マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

13.ようこそ日本へ(ポートサンライト編)

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「ごめんなさい……この時間ってどこも混んでて……」

 正直、休日のおやつ時を甘く見ていた。
 この時間帯、しかもちょっと雨が降りそうな雰囲気で、喫茶店の席が空いているわけなかった。
 公園から最寄駅までの道で数軒、最寄駅に入っている喫茶店やファストフード店数軒、どこを見て回っても満員。よくて席がぽつりぽつり空いているだけ。


「それは仕方ない」


 ヒースクリフさんはそう言ってくれるが、折角来てくれていることだし、いつもと違う飲み物やお菓子でおもてなししたいという気持ちもある。

(うーん、ここから近くて、家からも離れないで入れそうなところ……)

 精一杯頭を巡らせて一個、今の時間なら確実に空いている場所を思い付く。
 ……ただし、あえて選択肢から外していたところで。


「いらっしゃいませ……あれ? イオリちゃん?」

「こんにちはウララさん……まだちょっとだけ空いていますか?」

「うん、あと一時間くらいで閉めちゃうけど、それでよければ」

「ありがとうございます!」


 最寄駅と自宅の丁度中間くらいの場所にある私のバイト先、パン屋兼お菓子屋の【ポートサンライト】。
 ウララさんをはじめ、見知った方々が多くて気恥ずかしいと思っていたものの、今日は夕方から臨時休業でお客さんは既に一人しか残っていなかった。
 そのお客さんも今席を立ち、帽子を目深に被りなおした後、丁度私たちを横切った。


「……? どうかしましたか?」


 横切った人を、ヒースクリフさんがぼんやりと見つめていたので聞いてみれば、


「いや、何でもない。気のせいだ」


 向こうの世界での知り合いの気配に似ていたから、思わず見てしまったと教えてくれた。
 ここにいるはずのない人だから気のせいだろうとの事で、これ以上は気にせず、ワクワクとした顔に戻っていった。

 ヒースクリフさんを窓際の席に案内して、今回のメニューは目移りしすぎて困るからと、私に任せてくれた。
 レジに向かえば、


「……恋人さん?」

「えっと、初めてこのあたりに来た、外国の友人です」

「へぇふぅん……そうなのぉ」


 ウララさんは、やっぱりちょっと勘違いしていた。
 それ以上は言及しないでいてくれたけど、微笑ましいと思われている感じでニコニコしていらっしゃる……
 そんなに付き合っている風に見えるのかな、格好が気合い入りすぎてるってわかるからかな……
 ちょっぴり恥ずかしくて引きもこりたい気持ちに駆られながらも、


「キャラメルナッツラテと、カフェモカをお願いします……」


 メニューから、いつも飲めない暖かくて甘い飲み物を注文した。 


「あ、まってご友人は甘いもの平気?」

「大好物です、あとで焼き菓子も買わせてもらおうかなって」

「じゃあちょっと待っててね」


 ウララさんは一度裏の厨房に入っていくと、細長い四角形の形をした黄色いケーキを二つと、可愛いラッピングのされたチョコレートをトレイに乗せて戻ってきた。


「これ、試作品なの。
 お客さんいないうちに食べてみて?」

「ありがとうございます……⁉︎」

「いいのいいの。
 少しの時間だけどゆっくりしてってね」
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