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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

31.二度目の話し合い

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 一緒に料理をして、カレーライスをお気に召したらしいヒースクリフさんは、またこちらでお出かけする際には色々調べるぞと意気込んでいた。
 幸せの余韻に浸りながら数日が経ち、その中でまたお茶会を挟み、

(もうすぐだ……)

 エドワールさんと話の続きをする日になった。
 やっぱり忙しいらしくて、通達はヒースクリフさん伝で来た。
 お使いを頼んできたメモ帳と同じもので、日時だけがさっと書かれたものだった。

(平常心……平常心……)

 どうせまた頭の中がぐしゃぐしゃになるとはわかっていながらも、話の最初くらいはちゃんとしようと気合いを入れる。
 いつも通りのマグカップ、紅茶、エルダーフラワーコーディアルにバイト先のクッキー。
 トレイに載せたものを確認していると、キッチンのドアがノックされる。


「イオリ、来たぞ」

「こんにちわ……あれ? 」


 てっきり今日はエドワールさん一人だけかと思ったら、ヒースクリフさんが現れた。


「ヘクター殿もいる」

「えっ」


 何だか物々しい事になってきた。
 ヘクターさん……本来さん付けしていいような方ではないと知って、恐れ多い気持ちでいっぱいだ。
 いつもの通りで大丈夫とヒースクリフさんは付け加えてくれたけれども、

(平常心……平常心……!)

 嫌でも緊張は増してしまった。
 一先ずマグカップの数を増やして、がくつく足をなんとか動かしてお庭へ向かう。


「やぁイオリさん」

「今日はありがとうねぇ」


 エドワールさんとヘクターさんは既に自前で椅子を持ってきていて、ガーデンテーブルで私たちを待っていた。
 エドワールさんはやっぱり仕事明けなのか軍服のようなカッチリとした服装で、ヘクターさんはラフな感じの白いローブ……何となく対照的だった。
 お茶のセットを配置して、私とヒースクリフさんも席につく。
 

「まぁ色々とあって同席してもらうことにしたよ……
 うん。想定の範囲内」

「何が想定の範囲内だよ」


 あんまり似ていないけど、この気安さは兄弟のそれだなぁとも思う。
 亜人……特に長命の妖精の血が濃いエドワールさんは、おばあちゃんと同年代らしいのに若々しい青年の見た目で、ヘクターさんは年相応くらいな感じなのもあって、兄弟というよりは親子のようにも見えてしまう。


「これはちゃんと仕事の枠で取ったから、今日はじっくり話そう」


 大事なことを話すとはいえ、公務と同列で良いのかな……
 そわそわしていると、ヘクターさんがにっこりと微笑んで、いいんだよと言って下さったけども。


「僕がいいって言ったからね」

「ひぇ」


 王様命令……思わず悲鳴が出てしまった。
 ヒースクリフさんもシェラーナ様の護衛としてこっちに来た時と同じような感じらしい。


「そう、イオリさんとコトネの事だから、僕としても本当に大事な事だし。
 エドに信用がそんな無いってのもあるけど」

「僕、信用ないの?」

「逆にあると思ってるのかい」


 かわい子ぶっているようなうるうる目を向けたエドワールさんの頭を、ヘクターさんはぺしりと叩いた。
 ……信用は、確かに。
 あるんですけど、どこか胡散臭い空気は否めないし、最近のこともあったからちょっとヘクターさんに同調してしまった。


「……まぁ軽口はこれくらいにして、本題だ。
 どうしてこの時期に話さなきゃいけなかったのか、その答え」


 エドワールさんは咳払いをして、背筋を正した。
 一転して真面目な空気になって、私の姿勢も自然とピンと張る。


「コトネとの約束を、必ず果たすため。
 夏と秋の間に横たわる時期じゃないとできない事をするからだ」
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