マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

5.人生相談と恋バナ

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「齢は17かそこらの時だ。
 当時は特に好いた相手なんておらず、騎士として国のために働きたい気持ちが強かった。
 だから、政略結婚なんてもってのほかだったんだよ」


 騎士……失礼ながら今のシェラーナ様が鎧を纏っている姿を想像して、ものすごく似合うなど思ってしまいました。
 本当に強そう。

 補足してくれたヒースクリフさんによると、シェラーナ様は槍の名手で、内乱の中を先陣切ってバッサバッサと切り捨てて行き、ついには若くして国の騎士団長まで上り詰めてしまった方だという。


「その時の戦いぶりを知っているが、本当に実力で地位を勝ち取られていたぞ」

「す、すごい……」

「若気のいたりという奴だな。
 まぁそれはさておき、王族というものは面倒で仕方がない。
 この身一つが政の駒として使われてしまう」


 周囲の意見を無視し続けていたら、ついに先代国王の令で無理やり騎士団を辞めさせらてしまったという。
 あの時ほど悔しくて泣き濡れた夜はないと……それはそうだと思う。
 騎士時代の事を楽しそうに語るシェラーナ様を見れば、殆ど生き甲斐を奪われてしまったにも等しいと、簡単に想像できてしまった。


「ベルディグリでの政略結婚は、王族の血筋を末長く確実に残すために行われる事が殆どだが……
 稀に各地に派遣されている領主との関係強化のためだったり、優秀な官僚への褒美として下賜される場合もある」
 
「で、我の場合は優秀な官僚への褒美だったわけだ」


 対亜人の和平政策で功を挙げた官僚数名が、王族の血筋を欲しがったのだよ……と、あっけらかんに言っているけど、こちらは思わず閉口してしまった。

(別の世界の文化にとやかく口出しするのはよくないけど……王族って大変だし辛いなぁ……)


「それで消沈しきった我を見かねた父が、この庭へのドアを贈ってくれたのだ」


 柵を一度全て忘れられるような別の世界へ繋がると言われ、半信半疑ながらもすぐに開いて……
 ドアの向こうで待っていたのは、瑞々しい碧が美しい庭。

 丁度そこでは、ガーデンテーブルでおばあちゃんとお母さんが仲睦まじくお菓子を摘んでいて……


「それを見たら何だか、涙が止まらなくなってしまって、二人を大慌てさせてしまったよ」


 それまでも散々泣いていたけれど、この庭と二人の暖かな雰囲気にあてられてしまったらしい。
 泣き腫れた顔を冷やすために濡れタオルを用意してくれたり、その後も紅茶を出してくれて、そのまま相談する流れになったという。

 お母さんは穏やかな雰囲気に反して、ぶっ飛んだ意見を言いつつも、何よりシェラーナ様の心に寄り添ってくれた。
 おばあちゃんの方は、ほわほわと優しく王族の責任と存在意義について理解を示しながら、そこでどうやって心を殺さずに生きるかをアドバイスしてくれた。

 シェラーナ様は懐かしそうに話しているけれども、あまりに重く辛い。
 一緒に聞いているヒースクリフさんも、渋い顔をしている。


「最終的には、責務として政略結婚候補に逢いつつ、お眼鏡にかなわなければ突っぱねて、改めて騎士へ入団するか、私設の騎士団を立てて大陸中を駆け巡ってやろうと思い至ったんだが……」

(ものすごくパワフルな結論に至ってる……)

「結局、政略結婚してしまったよ」

「えっ」

「いや何、複数名いる候補の内、一人面白い奴がいたんだよ」


 その人は、亜人のコミュニティと人間の間を取り持つ【調停官】の家系の方。
 おどおどしているけど、深い知識と先見の明があり、この国の未来に必要な感性を持ち合わせていて……
 とても優しい心の持ち主だったと。


「加えて、騎士としての貴方を見てみたかった、今からでも遅くなければ復帰したあなたを見てみたい……なんて目を輝かせながらほざいてな。
 それが決定打で、気付いたら恋に落ちた」


 恋バナはここからだった。よかった……
 その人と仲良くなるために知識をつけ、今まで放棄していた政治や帝王学についても学んだ後、庭に来ては母に相談して、悩ましげな仕草や好みそうな衣服を考えて……


「もらったアドバイスの通り行動した結果、奴の心もぎ取る事に成功した」


 言い方が物騒。
 それに、色々と言葉が足りていないような気がするけど、心を射止めたって事でいいのかな……?

(ともあれ、今が幸せそうなら何よりです……)

 悲しい話とこそばゆい恋バナで山あり谷あり……
 とても面白いお話が聞けたし、結果的にはめでたしめでたしだったので、思わず拍手してしまった。

(そろそろお茶のおかわりも準備しようかな……)

 話を聞き入りながらもしっかり飲んでいて、三人とも紅茶の残りが少なくなっていた。
 席を立とうと一声かけようとしたら、丁度良くポケットのキッチンタイマーが鳴った。
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