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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

閑話12.姫の激励

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※時系列は日本お出かけ前の金曜日です。


 今日の予定は、新兵器開発現場の見学。その他は書類作業。

 担当するシェラーナ様は、今日も今日とてドレスを靡かせ、王城を闊歩する。
 俺はいつものように護衛として後ろについているが、いつもより気を張っている状態だ。

 シェラーナ様は現在、その経歴を生かして近衛騎士や国の軍事関係のアドバイザーとして、精力的に働かれている。
 これも一応公務の一環で、あくまで指導を行う立場であるはずが……
 見て回っている内に「試し打ちしてみたい」など騎士時代の血が騒ぎ出してしまう事もしばしばで、中々に止めるのが大変なのだ。

(本当に……最悪は模擬戦に発展するが、それだけは阻止したい)

 そうなってしまったら、本当に大変だ。
 特に、明日はイオリとの約束が控えている。時間をかけて休息が充分に取れなかったり、怪我をするような事は避けたい。
 ……心してかかろう。
 凛々しい後ろ姿を眺めながら、そう思っていると、


「良いかヒースクリフ。
 戦と恋は似たようなものだ」

「……どうされましたか」


 唐突に、シェラーナ様が語りだした。


「まぁ聞け。
 戦も恋も、勝ち取った者のみが望む結果を得られる。
 だから内に籠っているよりは、行動した方が良いぞ」


 もしかして、アドバイスをしてくれているのか。
 ……しかし何故、付き合うお偉方周辺に、俺の悩みが筒抜けになっているのか。
 若干頭が痛いが、ここはしっかりと聞いておこう。

 曲がりなりに、このお方は意中のお相手を努力で射止めた方だ。

(そもそも最初からお相手、ノヴァリス様もシェラーナ様に好意を抱いていたが……)

 そこは触れないでおこう。


「しかしですね……相手の気持ちは尊重するべきです」

「もちろん相手の意思を無視して心を奪い取れなどとは言っておらん」


 失礼ながらこのお方ならそう言いかねないと思ってしまったので、反省しておく。
 

「戦も恋も、まずは戦略だ。
 それでいくらでも変わる。」


 これに関しては成程と唸ってしまった。

 戦略的に駆け引きをするのは確かに重要だと思われる。
 どのようにすれば、イオリが気持ちをこちらに傾けてくれるか……何をしたら喜んで笑顔を見せてくれるか……
 ぐいぐい行えるかはさておき、まずは考えてみようと思う。


「外堀を埋め、逃げ道を塞せ。
 相手の視線や興味が、こちらにしか向かなくなるように仕向けろ。

 ……そして、こうだ」


 心臓を、握り潰す?

 シェラーナ様が拳をぐっと握りながら言うもので、恐らく違うと思いながらもそう過ってしまった。


「一撃で手中に収めろ。
 そして、それでもダメだったとしても、精一杯やったのだ。
 お前なら正しくやれるだろうし、きっと何かが良い方向へ傾く。
 恐れるな」


 ジェスチャー的には収めるどころか潰してますが、言いたい事はわかった。

 あぁ、これは激励だ。
 表現こそ物騒で独特だが、全幅の信頼を置いて、心から俺を応援してくれている。

 仕事中だというのに、少し鼻の奥がツンとしてきてしまった。


「今週だろ?
 報告を楽しみにしておるぞ」


 ……だから、なんでお偉方……というより王族は、勝手に心を覗いてくるんだ。
 感動が頭痛に上書きされて、深いため息をついた。

 そして、公務では予想通りシェラーナ様の騎士の血が騒ぎ出して、結局模擬戦までもつれ込んでしまい、

(戦と恋……)

 業務後、折れた肋を自分で治療しながら、自室でぼんやりと考え込んでしまった。

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