マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

24.避けられる理由

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 その後一週間は、特に何事もなく平和に過ごせていた。
 葵太さんにも信じてはもらえないかもしれないが、事の顛末を共有したところ、割とすんなり納得してくれて、


「いや、警察の厄介にならず、魔法でちょちょいと解決してくれたのならそれでいいよ俺は……」


 と、困った顔をしながらも安心してくれた。
 今後も一応警戒を続けてくれつつ、今度こそ叔母さん関係は片付いたと思う。

 ……ただし、こんどはヒースクリフさんの様子が、ちょっとおかしい。

(今日になってニ週間延期させてほしいって手紙が来たし……)

 今までは延期になる場合はある程度理由を言ってくれてたり、帰って来た時のリクエストをしてくれたりなどあったけど、今回はそういうのが全くない。
 強制していた事でもないし、今回はたまたまそういう感じだっただけなのかもしれないけど、少し心がもやついてしまう。
 ……バイト中なのに、また考え過ぎちゃう。よくない。

 明日はお出しする飲み物やお菓子を考えなくて良いし、ベルディグリ語の勉強が捗る。
 何だったらおばあちゃんのお墓参りにでも行こうかななど、予定がないなりに色々と考えられるけれども、

(私、何か怒らせるようなことしたかな……)

 もやが、段々と不安を呼び込んでくる。

 日本をおでかけして、叔父さんと一悶着あって、エドワールさんに助けてもらってその後、帰る直前の様子がおかしかった事。
 買ったお菓子やアイスは未だに手付かずで、冷蔵庫と冷凍庫に終われたまま。


「イオリちゃん大丈夫? 具合でも悪い?」

「い、いえ、ちょっと、考え事しちゃってました。
 すみません……」


 あらかた仕事を終えたところで、ウララさんが心配して話しかけに来てくれた。


「あらぁ、今お客さんいないし、ちょっと話聞く?」


 ……やっぱり考え事をしていると、どうしても顔に出てしまうらしい。
 ちょっと恥ずかしく思いながらも、ご好意に甘える事にする。


「えっとですね、友人に距離を置かれてしまったんですけど……
 でも、その理由がわからなくて……悩んでいる感じです」

「友人って、先週一緒に来てくれた子だよね?
 その時あった出来事を細かに思い出してみて、不機嫌そうにしてた瞬間とかあった?」


 言われてみれば、不機嫌そうにしていた瞬間は確かにあったかもしれない。
 でも、それが何故今の状況に繋がっているのか、いまいちピンとこなくて唸ってしまう。


「一応……友人の上司さんと話してたり、その人の事についてちょっと悩んでいる時に、ちょっと不機嫌になってたかな程度なんですけど……」


 一応掻い摘んでその時の状況を話すと「またイオリちゃんそんな大変な目にあってたの⁉︎」とギョッとされてしまった。
 今にもハグされんばかりの勢いで心配されながらも、ウララさんはそれが原因だと断定していた。


「多分嫉妬したんじゃないかな……」

「嫉妬ですか?」

「自分ではなくて、別の人に気が行っちゃって、それがよく分からないけど悔しいしイライラするみたいな?
 それで辛く当たりかけちゃったのを避けたりとか?」


 嫉妬。
 子供の時に、遊んでいた友達から「あの子と遊んじゃ嫌だ」と泣かれてしまった時の記憶が、真っ先に思い出されるけれども、

(ヒースクリフさんが、嫉妬?)

 中々に想像が付かない。大事に思ってはくれているだろうけれども、嫉妬するような感じではないような……?
 強いてそれなのかなと思うのは最後の時だけど、癇癪を起こした感じではなかった。
 むしろ、何か距離を詰めて……

(あ、れは……心臓に悪かったなぁ……)

 思い出そうとすると、頬が真っ赤になってお客さんの前に立てなくなるから今は止めておこうと思う。
 でも、あれが嫉妬故の行動だったとしたら、恥ずかしくはあるけど、私としてはかなり嬉しいような……
 ……いや、でも、もう一個逆転の発想で、

 
「うーん……私に嫉妬したとかも考えられますよね……?
 上司と仲良くお話しできてる私に嫉妬……という感じで」

「……おばかさん」


 酸っぱい顔をしたウララさんに、バッサリとそう言われてしまった。
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