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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
閑話18.黒騎士への忠告
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昨日は夢のような時間だった。
密やかながら賑やかに、その後は少しだけ恋人らしい事もできて、充足感に頬がゆるむ。
本当ならもう1日休みをとって、イオリとゆっくりできる時間をとってもよかったが、流石にそうはいかなかった。
自分の後進の育成……その訓練を疎かにはできない。
後ろ髪を引かれる上に幸福が混ざり合って混沌としていくのを、きゅっと頬の裏を噛んで霧散させた。
「ヒース様、ちょっとはご容赦を⁉︎」
「いつも通り程度だ堪えろ」
「これのどこが⁉︎」
しかしどこか浮かれてしまって、いつもより早く腕が動いてしまったらしい。
肩で息をするスワルスを休憩へ向かわせたところで、物陰から視線を察知した。
殺気はなく、のんびりと観戦しているような呑気な視線……汗を拭ってから振り返れば、ゆるく手を振る白いローブの、
「やぁちゃんと働いてる?」
ヘクター殿がいた。
何とか様々な言葉を飲み込んでヘクター殿とだけ呟けば、満足そうにうなづきながらこちらへ近づいてきた。
「うんうん、引き続きその調子で頼むよ。
……で、君にちょっとお願いが」
言い終わるやいなや指を一つ鳴らし、ヘクター殿は転移魔法を発動する。
一瞬で目の前がどこか適当な執務室の風景に変わったが、面喰らっている暇はないようだ。
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、多分明日エドとイオリちゃんがお茶をすると思うんだ」
思わず眉がぴくりと動いてしまった。
エドワール様とイオリ。エドワール様はどこか彼女に対し含みを持って距離を縮めてくるし、イオリはイオリでエドワール様に不思議な既視感を抱いている様子だ。
イオリの恋人は自分だし、エドワール様も応援していると公言してはいるが、何となく面白くない。
非常にみっともない感情を抱いているとはわかっているが……心が落ち着かないのだ。
「うん。エドが秘密裏にコンタクト取ったみたいだからね、君に話がいってないのも無理ないよ」
平然と心を読んで、ヘクター殿はやんわりとこちらを諫めてくる。
「できたら近々イオリちゃんに会いに行ってくれないかい?
どう受け止めるにしろ、エドが話そうとしている事にきっとすごく動揺するだろうから」
……彼女が動揺するような事を言うつもりなのか。
やっと邪悪な叔母たちの件が終わった後だというのに、まだ何か波風を立てる気かと、心のもやつきが熱を帯びはじめるが何とか消し止める。
冷静に考えて、危険を伴うものではない。危険なら危険と伝えられる。
怒りに火をつけるのはイオリに会ってからでもいい。
ともかく、その通りに動くためにも、
「はっ」
今は冷静に、しっかりと了承した。
「……えっとね。一応ね。
エドは決してイオリちゃんに悪い事しようって感じではないよ? 」
内心のもやつきもしっかりと見通され、情けなさを隠すべく更に頭を下げた。
そうしていつの間にか視界に入る床が、執務室の絨毯から訓練所の石畳に視界に戻っていた。
密やかながら賑やかに、その後は少しだけ恋人らしい事もできて、充足感に頬がゆるむ。
本当ならもう1日休みをとって、イオリとゆっくりできる時間をとってもよかったが、流石にそうはいかなかった。
自分の後進の育成……その訓練を疎かにはできない。
後ろ髪を引かれる上に幸福が混ざり合って混沌としていくのを、きゅっと頬の裏を噛んで霧散させた。
「ヒース様、ちょっとはご容赦を⁉︎」
「いつも通り程度だ堪えろ」
「これのどこが⁉︎」
しかしどこか浮かれてしまって、いつもより早く腕が動いてしまったらしい。
肩で息をするスワルスを休憩へ向かわせたところで、物陰から視線を察知した。
殺気はなく、のんびりと観戦しているような呑気な視線……汗を拭ってから振り返れば、ゆるく手を振る白いローブの、
「やぁちゃんと働いてる?」
ヘクター殿がいた。
何とか様々な言葉を飲み込んでヘクター殿とだけ呟けば、満足そうにうなづきながらこちらへ近づいてきた。
「うんうん、引き続きその調子で頼むよ。
……で、君にちょっとお願いが」
言い終わるやいなや指を一つ鳴らし、ヘクター殿は転移魔法を発動する。
一瞬で目の前がどこか適当な執務室の風景に変わったが、面喰らっている暇はないようだ。
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、多分明日エドとイオリちゃんがお茶をすると思うんだ」
思わず眉がぴくりと動いてしまった。
エドワール様とイオリ。エドワール様はどこか彼女に対し含みを持って距離を縮めてくるし、イオリはイオリでエドワール様に不思議な既視感を抱いている様子だ。
イオリの恋人は自分だし、エドワール様も応援していると公言してはいるが、何となく面白くない。
非常にみっともない感情を抱いているとはわかっているが……心が落ち着かないのだ。
「うん。エドが秘密裏にコンタクト取ったみたいだからね、君に話がいってないのも無理ないよ」
平然と心を読んで、ヘクター殿はやんわりとこちらを諫めてくる。
「できたら近々イオリちゃんに会いに行ってくれないかい?
どう受け止めるにしろ、エドが話そうとしている事にきっとすごく動揺するだろうから」
……彼女が動揺するような事を言うつもりなのか。
やっと邪悪な叔母たちの件が終わった後だというのに、まだ何か波風を立てる気かと、心のもやつきが熱を帯びはじめるが何とか消し止める。
冷静に考えて、危険を伴うものではない。危険なら危険と伝えられる。
怒りに火をつけるのはイオリに会ってからでもいい。
ともかく、その通りに動くためにも、
「はっ」
今は冷静に、しっかりと了承した。
「……えっとね。一応ね。
エドは決してイオリちゃんに悪い事しようって感じではないよ? 」
内心のもやつきもしっかりと見通され、情けなさを隠すべく更に頭を下げた。
そうしていつの間にか視界に入る床が、執務室の絨毯から訓練所の石畳に視界に戻っていた。
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