マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

文字の大きさ
上 下
79 / 144
3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

21.マシュマロとチョコレート

しおりを挟む

(うぅ……沈黙が痛い)

 とりあえずエドワール様の言う通り、家の中に入ってすぐに紅茶を淹れた。
 それをお供に、ガーデンテーブルで一息つくも、ずっと無言のまま。

 ヒースクリフさんは目に見えて凹んでいるようだし、私も何て声をかけて良いのかわからない状態だった。

 ……それでも、気分を切り替えた方が良いと思ったから、


「あ、あの、ヒースクリフさん」

「すまなかった……イオリを危険に晒すところだった」


 意を決して声を出したところで、ヒースクリフさんの言葉とかち合ってしまった。
 え? と呆けていれば、ヒースクリフさんが椅子から立ってすぐ跪こうとしていて、慌てて止める。

 ……ヒースクリフさんが謝る必要はない。
 人を守る騎士としての失敗の方も、先ほど既にエドワール様からお咎めがあった。
 むしろ今謝るべきは、


「あれは私の方こそすみませんでした……
 叔父さんがそんなに計画してここに来たなんて思わなくて……」


 ヒースクリフさんの判断を鈍らせた私だ。
 今度はヒースクリフさんの方が頭を下げる私を必死で止めようとして、空気が何となく朗らかなものに変わったような気がした。

 ……結局、今回一番悪いのはこちらに危害を加えようとした叔父だ。
 私たちの失敗は、今後に活かせればそれでいい。そう思うくらいで今は充分!


「一先ず、このお話は終わりにしましょう……
 暖かいお茶と、買ってきたお菓子を少し食べませんか?」

「……あぁ、そうだな」


 明るい流れのまま、そう提案すれば、ヒースクリフさんは笑顔で頷いた。

 おやつ類は一旦全て冷蔵庫に保管しておいたので、ささっとキッチンに戻って準備する。
 きっとエドワールさんも後々いらっしゃるから、今日買ってきたもので疲れに効くような甘いものを選ぼうと思う。
 ざかざかと袋のお菓子を広げるのはこの後でも、また来週でもいい。

(じゃあ、これとこれを……)


 取り出したのは、マシュマロとナッツの入ったチョコレート菓子。
 それらをお皿に盛り付けて、更に豆皿と竹串を三人分棚から出した。

 全てお盆に載せて、すぐにガーデンテーブルの方へ戻っていけば、すっかりいつも通りの機嫌になったヒースクリフさんがそわそわと待っていてくれた。


「お待たせしました。
 マシュマロの方は、まずそのまま食べてみてください」


 そう促せば、ヒースクリフさんは素直に一個口に放り込み、もぐもぐと味わう。


「不思議な食感だ……甘くて美味しい」

「よかった……
 では、次はこれを焼きましょう」

「おぉ……では、俺が火を出す」


 マシュマロを竹串に刺しつつ、小さな火を出してもらうようにお願いすれば、ぽんっとヒースクリフさんの指先にライター程の火が出てきた。
 そこで、マシュマロに焦げ目がつくように数秒焼く。

 ……ちょっぴり蕩けてきたところで、


「できました。まずはどうぞ!」


 すぐにヒースクリフさんに渡した。

 少し冷ましながら、ぱくりと一口した瞬間、 


「……! さくさく……おぉ溶けた、これは……うま……」


 まだ少し熱かったのかしどろもどろだけども、とても美味しそうに食べてくれている。
 そこへチョコレートも摘んで、擬似的にチョコレート焼きマシュマロも楽しんでくれているみたいだ。


「よかった」


 幸せそうなヒースクリフさんの顔は、やっぱりこちらまでほっこりする。
 さっきまで気を張り詰めていたから余計に沁みるように感じた。


「……あ」


 ふと、少し離れたところからの視線を感じて、そちらを向いてみれば、


「ぼ、僕のことはいいよぉ……ヒース君そんな顔するんだねぇ」


 エドワール様がニコニコと、微笑ましいものを見るような感じでこちらを見ていて、ヒースクリフさんは慌ててキリっとし直した。
 ……チョコレートが口元についていたから、そっとティッシュも渡しておいた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。 雨の神様がもてなす甘味処。 祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。 彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。 心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー? 神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。 アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21 ※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。 (2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?

BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。 婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。 この場所で貴方達の味方はいるのかしら? 【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成

処理中です...