マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

16.ようこそ日本へ(コンビニでお菓子編)

「とても明るい……すごい」


　まず店内に感心して、その後雑誌やペットボトルの冷蔵庫を興味津々そうに見渡していた。
　ここだけでまた一時間くらい潰せてしまいそうな気配もするから……


「では、この中から、お庭に持ち込むものを選びましょうか！」


　まずは甘いお菓子が並んでいる棚に案内することにした。
　すると、

（興味津々がすぎてヒースクリフさんが固まっちゃった……）

　どれもこれもが未知で、魅力的に見えるのか、ヒースクリフさんはスナックお菓子棚の前で物凄く頭を悩ませているみたいだった。


「この……マシュマロというものは？」

「あ、マシュマロ、いいですね！」


　プルプルと震えながら指さしてくれたマシュマロを手にとる。
　自分では中々買わないけど、いろんな楽しみ方があって美味しいお菓子だと思う。

（マシュマロトーストとか、ヒースクリフさん喜びそう……）

　選んでくれたものだしと、早速買い物かごへ入れた。
　

「お菓子の種類はまだまだありますので、ひとまずお店の中を回ってみましょ？」


　一旦色んなものを見てみて決めましょうと促して、他の棚にもさっと案内していく。

　そう、コンビニのお菓子は、スナックだけではない。
　焼き菓子もゼリーも美味しいし、正直来慣れている私だって物凄く目移りしてしまう。
　うっかり買いすぎてしまうのは良くある事だ。

　……そして、ヒースクリフさんが絶対に反応するものがある。


「これは、もしや……」


　色んなものに心惹かれていながらも、そのコーナーに来た瞬間、明らかに目の色が変わった。


「はい、アイスです！」

「宝の山……！ よりどりみどり……！」


　公園で食べたものがすっかりお気に召したみたいで、ありったけの語彙で褒めながら、冷凍庫に並ぶアイスを眺めてうっとりとしている……


「しかしですね、アイスは昼に一本、夜に一本までをおすすめします」


　教えるのは心苦しいけど、ヒースクリフさんの体調も心配なので、そう伝えておくことにした。


「お腹が冷えるからか……」

「そうですね……
　夜の分はまだなので、一個買っていきましょ？」


　ヒースクリフさんは本当に頭が良いし、察しも良い。
　限度があるとしっかり理解しつつも、ちょっと悲しげな雰囲気が滲み出ていた。
　……本当に、たまに庇護欲がぶわっとなるような表情をするから困る。かわいい。

　意を決して一個選び取ったのは、バニラのソフトクリームだった。
　この形をしたアイスも貸した本の中に描いてあったからと、延々と悩む前に選んだらしい。


「お、お会計してきますね！」


　我慢しているのが見えたから、余計苦しくならないうちにささっとコンビニから出よう……
　手際良く支払いを済ませて、ビニールに詰めてくれるのを待ってると、


「イオリ、振り向くな」


　突然、ヒースクリフさんが後ろにぴったりと身寄せてきた。
　急な事で照れてあわあわとしかけたけど、声が本気だ。
　……本気の緊張感だ。さっきまでの浮かれた空気が全て吹き飛んでいる。

　殺気まじりで張り詰めているヒースクリフさんを横目で確認して、どこにも視線を合わせないように下を向いた。


「店内、刃物を持って、イオリを狙ってる奴がいる」