マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

21.マシュマロとチョコレート

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(うぅ……沈黙が痛い)

 とりあえずエドワール様の言う通り、家の中に入ってすぐに紅茶を淹れた。
 それをお供に、ガーデンテーブルで一息つくも、ずっと無言のまま。

 ヒースクリフさんは目に見えて凹んでいるようだし、私も何て声をかけて良いのかわからない状態だった。

 ……それでも、気分を切り替えた方が良いと思ったから、


「あ、あの、ヒースクリフさん」

「すまなかった……イオリを危険に晒すところだった」


 意を決して声を出したところで、ヒースクリフさんの言葉とかち合ってしまった。
 え? と呆けていれば、ヒースクリフさんが椅子から立ってすぐ跪こうとしていて、慌てて止める。

 ……ヒースクリフさんが謝る必要はない。
 人を守る騎士としての失敗の方も、先ほど既にエドワール様からお咎めがあった。
 むしろ今謝るべきは、


「あれは私の方こそすみませんでした……
 叔父さんがそんなに計画してここに来たなんて思わなくて……」


 ヒースクリフさんの判断を鈍らせた私だ。
 今度はヒースクリフさんの方が頭を下げる私を必死で止めようとして、空気が何となく朗らかなものに変わったような気がした。

 ……結局、今回一番悪いのはこちらに危害を加えようとした叔父だ。
 私たちの失敗は、今後に活かせればそれでいい。そう思うくらいで今は充分!


「一先ず、このお話は終わりにしましょう……
 暖かいお茶と、買ってきたお菓子を少し食べませんか?」

「……あぁ、そうだな」


 明るい流れのまま、そう提案すれば、ヒースクリフさんは笑顔で頷いた。

 おやつ類は一旦全て冷蔵庫に保管しておいたので、ささっとキッチンに戻って準備する。
 きっとエドワールさんも後々いらっしゃるから、今日買ってきたもので疲れに効くような甘いものを選ぼうと思う。
 ざかざかと袋のお菓子を広げるのはこの後でも、また来週でもいい。

(じゃあ、これとこれを……)


 取り出したのは、マシュマロとナッツの入ったチョコレート菓子。
 それらをお皿に盛り付けて、更に豆皿と竹串を三人分棚から出した。

 全てお盆に載せて、すぐにガーデンテーブルの方へ戻っていけば、すっかりいつも通りの機嫌になったヒースクリフさんがそわそわと待っていてくれた。


「お待たせしました。
 マシュマロの方は、まずそのまま食べてみてください」


 そう促せば、ヒースクリフさんは素直に一個口に放り込み、もぐもぐと味わう。


「不思議な食感だ……甘くて美味しい」

「よかった……
 では、次はこれを焼きましょう」

「おぉ……では、俺が火を出す」


 マシュマロを竹串に刺しつつ、小さな火を出してもらうようにお願いすれば、ぽんっとヒースクリフさんの指先にライター程の火が出てきた。
 そこで、マシュマロに焦げ目がつくように数秒焼く。

 ……ちょっぴり蕩けてきたところで、


「できました。まずはどうぞ!」


 すぐにヒースクリフさんに渡した。

 少し冷ましながら、ぱくりと一口した瞬間、 


「……! さくさく……おぉ溶けた、これは……うま……」


 まだ少し熱かったのかしどろもどろだけども、とても美味しそうに食べてくれている。
 そこへチョコレートも摘んで、擬似的にチョコレート焼きマシュマロも楽しんでくれているみたいだ。


「よかった」


 幸せそうなヒースクリフさんの顔は、やっぱりこちらまでほっこりする。
 さっきまで気を張り詰めていたから余計に沁みるように感じた。


「……あ」


 ふと、少し離れたところからの視線を感じて、そちらを向いてみれば、


「ぼ、僕のことはいいよぉ……ヒース君そんな顔するんだねぇ」


 エドワール様がニコニコと、微笑ましいものを見るような感じでこちらを見ていて、ヒースクリフさんは慌ててキリっとし直した。
 ……チョコレートが口元についていたから、そっとティッシュも渡しておいた。
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