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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

27.魔法使いのお節介

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 イオリさんにはできる限りのお節介を焼いた。
 彼女の事だから、きっと曲がりなりにも答えを出して、良い結果に落ち着いてくれる。

(あとは、エドワール……)

 今の時間帯的に、騎士寮の自室でのんびりしているか、王城の執務室でのんびりと仕事を片付けているかだろう。
 しかし、私がそのまま赴けば、後ろめたさから逃げられることは必至。

 ……ここが魔法使いとして、腕の見せ所だ。

 探知、エドワールは執務室にいる。今は休憩中なのかのんびりしている様子だ。
 閉鎖、執務室の扉を魔法で封印し、壁に【すりぬけ】防止の障壁を貼る。
 そして、転移。

 執務室のエドワールがのんびり寛いでる業務机前まで飛んで、


「エド。ちょっといいかな」


 一気に詰め寄った。


「げ……」


 化け物でも見たような反応をされてしまったけど、まぁそこは往生際悪く逃げ出さなかった分良しとしよう。


「私がここに来た理由はわかっているね?」

「……二人の間にいらん波風をたてました」

「はい、そうだよ。
 ちょっと話そうか」


 イオリさんとヒース君が蟠ってしまった理由の一端は、エドにある。

 エドの心情も理解できるし、状況的にも現れざるを得なかったとは思うけど、もう少し上手くやれたはずではとも思う。
 二人に対してすぐに謝れ、説明しろとまでは言わないが、何を考えているのかだけは聞いておきたい。


「本当ね、間近でみると破壊力がやばい。
 すごく可愛く育ってくれて……抱きしめそうになった」

「抱きしめればよかったじゃない」

「そんな事したら、あの場でヒース君に殴られてるよ。
 それに、できたとしてさ、何て説明すりゃいい?」


 弁解から滲み出る大きな感情と、それを堰き止めようとする我慢がひしひしと伝わる。

 彼はよく自分を軽薄だと称するけれども、実際のところは全くの逆。
 とても慎重で、愛情深い男だ。

 叶えたい願いのために手段は選ばないけれども、結局大事にしている人や物を蔑ろにできない。
 またそんな彼の気質が、よく裏目に出る。


「……近いうちにイオリちゃんへ事情の説明は必須だ。
 ついでに、ヒース君にもね」

「うん」


 エドが何をやろうとしているのかは知っているし、私としては止めるつもりはない。
 ただし、立つ鳥跡を濁さずで頼みたい。
 慎重になり過ぎて、そのあたりがおざなりになるのはとても面倒だ。

(正直仕事が増えるし、それこそイオリさんや、エドを信頼してくれている部下たちを裏切ることになる)

 その結果、思い出の場所であるあの庭が無くなるのは避けたい。
 そして、イオリさん。大事な友であるコトネの可愛いお孫さんであり……


「あ、シェラーナだなこの足音は……こら逃げるな、すり抜け防止してるから無駄だぞ」

「やだやだやだー‼︎」


 思考が、勇ましい軍馬の蹄音のような足音に掻き消された。
 確実にこの部屋へ寄ってきているそれに、エドがびくついて逃げ出そうとするが想定内だ。


「いい歳した大人が駄々こねるんじゃないよ」

「見た目は若いもん‼︎ やだー‼︎」


 本当に見た目だけは若いけど、僕と二歳も変わらないおじいさんが、めちゃくちゃに駄々をこねてくる。
 ちょっとイラッとして、魔力の縄で手荒に拘束してしまった。

 ……むしろ手荒にやっておかないと、彼はすり抜けを力づくで無効にして、あちらの世界へ逃げ込んでしまうから、結果オーライという事にしておこう。


「失礼す……ち、父上⁉︎」

「やぁシェラーナ。本体はちゃんと仕事してるから安心して?」


 やっぱり化け物を見たような反応をされてしまったけど、気にしない。……気にしない。


「そうですか……い、いや、今は父上よりも……叔父上」

「はい……」

「ヒースクリフについて、相談が」
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