マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

2章 桜色の春と菫色の空

17.ひらがな

　そうして、一時間ほどセナ文字とベルディグリ語の基本ルールを教えてもらって、わかった事がある。

（基本的な文法も、発音方法も、文字の順番も、英語に近い……）

　むしろ、ほぼ英語だ。
　基本的に主語、動詞、補語。
　または主語、動詞、目的語の並びで何とかなる。
　文字と単語を覚えれば、簡単な日常会話くらいならすぐ話せるようになるかもしれない。
　……あくまで簡単なものだけど。

（文字の方は、三角の向きと棒の細い太いで変わるかんじ……本当に模様みたい）

　ノートに書き写してみたものの、文字というよりは民族衣装の柄を描いている気分だ。
　本当にうっすらとだけど、文字ごとにどうやって発音するかは覚えてきたから、一人の時にちょっと音読の練習をしてみようと思う。


「飲み込みが早くて素晴らしいな。
　今日予定していたものがもう終わってしまった……」

「いえいえ、えへへ……家戻ったら反復してやってみますね」


　文字を勉強するって子供ぶりだ……懐かしいな。
　音読の練習の他に、書き取りをしっかりやっておこう。


「……我儘を言ってすまないのだが、日本語の方を教えてくれないか？」


　私は、ヒースクリフさんが照れ臭そうにそわそわとする様に弱い。


「えぇ、少し日本語の方もやってみましょうか！」


　少し不安はあるものの、ともかくやってみよう。
　まず、ドリルについた文字一覧を開きつつ、


「日本語の文字は平仮名と片仮名と漢字の三つを組み合わせて使います。
　まずは基本の平仮名から教えていければと思います！」

「よろしく頼む」


　……そうして、意気揚々と教え始めて数十分。


「なるほど。発音が難しいな」

「そうですね、もう既にほとんど発音を覚えてませんか……？」

「あぁ、何となくコツは掴めたからな。
　基本的に子音と母音の組み合わせで五種類。
　他、組み合わせで同じ音になるものは除外して表示、という感じだろう？」

「そ、そうですね……」


　子音と母音、私の方がわからないです……言っている事は5割くらいわかったので頷きはしましたが……
　ともかくヒースクリフさんの頭の良さがわかった。

　少し文字ごとの発音を教えただけで、セナ文字よりもずっと数が多いのに、法則性も見出して覚えてしまった……


「文字は流石に書き取りをして覚える必要がある。
　ひらがなの他にカタカナと漢字というものもあるんだろう？」

「カタカナはひらがなより簡単ですよ！
　漢字は、何というか、種類が多すぎて……ある程度日常で使うものに絞って覚えていけばいいかと！」

「なるほど、漢字……」


　なんだか、ヒースクリフさんの知的好奇心に火をつけてしまったみたいだ。
　すぐに私が知っている漢字の数を追い抜いてしまいそうな予感がする。

　今日はあと、基本的な挨拶や簡単な単語を教えたところで、ヒースクリフさんが仕事に戻る時間になった。


「楽しかった。こちらも今日の復習をしつつ次回に備える」

「はい、ではまた土曜日のこの時間くらいに！」


　ヒースクリフさんの顔はとても晴れやかで……

（あぁ、ちゃんと教えられてよかった……）

　本人の頭の良さに助けられたところはあるけれど、今度は何を教えようかとワクワクする。

（私の方も、がんばろ……）

　ヒースクリフさんが持ってきた本と使ったノートを紙袋にまとめて、抱えながら、キッチンに場所を移した。