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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
11.ようこそ日本へ(公園編)
しおりを挟む玄関で靴を履き直し、ヒースクリフさんはソワソワしながらも気後れせず、外へ踏み出した。
「おぉ……落ち着いた色の街だな」
近所の家はパステルカラーであったりペールトーンのような明るくも派手ではない色合いが多く、道路や道の石壁は大体灰色で、そう称すのはわかる。
まずヒースクリフさんが驚いていたのは、舗装された道だった。
エリザちゃんの騒動の時に一度外には出たことあったはずだけど、あの時はそんな場合ではなかったなぁと思い出してちょっとだけ苦笑した。
「変わってる。一枚の石でできた道か?」
「コンクリートっていうものでできています!」
舗装だとか、どんなものが原料なのかだとか、ヒースクリフさんは気になっているみたいだけど、難しい説明はお庭に戻ってきた時にしようと思う。
今、携帯で調べながら説明しても、ヒースクリフさんに伝わるように優しい言葉に直せないだろうし、どうしてもこの世界の固有名詞だらけになってしまうから難しい。
他にも電柱だとか、街灯だとか、家の近くにある何気ないものに目をキラキラさせている。
「……なるほど、魔法や魔力の代わるものを、家庭に配るための」
「便利だなぁ。俺の方の世界にも似たようなものがあるが……ここまでではない」
「なんだあれは……あんな細い車輪で、転ばないのか?」
「イオリ! 今の乗り物はなんだ……⁉︎ 鉄の馬車、いや、あれがクルマか‼︎」
目的地の公園に行くまでの5分もかからない道で、いつもよりも大分テンションが高くなっていってる。
一個一個の反応に、ヒースクリフさんが心から気になって楽しんでくれているとわかって、ニコニコしてしまう……
(特に自動車は……渡した本の中にもきっと出てきただろうし、実際どんなものか気になってたんだろうなぁ)
あちらの世界は魔法が主流だし、転移魔法という便利なものがあるから、乗り物がこんな発展の仕方をするとかなかったのかな。
……なんて、こちらも妄想が捗ってしまった。
「公園に着いたら、もっと楽しくなっちゃうかもしれませんね」
「どんな様子なのか、とても楽しみだ」
そう、既に楽しそうだけれども、目的地に向かっている最中。
色んなものに興味津々なヒースクリフさんの話を聞き、答えながら、ゆっくりと向かっていく。
公園の入り口が見えてくると、ヒースクリフさんはまた目を輝かせた。
「緑がきれいだ。
でも、森みたいではなくて、人が楽しめるように工夫されてるな」
「そうですね、木々の緑を楽しみながら散歩したり、ベンチで休憩したり、遊具で遊んだり……
色んな人がのんびりできる場所ってかんじですね」
ゆっくりと、風景を楽しみながら散歩コースを一緒に歩いていれば、
「平和だ……たしかに、剣いらない」
澄んだ空気を吸いこんで、気持ち良さそうにヒースクリフさんは呟いた。
ヒースクリフさんの世界にも公園自体はあるそうだけど、もっとこじんまりとただの空き地のような殺風景な感じで、近所の商人がバザーを開く場所という印象らしい。
子供や、休憩を求めてくる人は、各地の森や平原まで出て遊んだり、街中のベンチなどを使うとか。
(バザー……お祭りの時とかは、こっちもそんな感じかな)
縁日や夏祭りの日になると、ここでも賑やかで暖かな光が灯る露店が立ち並ぶ。
もう少し日が経てばきっとお祭り開催のチラシが配られると思うから、その時にでもヒースクリフさんを誘ってみようかな……
そんな野望が芽生えたところで、
(ブランコに目が釘付けになっている……!)
ヒースクリフさんが立ち止まって、遊具を見入ってしまっている事に気付いた。
幸いにもブランコで遊んでいるご家族は、和やかにそこから去りはじめていて、
「ブランコ、やってみますか?」
「……やらない」
「……今なら、お子さんがいません。
周囲にもブランコ待ちの子はいなさそうですよ」
「…… ……」
ヒースクリフさんは、おっかなびっくりブランコに乗ってみた。
お尻が汚れる可能性があるから立ち漕ぎで、ちょっと漕ぎ方を教えたらギュンギュンと物凄い速度でブランコを揺らしていて、感嘆を溢しながら嬉しそうな顔をしていた。
「イオリ、これは、どうやって止まる……」
あんまり楽しく漕ぎすぎて、止まり方がわからなくなってしまったのをゆっくり止めて救出しつつ……
(……あ、いいもの発見)
先ほどまで歩いていた散歩道の向こうに、ヒースクリフさんが絶対に喜びそうなものを発見してしまった。
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