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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

22.胸騒ぎと

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 その日は目覚ましが鳴るよりもずっと早くに目が覚めた。
 出かけるまでに大体2時間ほど余裕があって、朝ごはんを一から作るくらいの余裕がある。

(どうしよう……)

 寝ようと思っても眠気はすっかり無くなってしまって、ぼんやりと着替えをはじめるもキビキビ動くことができない。

 待ち合わせまでのバスを考えながら、相手の顔を見て何を言えばいいのか、大きく重みのある悩みが散らかって落ち着かない。
 眠っている間も胸騒ぎがして仕方がなかった。

 そんな中作ったお味噌汁は、ぼんやりと煮込みすぎて少し苦かった。

 お昼……とてもアバウトな指定だったけれども、正午よりは少し早めにおばあちゃんのお墓の前に着けるようと思っていたけど、
(あぁもうすぐ着く)
 バスのルートを端から端まで、過ぎ去る景色を窓からぼんやりみつめている内に墓地へ着いた。
 道は全く混まずに、きっとバスのダイヤに書かれた時間よりずっと早い。
 まだ夏の香りがする日差しを眩しく思いながら受付までの道を抜けて、数ヶ月ぶりのお墓参りの手続きをした。

(エドワールさんの名前はまだない……)

 帳簿に洋風なカタカナの名前はない。けれども今日の日付が書かれた欄には何名もの名前が既にある。
 休日だからか休憩用のソファで涼んでいる人も何人かいるけど、エドワールさんの姿はない。

(もう待ち合わせ場所にいるのかな……)

 いつもどこからともなく現れるから、今回もこんな受付を通らずともさっとやって来る気もする。
 お花を買い、バケツを借りてお墓へ向かえば、


「やぁイオリちゃん」


 水色のシャツに白いボトムス、こちらの世界の格好をしたエドワールさんがそこにいた。
 長く綺麗な髪はゆるく纏められ、手には同じく受付で買ったらしい花を抱えている。


「お墓の前までいこう」


 お付き合いしている方の上司。そんなほとんど赤の他人の間柄とは思えないほど、エドワールさんがこちらを見る目は優しかった。

「突然ごめんね」

「いいえ」


 お墓に行く前に水を汲んで、重くなったバケツをエドワールさんが持つ代わりに、私が花を二束持った。
 これくらいだったら魔法でどうにかしちゃいそうだなと思っていたのに、エドワールさんはのんびりと重たいバケツを持って歩いていく。
 その背中が、さっきから眩しい。
 胸騒ぎが増していく……

 そして、おばあちゃんのお墓の前まで来ると、改めてヒースクリフさんは私と向かい合って、


「話さなきゃいけない事が沢山あるんだ」


 ぽん、と魔法で麦わら帽子を出して、私に被せてくれた。
 できればコトネの前がいいから、少しだけ我慢してねと言いながら、エドワールさんは深呼吸をした。
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