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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
40.呼ぶ
しおりを挟む「わ……」
お庭が、いつものお庭じゃない……
瑞々しいマリーゴールドの花が庭一面、足の踏み場もないくらいに咲き乱れていて、呆気に取られてしまった。
それでも大丈夫だと、エドワールさんは率先して歩き出し、慌てながら私も続く。
石畳すら乱暴に突き破っているのかと思えば、実際に生えているのではなくヘクターさんの魔法で作った幻らしい。
あまりにも沢山生えていて少し踏み抜いてしまったけど、全く草の感触がない。
「一応、無いよりはマシだからね。雰囲気重視さ」
ガーデンテーブルには既にヘクターさん、その後ろにヒースクリフさんも控えていた。
今回はちゃんと仕事として、エドワールさんへの褒美を見届け、補佐をするために来ているとのことで、
「その、すごく……」
「ありがとう。王様っぽいでしょ」
ヘクターさんは緻密で美しい文様が描かれた銀のローブを纏っていて、とても荘厳な雰囲気がある。
質素な椅子に座らせてしまっているのが本当に申し訳ないくらい偉い人オーラが出ている。
いつもの通りかしこまらなくていいよとは言われるけれども、緊張はしてしまう……
「大丈夫だよ、衣服だけ王様チックなゆるふわ魔法大好きおじさんだからさ」
「君さぁ」
「冗談、冗談だってー!」
軽く笑ってみせるエドワールさんだったけど、すっと笑い声を引っ込めて、
「……すごく緊張しちゃってさ」
まだ笑みを浮かべながらも、張り詰めた空気に戻っていった。
気を取り直して、マリーゴールドの鉢が三つ並んだガーデンテーブル、その中央に焼き上がったパイを置く。
「じゃあ、はじめるよ」
心の準備はやろうと思ってもできない。
ならせめて、パイが冷めないようにとでも考えて、思い切って。
エドワールさんが深く息を吸い込めば、空気が一瞬にしてざわめき、変わった。
『瞠目し、燈を見よ。
其れは帰還すべき地の燈なり。
再びの自我の燈なり』
真剣に詠唱が進められていく。
聞き取れるのは簡単な言葉だけで意味を理解しながら、ガーデンテーブルの上で何かが渦巻いているような、空気の歪みが見えてくる。
風を纏って、何かが確かにそこにいた。
漠然と一人分の気配だけが、不定形のままそこにいるようだった。
『瞠目せよ、回顧せよ、定着せよ。
……ここに、僕とイオリちゃんがいる』
最後は、祈りの言葉だった。
そこまで言い終えると、ガーデンテーブルの上にいる何かが突如眩く輝きだし、幻であるはずの花々が揺れた。
眩い光が庭中を包み込んで、ヒースクリフさんのマントで視界を遮られる中、一瞬だけふわりと浮き上がった小さな人影が見えたような気がした。
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