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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
8.魔飾窟
しおりを挟むハムスターの如く頬に詰め込んで、甘さを堪能しながらも片方の手を開けつつ、のんびりと食べ物屋台のコーナーを攻めていく事になった。
最初甘いものを食べたから、次は塩辛いもの。
塩味が満たされたから、スッと食べれるようなさっぱり甘いものをまた食べる。
それからまた軽く辛味が効いたスナックを食べて、小さなお団子に戻って……甘いと塩辛いの無限ループに陥って……
『……すごく、満腹です』
『よかった』
日本では味わえない異国の味。でも異国すぎず、日本人の舌にもしっかり馴染むようなものばかりだった。
慣れない風味や味というのは全く無くて、どれもこれもがちょうど良く美味しい。
だからつい、食べすぎてしまった……
胃が膨らんでしまっていてワンピースのウェスト部分がちょっとキツい。
少し歩いた先の木陰で食休みして、この後の予定を確認しようとすると、
『この後は、そこに行こうと思うが……』
ヒースクリフさんが指差した先には、何やら怪しげな地下へと続く階段だけがある屋台があった。
その看板にはベルディグリ語で大きく、
『ま、【魔飾窟】?』
正しく読めているかわからないけど、そう書いてあった。
お店なのかな……?
『あってるぞ。
ここは魔法用の道具や材料だったり魔法の籠った装飾品を売ってる区画なんだ。
主に窃盗防止のためにこういう形態を取っている感じだな』
便利なものから貴重なものまで、魔法に纏わるものならなんでも揃う場所……らしい。
すごい。物語で妄想していたような魔法使いのお店が、この地下に並んでいるのかな……
一気に冒険心が湧き出てきて、満腹で苦しかった気持ちもどこかへ行ってしまった。
『とても気になります……入ったら一日出て来れなさそうな雰囲気してますね』
『そこまで広くないが、気持ちはわかる』
見ていて心奪われるようなものが多い。ときめく物が多すぎるとヒースクリフさんは悩ましげな顔をしていた。
……このあたり、可愛い小物や調理器具を沢山見つけてしまった時と近いんだろうなぁと思う。
また手を引いてもらいながら狭い階段を降っていくと、青空から一変して夜の世界に呑まれたたような錯覚に見舞われた。
そして、灯りが見えて、
「わぁ……‼︎」
とても幻想的な空間が飛び込んできた。
カンテラの橙色に照らされた石造りのアーケードが広がる様は、想像していた魔法使いの世界よりもずっと綺麗で美しい。
25mくらいの狭い区間だけど、それなりに賑わっている。
ここの人々の格好は地上の市場よりも魔法使いなんだろうなぁとわかるようなローブを着ていたり、杖を携えていて、
「映画とかで見た魔法使いの世界って感じですね……!」
『えいが?』
『そういう形式の作品があるんです。
今度、お見せしますね!』
意図せずそういえば教えていなかった文化を思い出して、こっそりとまた楽しみが増えた。
まずは一通りの店を眺めてみようかという話になり、ヒースクリフさんに進行をお任せしようとしていると、店と店の間から黒いローブのお婆さんがこちらに向かって手を振ってきた。
『そこなお二人さん、占いに興味はあるかね?
……おや、ヒースクリフ様ではございませんか!』
『あぁ、いつかの……』
『その節は本当にお世話になりました……
おかげさまでその後は平和に商売できております』
恭しくヒースクリフさんに頭を下げながら、お婆さんは穏やかに微笑む。
……よく見ると、頬に魚の鱗のようなものが見受けられて、この人も亜人なのではと気付いた。
『どうするイオリ。占ってもらうか?』
『折角なので、是非』
知らない方だったらとても行けないけれども、ヒースクリフさんの知り合いだったら安心だ。
別の世界の占いがどのようなものか、とてもワクワクする。
『ほっほっほ、ありがとうございます。
では此方へどうぞ……』
ささ、こちらにと、お婆さんが出てきた隙間へ案内されていくと、美しい金の鎖やお札などが飾られた小さなテントの入り口が見えた。
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