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2章 桜色の春と菫色の空

24.哀れな子供へ

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 ここで、傍目に飛び散った夥しい量の血に気づく。
 ヒースクリフさんの持っている剣にも血がべっとりついていて、男は右腕を押さえて痛みに悶えている。
 その右腕の先は、すっぱりと切り落とされていて……

(騎士様……容赦ない! 容赦がなさすぎる……!)

 エリザちゃんに至ってはまた事態が飲み込めてなくて、また人形みたいに、は? しか言えなくなってる。
 正直私も飲み込みきれてないけど……


「貴様ら、命はないと思え」


 昨今あんまり聞かないような本気の脅し文句を、ヒースクリフさんは流暢な日本語で伝える。
 ……今日ちょうど教えた日本語を、早速使ってる。

 あぁ……ヒースクリフさんの世界は王城に暗殺者が来るような環境で、少しでも護衛対象に仇なせば、即座に切り捨てるようなご職業なんだと、今更ながら容赦のなさに合点がいった。


「あ、あの、腕は……くっつけてあげてください」


 こっちの文化的にまずいです。正直にお伝えすると、

「……わかった」


 ヒースクリフさんは渋々ながら了承してくれた。よかった……
 指をパチンと鳴らすと、男の右腕が瞬時に治った。

 そして、わけがわからないまま安堵する男を、剣の柄で思い切り殴り倒した。


「去れ。そして、今日の事は忘れて、二度と関わるな。
 そうすれば命は取らない」

「は、はいぃぃぃ‼︎」


 スラスラと教えた日本語を活用して脅せば、男は一目散に逃げ出した。
 ……エリザちゃんを置いて。


「は? ちょっとショータ⁉︎」
  

 駆けていく音が遠く去っていくのを聞きながら、ヒースクリフさんはエリザちゃんの方へ向く。


「 何……コスプレ? 彼氏? まじ……何?
 こっちが警察呼ッヒィ⁉︎」
 

 言い終える前に、エリザちゃんが持っていたスマホが真っ二つになった。
 あぁ……このままじゃエリザちゃんの首が物理的に飛びかねない……


「動くな、お前、敵だな?」

「な、んだよ。うちん家上がっただけってのに、コイツが」

「ここは、イオリの家だ」


 ヒースクリフさんの殺気をなんとか和らげようとしたけど、この家は私の家と言い切ってくれた嬉しさに、思わず言おうとした言葉を止めてしまった。


『今まで見たどんな悪徳政治家や、傲慢な騎士よりも……いや、あれらは大なり小なり矜恃があった。
 お前は、都合良い物だけを与えられて、正しく育てなかった哀れな子供か……』


 感情が先立ちすぎて、ついにベルディグリ語になってる……
 ほとんど聞き取れなかったけど、かろうじで最後の【可哀想な子供】といった言葉は聞き取れた。

 ……そう、エリザちゃんは子供だ。
 高校生だからまだ幼くて当たり前だけど、そういう意味ではなく。

 叔母さんに甘やかされて、善悪の基準すらも曖昧で、無知という意味で子供だ……


『剣の錆にしてやる価値もない。
 だが……』


 ヒースクリフさんは剣を納めながら、エリザちゃんを射殺す勢いで睨みつける。


『二度とこの家に立ち入れないよう、呪いをかける』
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