6 / 185
悩める局長の受難
#1
しおりを挟む
カズロ様からレイシュの追加の注文を受け、私は保冷庫から取り出した冷えたジュンマイシュを小さなデキャンタに注ぎます。
トックリを使う事もありますが、レイシュの時はガラスで出来たデキャンタでお出しします。
カズロ様は新しいデキャンタを受け取り、グラスを皆様に振る舞われました。
「少し長い話だし、良かったら飲んでほしい」
あまり人に甘えるような事に慣れていない、カズロ様らしい振る舞いです。
皆様はここ最近のカズロ様の落ち込みようを知っているため、カズロ様に同意を示します。
それから振る舞われたレイシュを口にし、カズロ様が話しやすい空気を作ります。
少し重い口調で、カズロ様は口を開きました。
「今日は食堂で鉢合わせたんだけど……」
───────
それは庁舎の食堂での事。
庁舎の食堂は職員以外の人も利用出来る国営の大衆食堂である。
庁舎の職員は格安で利用出来るため、昼食時はかなり混雑する。
かなり広く、収容人数は七百人を超える。
カズロは騎士団の副団長と昼食を兼ねた簡単な会議をすべく、昼休憩の鐘を聞いてから食堂へ向かった。
元々仲がいい二人は、たまに会議と銘打って昼食をとる。
わざわざ会議にする理由は、この副団長のネストレだ。
ネストレは屈強な騎士団所属にも関わらず中性的な顔立ちから男装の麗人だと言われている男だ。
紳士的な立ち振る舞いも相まって『一度はデートしてみたい男性ランキング』で不動の一位を獲得し続けているような美男である。
とにかく目を引くので、街の飲食店などに行くと必ず女性に囲まれる。
なので二人の昼食は基本庁舎の食堂で、更に事前に会議室を兼ねたテーブル席と昼食を予約する。
二人は食堂の入口付近で合流し、案内の職員に連れられ薄い壁で区切られたテーブル席の前まで到着したところ、そこにはなぜか先客がいた。
案内の職員が先に気付き、カズロたちを待たせ、先客に移動するよう打診に行ったが……
───────
「それが、ユメノだったんだな?」
「いっそ知らない人だと言えれば良いのに……上司となるとそうもいかないからね」
「席移動するだけでしょ? 何か問題でもあるの?」
「だいたい全部が問題だったね……」
───────
「失礼します、お客様。こち」
「ちょっと! 来るのが遅いじゃない! 客が席に着いたら注文取りに来るのが当たり前でしょ!?」
「申し訳ありません。しか」
「も~ぉここにきて十分は経ったわ! こんな本だけじゃ暇で仕方ないし! その分なにかサービスとかあるわよね?」
「お客様、大変失礼ですが」
「謝るのはもう良いから! とりあえずメニュー見せてくれる? 持ってるんでしょ?」
「メニューは今手元になく、お手数ですがカウンターの」
「ハァ!? じゃああんた何しにここに来たのよ! 待たせた上に必要なもの持ってないとかダメすぎじゃない!? 異世界だろうと常識とかないのは嫌なのよ、なってないわね!」
「お手数おかけ致します、お客様」
「ふん、まぁ良いわ。とりあえずさっさとオムライス作ってきてよ! 卵は半熟で~」
「お客様、こちらのお席は予約が必要な席でして、い」
「は!? 食堂如きで予約!? 意味わかんないんですけど! 誰もいなかったじゃん!」
「そうなのですが、い」
「しょーがないわね、じゃあ十分前から予約してたって事でいいわよ!」
「ですが、本日そちらの席を予約していたお客様がいらっしゃいまして」
「えー、そんなの分かるわけないじゃん! その人別のテーブルでも良いでしょ? どうせ空いてるじゃんここ以外も」
「ですが」
───────
案内の職員が「移動してくれ」という間もない上に大声量の文句に次ぐ文句、聞いたカズロ様が青くなる傲慢な物言い……だったそうで。
「多分腕組んでふんぞり返りながら言ってたんだろうなぁ、見たことあるし」
───────
この辺りで案内の職員を哀れに思い、ネストレが職員の横から会話に参加した。
「すまない、ここの予約をしたものだが……あまり時間もないので困っているんだ」
するとユメノは今までの態度を逆転させ、途端に上機嫌でネストレに声をかける。
「えっまさか! ネストレ様! ネストレさま!!」
「私をご存知ですか? 光栄です」
「えーうそー! 超嬉しいですー! ネストレ様とこんな場所で会えるなんて!」
「それは光栄ですが、私はここの予約をしていて」
「じゃあランチご一緒しましょ! それが良いわ! これは運命よ!」
「とりあえず場所を移してくれませんか? 友人も待っているので」
「ネストレ様のお友達!? 尚更ご一緒したいです! 遠慮しないで座ってください!」
彼女は更に奥の椅子へ移動し、隣の椅子をばしばしと叩く。
「ここへ座れ」ということなんだろう。
ネストレもカズロも、ユメノよりかなり高い立場の局員なのだが……。
───────
「人の話を聞かないというか、なんていうか」
シオ様が呆れたように呟きました。
これでもかなり控えめな言い方でしょう。
今まで出回った噂から気性が荒い方なのかと思っていましたが、想像以上です。
話を聞いているお客様と私は「また新しい噂が出来たな」と考えておりました。
「すごいわね、『遠慮しないで』って彼女が言うのね。逆でしょ普通」
「よくあるよ。仕事がなってないから代わりにやった後で注意したら、遠慮しないでやっていいって言われたり」
「……カズロって、局長でしたよね?」
「一応そのはずなんだよね……」
カズロ様はレイシュを煽り、長いため息をつきます。
「最終的には移動させたけど、この話はまだ続きがあるんだ」
トックリを使う事もありますが、レイシュの時はガラスで出来たデキャンタでお出しします。
カズロ様は新しいデキャンタを受け取り、グラスを皆様に振る舞われました。
「少し長い話だし、良かったら飲んでほしい」
あまり人に甘えるような事に慣れていない、カズロ様らしい振る舞いです。
皆様はここ最近のカズロ様の落ち込みようを知っているため、カズロ様に同意を示します。
それから振る舞われたレイシュを口にし、カズロ様が話しやすい空気を作ります。
少し重い口調で、カズロ様は口を開きました。
「今日は食堂で鉢合わせたんだけど……」
───────
それは庁舎の食堂での事。
庁舎の食堂は職員以外の人も利用出来る国営の大衆食堂である。
庁舎の職員は格安で利用出来るため、昼食時はかなり混雑する。
かなり広く、収容人数は七百人を超える。
カズロは騎士団の副団長と昼食を兼ねた簡単な会議をすべく、昼休憩の鐘を聞いてから食堂へ向かった。
元々仲がいい二人は、たまに会議と銘打って昼食をとる。
わざわざ会議にする理由は、この副団長のネストレだ。
ネストレは屈強な騎士団所属にも関わらず中性的な顔立ちから男装の麗人だと言われている男だ。
紳士的な立ち振る舞いも相まって『一度はデートしてみたい男性ランキング』で不動の一位を獲得し続けているような美男である。
とにかく目を引くので、街の飲食店などに行くと必ず女性に囲まれる。
なので二人の昼食は基本庁舎の食堂で、更に事前に会議室を兼ねたテーブル席と昼食を予約する。
二人は食堂の入口付近で合流し、案内の職員に連れられ薄い壁で区切られたテーブル席の前まで到着したところ、そこにはなぜか先客がいた。
案内の職員が先に気付き、カズロたちを待たせ、先客に移動するよう打診に行ったが……
───────
「それが、ユメノだったんだな?」
「いっそ知らない人だと言えれば良いのに……上司となるとそうもいかないからね」
「席移動するだけでしょ? 何か問題でもあるの?」
「だいたい全部が問題だったね……」
───────
「失礼します、お客様。こち」
「ちょっと! 来るのが遅いじゃない! 客が席に着いたら注文取りに来るのが当たり前でしょ!?」
「申し訳ありません。しか」
「も~ぉここにきて十分は経ったわ! こんな本だけじゃ暇で仕方ないし! その分なにかサービスとかあるわよね?」
「お客様、大変失礼ですが」
「謝るのはもう良いから! とりあえずメニュー見せてくれる? 持ってるんでしょ?」
「メニューは今手元になく、お手数ですがカウンターの」
「ハァ!? じゃああんた何しにここに来たのよ! 待たせた上に必要なもの持ってないとかダメすぎじゃない!? 異世界だろうと常識とかないのは嫌なのよ、なってないわね!」
「お手数おかけ致します、お客様」
「ふん、まぁ良いわ。とりあえずさっさとオムライス作ってきてよ! 卵は半熟で~」
「お客様、こちらのお席は予約が必要な席でして、い」
「は!? 食堂如きで予約!? 意味わかんないんですけど! 誰もいなかったじゃん!」
「そうなのですが、い」
「しょーがないわね、じゃあ十分前から予約してたって事でいいわよ!」
「ですが、本日そちらの席を予約していたお客様がいらっしゃいまして」
「えー、そんなの分かるわけないじゃん! その人別のテーブルでも良いでしょ? どうせ空いてるじゃんここ以外も」
「ですが」
───────
案内の職員が「移動してくれ」という間もない上に大声量の文句に次ぐ文句、聞いたカズロ様が青くなる傲慢な物言い……だったそうで。
「多分腕組んでふんぞり返りながら言ってたんだろうなぁ、見たことあるし」
───────
この辺りで案内の職員を哀れに思い、ネストレが職員の横から会話に参加した。
「すまない、ここの予約をしたものだが……あまり時間もないので困っているんだ」
するとユメノは今までの態度を逆転させ、途端に上機嫌でネストレに声をかける。
「えっまさか! ネストレ様! ネストレさま!!」
「私をご存知ですか? 光栄です」
「えーうそー! 超嬉しいですー! ネストレ様とこんな場所で会えるなんて!」
「それは光栄ですが、私はここの予約をしていて」
「じゃあランチご一緒しましょ! それが良いわ! これは運命よ!」
「とりあえず場所を移してくれませんか? 友人も待っているので」
「ネストレ様のお友達!? 尚更ご一緒したいです! 遠慮しないで座ってください!」
彼女は更に奥の椅子へ移動し、隣の椅子をばしばしと叩く。
「ここへ座れ」ということなんだろう。
ネストレもカズロも、ユメノよりかなり高い立場の局員なのだが……。
───────
「人の話を聞かないというか、なんていうか」
シオ様が呆れたように呟きました。
これでもかなり控えめな言い方でしょう。
今まで出回った噂から気性が荒い方なのかと思っていましたが、想像以上です。
話を聞いているお客様と私は「また新しい噂が出来たな」と考えておりました。
「すごいわね、『遠慮しないで』って彼女が言うのね。逆でしょ普通」
「よくあるよ。仕事がなってないから代わりにやった後で注意したら、遠慮しないでやっていいって言われたり」
「……カズロって、局長でしたよね?」
「一応そのはずなんだよね……」
カズロ様はレイシュを煽り、長いため息をつきます。
「最終的には移動させたけど、この話はまだ続きがあるんだ」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる