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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
4.母と祖母とお姫様
しおりを挟むヒースクリフさんが担当する女王……違う、お姫様。
言葉の端々からとても豪快で、気持ちの良い感じの方だとは知れた。
「……ヒースクリフも楽にして良いぞ」
「いえ、そういうわけには」
「堅物め」
今日のお茶会では、姫の護衛という立場を崩さないみたいだ。
騎士らしく冷静に振る舞うヒースクリフさんは、
(かっこいいな……)
いつも穏やかな雰囲気で、お菓子に顔を綻ばせている姿を見ているせいで、何だかとても新鮮だった。
「……さて、イオリよ。
重ねて言うが、ここでは地位を気にせず相手をしてほしい。
お前の母や祖母にもそうしてもらっていたからな」
「やっぱり……お会いしたことが……?」
「あぁ、お前の母とは、親友だった」
この人がおばあちゃんが言っていた、お姫様だったんだ。
改めてハッキリとわかって感動してちょっぴり呆けてしまった。
「カズハは口が達者でな、とても楽しい時間を過ごさせてもらった。
それに、コトネの料理は美味でな……」
「あ、の、それなんですけど……お菓子、今焼いている途中で……
お先にお茶をご用意しますね」
「構わん。お茶を楽しみながら待とうとしよう。
茶葉は高いものを使わずいつもので、大きめの杯で花の蜜みたいなアレを、三回垂らしてくれ」
「は、はい」
とてもしっかりと具体的なリクエストを頂いてしまった。
まず、シェラーナ様をガーデンテーブルに案内する。
ヒースクリフさんが右側の席を引くと、そこへ優雅にドレスをはためかせ、シェラーナ様が座る。
一応今日は三人だと思っていたから、前もって食卓から椅子を一つ持ってきておいたけど、
「俺はいい。姫の後ろで控えているから」
「護衛なら座っていても充分だろう」
シェラーナ様の有無を言わさない一言に、ヒースクリフさんは仕方なく剣を側に置いて座っていた。
……うん、いつかよりは軽装だけど、鎧を着ているみたいだし、立ちっぱなしは疲れちゃうだろうから、座ってくれてよかった。
電気ケトルで沸かしたお湯をマグカップ三個に注ぎ入れた後、ティーバッグを一個ずつ投入する。
シリコン蓋で蒸らして大体120秒数えて、さっと蓋を取って、
「我はその獣が描かれた杯がいい」
「わかりました。こちらに三回こちらを……」
獣……クマさんが描かれたマグカップはお姫様が使うから、そこにエルダーフラワーコーディアルをリクエスト通り三回垂らす。
ヒースクリフさんと私のにはひと垂らしと角砂糖一個。ヒースクリフさんはさっとセルフで角砂糖をもう一つ追加していた。
出来上がった紅茶を、シェラーナ様は少し覚ましながら一口。
「この味だ……懐かしい。
カズハの味にそっくりだ……しかし独特の柔らかさもある」
……本当によかった。とても嬉しい感想に、思わずへたりこみそうになった。
「えっと、母とは親友って……いつぐらいからですか?」
「10年以上の付き合いになる」
嬉しさで緊張がやんわりと解けてきたからと、気になっていた事を聞いてみれば、爽やかに答えが返ってくる。
お母さんが亡くなった後も、たまにおばあちゃんに会いにきていたりして、思い出話をしたり愚痴を聞いてもらっていたと、和やかに話してくれた。
「出会った当初は、私が政略結婚から逃げ回っていた時期でな。
よく相談に乗ってもらっていたんだ。
それで、二人のおかげで良い伴侶にも巡り会えた……」
「おぉ……」
「気になるか?」
「……はい」
これが、おばあちゃんとお母さんが相談していたという【恋バナ】かぁ……!
ソワソワしてしまう……
「正直でよろしい。
そうさな、どこから話したらいいか」
紅茶を口に運びながら、シェラーナ姫はにこやかに出会った時のお話を始めてくれた。
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