか出来ませんし、とりあえず私は新しいお酒のボトルを取りに倉庫へ向かいます。


 私が倉庫から戻った時も、カーラ様とシオ様は新しい事業のご相談をなさっておりました。
 暇になったのか、ビャンコ様からあくび混じりにご相談を頂きます。

「キーちゃん、オレ石の実験したい」
「石というのは、あの石の事ですか?」
「そ、オレ増やせんだけど壊せないんよ」
「壊せないとは、どういう事でしょうか?」
「そのまんま。あれキーちゃんどうやって割ったの? 回収した奴壊そうとしてイザッコにハンマーで殴らせても割れなかったよ?」

 私があの石を砕いたのは私の感情に任せた行動でしたが、イザッコが殴って壊れない硬度のあるものとは全く考えておりませんでした。

「術を使いました」

 ハーロルトに術士と知られた後でしたし問題ないと考えていました。

「やっぱそうか。あいつら術使えないはずなのに小さい石でいくつか持ってるの変じゃない?」
「仰る通りですが、現に石はございます」
「だからおかしいんよ、気にならん?」
「確かに気にはなりますが、探るなら持ち主に接触する必要がありそうです」
「持ち主ねぇ、今アイツらオレらに文句つけて来てるんよね」
「文句ですか」
「うん、『ここに来てから貴重品がなくなった! どういう事だ!』って。知らんわっつー」

 確かにビャンコ様が原因ではありますが、それを知らなければとんだ言いがかりです。

「それが滞在が伸びてる理由になってたりしませんよね?」
「そうかもしれんけど言えるわけないしね、一応理由は大使館の認可で粘ってるよ」

 シアン様からの話と合わせると、随分情けない理由で滞在してるようですね。
 ソファで頬杖をついて寝ていたビャンコ様が姿勢を仰向けに変えます。
 ……少しくつろぎすぎではないでしょうか。

「アイツらすごいよ? なんか話聞いててオレがおかしい気がしてくるんよね」
「お会いする機会があったのですか?」
「なくて良いんだけどさ……すんごい殺気篭った目でポンちゃんがオレ呼びに来るんよ」
「何をなさったのですか?」
「オレじゃなくて、リュンヌの連中が『オレいないと話さな~い』っつーからだってよ」
「エルミーニ様も大変ですね」

 庁舎で一度だけお会いした時の事を思い返すと、表情などが想像できます。

「『マルモワの関税率下げた方法教えてくれたら、グリフォンを何頭かもらってあげても良いですよ?』とか言うんよ、意味わからん」
「まさかそれに応じたりなど」
「しないよ! でもずっとそんな感じなんよね、交換条件で出してくるもんが『何かして』って言うけどこっちに何の得もないのばっかで」
「悪い言い方ですが、随分と稚拙な交渉術ですね」
「ホントそう。でも聞いてると『あれ、オレがおかしい?』ってなってくるんよね、ポンちゃん尊敬したわ」

 ビャンコ様は寝返りをうち、先程の頬杖をついた状態に姿勢を変えます。
 まずは起きて頂きたいところです。

 カーラ様とシオ様は話題が落ち着いたのか、いつの間にかビャンコ様の愚痴に耳を傾けていらっしゃったようです。

「大変ねぇ、リュンヌの人達庁舎に来てるの?」
「毎日来てるよ、オレ暇じゃねぇっつーの」
「交換条件はどんな物があるんですか?」
「えーと……グリフォン、オレ、リモワの名産品、あと爵位か」
「……良くて爵位ですかね」
「いらんけどね」

 そもそもかの帝国に求めるものなどオランディにはほとんどありません。
 交易においてもこちらが望むものに関しては出し渋る事が多いため、国交が盛んになるはずもありません。
 今の話を聞いていると同じようですね。

「じゃあマルモワの関税率の話ってまだしてないのかしら?」
「いや、したよ。だからとっとと帰れって言ってんのにね」
「私も気になるので聞きたいんですが、マルモワの関税率はどうやって下げたんですか?」
「色々あるけど、要は殿下の笑顔?」
「あぁ、それはリュンヌの方々には難しいですね」
「そうね、もしかして『ちゃんと教えなさいよ!』って意味で交換条件出してるのかしら?」
「いんや、本当にお礼のつもりみたいよ?」
「めんっどくさいわね……」

 カーラ様の仰る通りかと思います。
 一応の目的を果たしたのなら帰国なされば良いと思いますが、彼らの本題は別にあるのでしょう。

 少し沈んだ空気になってしまいましたので、先程運んできたウツセリを皆様に振る舞います。
 空いたグラスにお酒が注がれ、少しだけ空気が明るくなったように感じます。

「ビャンコさんまだ年忘れは無理そうね」
「忘年会なのにね、やんなるわ」
「そう言えば今年もハナビはやるんですか?」
「え? あぁ、また見たいよね」
「そうですね、去年の新聞を読ん目当てにする方も多いかもしれませんよ」
「オレ最近ちょっとイライラしてるから丁度良いかも!」
「ビャンコさんがイライラしてハナビが見れるならワタシは良いけど、あんまりストレス溜めちゃダメよ?」
「ありがと、空にパーッと発散してくるわ。楽しみにしててね!」

 やるのは多分私ですよね?
 皆様に喜んで頂けるなら構いませんが、去年と違いリンがありません。
 薬品を用意して下さるなら可能ですが、その辺りも石の実験の時と合わせて相談出来ればと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...