68 / 144
3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
閑話12.姫の激励
しおりを挟む
※時系列は日本お出かけ前の金曜日です。
今日の予定は、新兵器開発現場の見学。その他は書類作業。
担当するシェラーナ様は、今日も今日とてドレスを靡かせ、王城を闊歩する。
俺はいつものように護衛として後ろについているが、いつもより気を張っている状態だ。
シェラーナ様は現在、その経歴を生かして近衛騎士や国の軍事関係のアドバイザーとして、精力的に働かれている。
これも一応公務の一環で、あくまで指導を行う立場であるはずが……
見て回っている内に「試し打ちしてみたい」など騎士時代の血が騒ぎ出してしまう事もしばしばで、中々に止めるのが大変なのだ。
(本当に……最悪は模擬戦に発展するが、それだけは阻止したい)
そうなってしまったら、本当に大変だ。
特に、明日はイオリとの約束が控えている。時間をかけて休息が充分に取れなかったり、怪我をするような事は避けたい。
……心してかかろう。
凛々しい後ろ姿を眺めながら、そう思っていると、
「良いかヒースクリフ。
戦と恋は似たようなものだ」
「……どうされましたか」
唐突に、シェラーナ様が語りだした。
「まぁ聞け。
戦も恋も、勝ち取った者のみが望む結果を得られる。
だから内に籠っているよりは、行動した方が良いぞ」
もしかして、アドバイスをしてくれているのか。
……しかし何故、付き合うお偉方周辺に、俺の悩みが筒抜けになっているのか。
若干頭が痛いが、ここはしっかりと聞いておこう。
曲がりなりに、このお方は意中のお相手を努力で射止めた方だ。
(そもそも最初からお相手、ノヴァリス様もシェラーナ様に好意を抱いていたが……)
そこは触れないでおこう。
「しかしですね……相手の気持ちは尊重するべきです」
「もちろん相手の意思を無視して心を奪い取れなどとは言っておらん」
失礼ながらこのお方ならそう言いかねないと思ってしまったので、反省しておく。
「戦も恋も、まずは戦略だ。
それでいくらでも変わる。」
これに関しては成程と唸ってしまった。
戦略的に駆け引きをするのは確かに重要だと思われる。
どのようにすれば、イオリが気持ちをこちらに傾けてくれるか……何をしたら喜んで笑顔を見せてくれるか……
ぐいぐい行えるかはさておき、まずは考えてみようと思う。
「外堀を埋め、逃げ道を塞せ。
相手の視線や興味が、こちらにしか向かなくなるように仕向けろ。
……そして、こうだ」
心臓を、握り潰す?
シェラーナ様が拳をぐっと握りながら言うもので、恐らく違うと思いながらもそう過ってしまった。
「一撃で手中に収めろ。
そして、それでもダメだったとしても、精一杯やったのだ。
お前なら正しくやれるだろうし、きっと何かが良い方向へ傾く。
恐れるな」
ジェスチャー的には収めるどころか潰してますが、言いたい事はわかった。
あぁ、これは激励だ。
表現こそ物騒で独特だが、全幅の信頼を置いて、心から俺を応援してくれている。
仕事中だというのに、少し鼻の奥がツンとしてきてしまった。
「今週だろ?
報告を楽しみにしておるぞ」
……だから、なんでお偉方……というより王族は、勝手に心を覗いてくるんだ。
感動が頭痛に上書きされて、深いため息をついた。
そして、公務では予想通りシェラーナ様の騎士の血が騒ぎ出して、結局模擬戦までもつれ込んでしまい、
(戦と恋……)
業務後、折れた肋を自分で治療しながら、自室でぼんやりと考え込んでしまった。
今日の予定は、新兵器開発現場の見学。その他は書類作業。
担当するシェラーナ様は、今日も今日とてドレスを靡かせ、王城を闊歩する。
俺はいつものように護衛として後ろについているが、いつもより気を張っている状態だ。
シェラーナ様は現在、その経歴を生かして近衛騎士や国の軍事関係のアドバイザーとして、精力的に働かれている。
これも一応公務の一環で、あくまで指導を行う立場であるはずが……
見て回っている内に「試し打ちしてみたい」など騎士時代の血が騒ぎ出してしまう事もしばしばで、中々に止めるのが大変なのだ。
(本当に……最悪は模擬戦に発展するが、それだけは阻止したい)
そうなってしまったら、本当に大変だ。
特に、明日はイオリとの約束が控えている。時間をかけて休息が充分に取れなかったり、怪我をするような事は避けたい。
……心してかかろう。
凛々しい後ろ姿を眺めながら、そう思っていると、
「良いかヒースクリフ。
戦と恋は似たようなものだ」
「……どうされましたか」
唐突に、シェラーナ様が語りだした。
「まぁ聞け。
戦も恋も、勝ち取った者のみが望む結果を得られる。
だから内に籠っているよりは、行動した方が良いぞ」
もしかして、アドバイスをしてくれているのか。
……しかし何故、付き合うお偉方周辺に、俺の悩みが筒抜けになっているのか。
若干頭が痛いが、ここはしっかりと聞いておこう。
曲がりなりに、このお方は意中のお相手を努力で射止めた方だ。
(そもそも最初からお相手、ノヴァリス様もシェラーナ様に好意を抱いていたが……)
そこは触れないでおこう。
「しかしですね……相手の気持ちは尊重するべきです」
「もちろん相手の意思を無視して心を奪い取れなどとは言っておらん」
失礼ながらこのお方ならそう言いかねないと思ってしまったので、反省しておく。
「戦も恋も、まずは戦略だ。
それでいくらでも変わる。」
これに関しては成程と唸ってしまった。
戦略的に駆け引きをするのは確かに重要だと思われる。
どのようにすれば、イオリが気持ちをこちらに傾けてくれるか……何をしたら喜んで笑顔を見せてくれるか……
ぐいぐい行えるかはさておき、まずは考えてみようと思う。
「外堀を埋め、逃げ道を塞せ。
相手の視線や興味が、こちらにしか向かなくなるように仕向けろ。
……そして、こうだ」
心臓を、握り潰す?
シェラーナ様が拳をぐっと握りながら言うもので、恐らく違うと思いながらもそう過ってしまった。
「一撃で手中に収めろ。
そして、それでもダメだったとしても、精一杯やったのだ。
お前なら正しくやれるだろうし、きっと何かが良い方向へ傾く。
恐れるな」
ジェスチャー的には収めるどころか潰してますが、言いたい事はわかった。
あぁ、これは激励だ。
表現こそ物騒で独特だが、全幅の信頼を置いて、心から俺を応援してくれている。
仕事中だというのに、少し鼻の奥がツンとしてきてしまった。
「今週だろ?
報告を楽しみにしておるぞ」
……だから、なんでお偉方……というより王族は、勝手に心を覗いてくるんだ。
感動が頭痛に上書きされて、深いため息をついた。
そして、公務では予想通りシェラーナ様の騎士の血が騒ぎ出して、結局模擬戦までもつれ込んでしまい、
(戦と恋……)
業務後、折れた肋を自分で治療しながら、自室でぼんやりと考え込んでしまった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる