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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
12.ようこそ日本へ(アイス編)
しおりを挟む今、はしゃぎ倒したヒースクリフさんにぴったりのもの。
甘いもの大好きで、外で食べれるお菓子の中でもとびきり反応がよかったもの。
「ヒースクリフさん、お目当てのものが買えそうです」
「お目当て……まさか」
興奮冷めやらぬといった感じのヒースクリフさんが、また元気に顔をあげる。
ここには色んなキッチンカーが停まっている事があるけど、梅雨の時期だしと、別の場所で食べる事も想定していた。
(だけど、外で食べる方が美味しいんだよね……)
蒸し暑くなってきた今、ちょっとはしゃいで体を動かした今なら、もっと美味しい。
「アイスを食べましょう」
「あいす……!」
ヒースクリフさんは、恐らく今日一番テンションが上がっていたと思う。
普通のアイスの他に、ソフトクリームやジェラートなども売ってるみたいだ。
こんなに反応が良いと、お金の許す限りいくらでも食べて欲しいと心が揺らいでしまう……
「味がいくつかあるんですけど、どうしますか?」
「バニラがいい」
力強く一択……!
これは最初から決めていた。本の人物が食べていたのが美味しそうだったからと、ヒースクリフさんは豪語していた。
そして、買い物をしてみたいという事で、お金を握りしめてキッチンカーへ向かっていく。
後ろについて並びながら、購入の様子を見ていたけど、問題なくやりとりをして……
「……‼︎」
ついに、バニラアイスがころんと乗ったコーンを手に取った。
楽しみにしていたものが目の前にあって、感動で言葉を失っている……
その間に私の方もチョコチップのアイスを受け取って、近くのベンチへヒースクリフさんを連れて行った。
……さて、いざ実食。
ヒースクリフさんは小さなプラスチックのスプーンでアイスを掬い、恐る恐る一口運ぶと、目をカッと見開いた。
「未知……!」
「未知ですか」
思わぬ感想が飛び出て、復唱してしまった。
なるほど、未知……
「未知美味しい……これは、なんだ、ひんやり美味しい」
新しい言葉を作り出している……
衝撃を受ける美味しさだった。これは、こっちの世界にも欲しい。
ヒースクリフさんは感動を噛み締めながらそう言った。
「なるほど、溶けてくる」
そして、誰もが一度は通るアイスの洗礼を受ける前に、アイスの性質を看破していた。
騎士の洞察力ってすごい……
「そうです、スプーンですくいながら食べたり、直接齧り付いて早めに食べちゃうのがいいですね。
……私の方も一口いかがですか?」
折角だからとチョコチップアイスをスプーンで掬って、ヒースクリフさんに差し出せば、ヒースクリフさんは不自然に固まった。
それを見て、やっと私も、自分がやった事に気付いた。
(あーんってやつだこれ……)
本当に、おばあちゃんやウララさんには良くやる事で、つい反射的に、友人だからと……
しかし友人とはいえ異性の人に、ヒースクリフさんにするのはちょっと、いや、かなり恥ずかしい。照れ臭い。
ヒースクリフさんだって今まさに困惑してる。
「あ、いや、違うんです。
ごめんなさい、恥ずかしいことを」
慌てて弁解しようとしたけど、言い切るより先にヒースクリフさんがぱくっと差し出したアイスを口にした。
「……こちらも美味い」
顔を少し赤くして、そっぽを向きながらヒースクリフさんは呟いた。
(これは、これはよくない……)
照れすぎてアイスに集中できない……会話もできない……
ヒースクリフさんの方も頬の熱を冷まそうとするように、アイスに齧り付いて、
(早くたべちゃお……)
こちらも横に倣って、ちょっとずつ食べるスピードを上げた。
食べ切った頃には何とか照れも収まったけど、二人揃ってため息をついてしまう。
「……なんだか曇ってきましたね」
「雨がくるかな」
アイスを食べ始めた時は燦々と日差しが照っていたのに、今は雲に隠れて徐々に薄暗くなってきている。
湿気も強まってきたような気がするし、ヒースクリフさんの言う通り一雨くるのかもしれない。
「お散歩もそこそこに、次の場所に行きましょうか」
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