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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

34.小さな誤算

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 結局エドワールさんと私は泣き腫らしてしまって、ヘクターさんから濡れタオルが渡された。
 顔を冷やしてる二人が向かいあうという不思議な光景になってしまったけど……多少落ち着いてはきたから話は続けられる事になった。


「改めてね、この時期、このタイミングじゃなきゃいけないのは……
 お盆……というか、この国の風習的に霊が帰ってくる時期であり、コトネが死んでから一年たっていない事。
 あともう一つは、マリーゴールドが必要だから」


 マリーゴールドは、死者の道標になる花。
 ベルディグリで買ったお土産のことを思い出すと共に、

(あ、そういえば、まだ伝えてない……)

 最近の葵太さんとのやり取りも思い出した。
 ちょっとだけ冷や汗が垂れてくる感触がする……


「できたらそれは少し旬外れで、できるだけコトネと血の繋がりがある家族を介して手に入れたものがいい。
 今回の場合はイオリちゃんと葵太。
 僕自身、力の強い幽霊みたいなのとのハーフだからね、あの花の眩さがすごくわかるんだけど……
 あの黄金の色がね、死者がここに戻ってきていいんだっていう場所の目標になるんだよ
 それに僕の魔力とこのお庭の魔力を使ってね、コトネだけを呼び寄せるんだ」


 ここは、僕とコトネが初めて出会った花畑の記憶をベースに作った魔法の庭。
 ちょっと魔法でズルをして、生活できる場所と向こうへ行き来できる場所を一個だけ作ったのがここ。
 ヘクターさんとエドワールさん、それにシェラーナ様を含む本当に極一部しか知らない秘密の場所。

 お庭の秘密や、ここなら呼び出すことができるという事を聞きながら、やっぱり焦りは加速する。
 豪語しているところ、水を刺すのは忍びないのだけど、


「そ、それについてなんですけどぉ……」

 旬外れというのと、その先も国際交流などの場で必要とのことで、結構な予約が入っている。
 一応この庭用にもしかしたら頼まれるかもと取っておいた分もあるけど、小さな鉢植え3個分程で、頼まれていた量には全く足りない。
 あとは生産者さんとの相談次第……
 
 この間の葵太さんとのやり取りを包み隠さず話した。
 ……あぁこれなら頼む予定ですーなんて言っていた分、肩身が狭い。


「マリーゴールドが、仕入れられない……?」

「当初私が頼もうとしていた分くらいは手に入りそうなんですけど、数が多すぎるのはちょっと……って」
 
「孫ぉ! がんばってくれよぉ……」


 さっきとは別の意味でエドワールさんが泣きそうになっている……
 別の花屋さんに頼もうにも、おばあちゃんと血の繋がりが集めたものがいいって言うことで、葵太さんが仕入れてくれるのを私が買うというのが最善らしく、迷いに迷っている。

 そして、一つふとした疑問が浮かんだ。


「葵太さんにはこの事打ち明けないんですか……?
 聞いたらきっと何とかマリーゴールドを……」

「ん、葵太……あと葵介にはね、打ち明けない。
 ……一応死んだことになってるところに、波風を立てたくない」


 葵介さんは私の叔父で、母の兄にあたる。
 早くに家を出てお花屋さんを開業して、今は葵太さんに店主を継がせてのんびり暮らしていたと思うけど……
 エドワールさんは、知る数はごく少数でいいと言う。
 少しもやつくけれども、ひっそりとしたものでいいと言うけれども、葵太さんあたりにバレるのは何となく時間の問題な気がして……


「でも、教えるのは筋だと思うんです。
 葵太さん知ったら多分すごく驚いた後すごく怒ります」

「……そ、そうね。」

「拳の一発くらい覚悟しとこう」


 ヘクターさんが悪戯っぽく笑えば、エドワールさんはちいさな梟のように細く縮まった。
 流石にいい大人だから殴るとか無いと思うけど、ものすごく叱るとは確かに思う。

(おばあちゃんとも結構付き合いがあったし、お庭の手入れを手伝ってくれる分、知る権利はあるはず)

 タイミングを見計らってちゃんと打ち明けると約束して、また本題に戻した。
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