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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
7.嵐の後の庭
しおりを挟むその後は、豪快なシェラーナ様のお話をヒースクリフさんが時折諌めたり、そのやり取りを微笑ましく見守っていたり……
気が付けば夕日が差し込んでくる時間まで話こんでしまっていた。
「さて、そろそろお暇させて頂くよ」
子供達を夫に預けているのでなと、シェラーナ様は幸せそうなため息をついて、席を立たれた。
「これ、よろしければ……今日のレモンクッキーと金平糖です」
前もって少しだけ取り分けておいたお菓子をお渡しすると、かっこいい笑顔が返ってくる。
「ありがたく子供達と一緒に頂戴する。
この星形の菓子は、絵本に出てきたものと似てるな……これは喜びそうだ」
きっと【星を食む】の事だ!
シェラーナ様もお子さんにあの本を読んであげているのかな……
沢山の人にずっと読まれてる絵本なんだなぁと、実際改めて思った。
「ヒースクリフはここへ残って良いぞ」
ちょっと感動している間に、ヒースクリフさんに話が振られていて、
「そ、それはいけません」
ヒースクリフさんは慌てて拒否していたけど、
「何、城にいる夫とそれに付いた騎士と屋敷に戻る故、問題ない」
「ですが……」
「お前、本来今日は休みなのだろう? それなのに騎士でいる必要はない。
時間外労働、感謝する」
シェラーナ様は有無を言わさず言葉を述べていく。強い……
「……自分の心には、素直に従え。
いいな?」
何も言えなくなってしまったヒースクリフさんは、苦々しい顔で一礼していた。
……シェラーナ様は、やり方こそ強引だけど、もしかしなくてもヒースクリフさんを気を遣ってくれたみたいだった。
「では。また来るよ。
今度は夫も連れてきて良いか?」
「もちろんです! また来てくださいね!」
旦那様も一緒……もしかしたら、仲睦まじい様子が見れたり、お二人の馴れ初めをもうちょっと深く聞けるかもしれない。
とても嬉しいし、光栄な事だった。
シェラーナ様が颯爽と去っていった後、庭に静寂が戻ってきた……
「……はぁ、嵐のようなお方だ」
結局シェラーナ様に従い、ここに残ったヒースクリフさんは深いため息をつく。
「あの人は自分の決めた事を頑なに譲らないんだ。
だから、あの場でもう一度渋ったら恐らく鋭い蹴りが飛んで来ていた。
終いにはドアを暫く消して来たりもしただろう」
本当に有無を言わせず強硬手段を取ってくるんだなぁ……
「あはは……もう少しだけゆっくりしましょうか」
「あぁ」
乾いた笑顔が出てしまったけど、気を取り直してゆっくりしてもらえたらなと思う。
食卓から持ってきた椅子を戻しつつ、ヒースクリフさんの分のお土産と金平糖の追加を持ってくる。
「これ、ヒースクリフさんの分なんですけど、今食べちゃいますか?」
「……‼︎ 迷うが、後の楽しみにしておく」
ヒースクリフさんは目を輝かせながら、レモンソルトクッキーが入った袋を懐に忍ばせた。
金平糖の追加をお皿にざらざらと入れると、早速手を伸ばす。
「今日は、急な対応を任せてしまいすまなかった……」
「いえいえ、結果的に楽しいお茶会になりましたし!
シェラーナ様のお話、とても面白かったですし、クッキーも気に入って貰えてとても嬉しくて!」
最初こそ緊張しっぱなしだったけど、最後には笑顔の絶えない素敵なお茶会になったと思う。
言った言葉に嘘は全くない。
それと、思ったことを一つ……
「騎士としてお仕事してるヒースクリフさん、とてもかっこよかったです」
「……‼︎ そうか……」
シェラーナ様の後ろに控えて、凛々しく振る舞う姿は、本当に新鮮でかっこよかった。
また機会があれば見てみたいなぁと思っていると、ヒースクリフさんがずるずるとテーブルに項垂れてしまって……
「……いや、すまない。本当照れてしまって」
「そ、そうでしたか……!」
ちらりと見えた耳が、真っ赤に染まっていた。
春頃みたいに、照れ過ぎて動転して怪我をしちゃうような事は減ったけど、今度はしおらしく身動きがとれなくなるようになった気がする。
……こちらまで照れが移ってきて、収集がつかない!
何か、何か話題を……!
「あぁああの!」
苦し紛れに、料理中にちょっぴり考えていた事を切り出す事にした。
「ヒースクリフさん、日本語ができるようになってきたじゃないですか」
「あ、あぁ、基本的な会話だけだが」
「そこでなんですが、そろそろ、お庭の外へお出かけしてみませんか?」
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