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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

6.市場を眺めて

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 ドアをくぐり抜けて、何度目かのヒースクリフさんの部屋に着いた。
 ここから市場まで歩いて20分くらいだけど、寮内や王城内だと目立つということで、すぐに転移魔法で外まで飛ぶとの事。
 

『しっかり捕まっているように』


 手を繋いだまま、腕も掴ませてもらったところで、ヒースクリフさんはパチンと指を鳴らした。

 一瞬の浮遊感に目を瞑って、次に映った光景は……


『す、すごい……!』


 圧巻だった。

 穏やかな風が活気に満ちた声を運んでくる。

 それを受けながら、賑わっている市場を入り口前の階段で一望して、わっと感動が押し寄せた。
 カラッとした夏の快晴に、カラフルな屋台の屋根が立ち並び、人間亜人関係なく賑やかな人の波。

(中東のバザール……いや、北欧とかの朝市とかにも似てるかな……)

 写真集で見た記憶を引っ張り出して、そんな事を思いつつ、眺めるだけで心が躍る。

 そして風は、ちょっと距離のあるここからでもわかる美味しそうな匂いも運んでくる。

 ……いけない。しっかりと朝ごはんを食べたのに、もうお腹が空いてきてる。


『まず、食べ歩きを考えてるがどうだろう』

『いいですね!』


 ヒースクリフさんの提案に反射で飛びついてしまった。
 あまりの勢いの良さからか、ヒースクリフさんがちょっと笑っていて……お恥ずかしい。


『候補は二つ。
 一つは【ふくら蜜の菓子】。
 もう一つは【甘露紅の飴】かな』


 どうしよう。両方とも魅力的。
 ふくら蜜も甘露紅も本で名前だけ出てきたけど、未だ未知の食べ物だ。
 ……しかし、二つとも名前からして美味しそうだと、ずっと思っていた。
 本、小説で出てきた表現もまたとてつもなく食欲を誘うような感じで、たまらなかった記憶がある。

 うぐぐ……と唸ってしまった後、


『で、できれば、両方って……』


 観念して、欲を伝えた。

 食い意地を張ってしまっているけど、どうしても選びきれなかった……
 はしたなく思われてしまうかもしれないけど、


『もちろん。両方行こう』


 ヒースクリフさんは柔らかく笑って、


『では、他の屋台飯も含め少しずつ買って、色々試してみるのはどうだろう』

『最高ですね……』


 更にとても嬉しい提案をくれた。
 いっぱい食べたいし、楽しみたいので、勿論大賛成した。

 お茶会の時、たまにヒースクリフさんがベルディグリのお菓子を持ってきてくれるけど、どれもとても美味しい。
 この世界にあるようで、日本にいるだけでは決して味わえない美味しいもの。
 そして今日は、あわよくば焼き立てが……また新しい美味しいものに出会える。


『楽しみすぎて、転ばないように』


 ヒースクリフさんに手を引いてもらいながら、スキップしてしまいそうな足取りで、市場へ向かっていった。
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