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2章 桜色の春と菫色の空
11.魔法使いさん
しおりを挟む「あ、えっと、私は、加賀美イオリと申します……魔法使い様」
「様はいらんよ」
「えっと、じゃあヘクターさん……?」
「よろしい。あぁ、お茶は結構だよ。
そこでゆっくりしていなさい。私は庭の様子を見にきただけだから」
そう言って、ヘクターさんはガーデンテーブルを通り抜け、エルダーフラワーと最近咲いた菫の花壇の方へと向かっていった。
おばあちゃんの言いつけで、定期的に種を蒔いているそこは、旬関係なく月日が経てば自然と育ってしまう不思議な花壇だ。
「うむ。魔法はちゃんと働いているな」
いつかヒースクリフさんが言っていた事を思い出す。
この庭には何重にも複雑に魔法がかけられていて、言語が通じるのもその効果であると。
思い起こせば不思議なことだらけのお庭だ……
(この人が、もしかして……)
「ここの魔法はね、殆ど私がかけたものだよ」
心を読まれたのかなと思えるほど、すぐ答えが返ってきた。
魔法使いさんと言うくらいだから、ヒースクリフさんが唸るような複雑な魔法を使えても不思議ではない。
……どれくらい凄いのかは、本当に漠然としかわからないけれども。
「そうさな。空気清浄効果が少し薄れているから、そこの補強と……
あとはイオリさんの方で欲しい魔法とかはあるかい?」
「あ、えっと、では、防犯面を強化する事って可能ですか?」
本当に初対面で会って図々しいのは承知だけど、申し出てみた。
すると、ヘクターさんは私を見て、うーんと唸る。
「……ふむ。
そうだなぁ、イオリさんに不穏な影があるようだし」
「えっ」
「家の防壁を強化しておくのと……ヒース君にも伝えておこうか」
不穏な影がものすごく気になる。そして、葵太さんに相談する前に、防犯面がなんとかなってしまいそうな……
「こちらの世界での防犯も併せて活用するといい。
なぁに、ヒース君がいれば事足りる程度の不穏だよ」
「そ、そうですか……」
ヘクターさんがそう言うので、明日にはしっかりと葵太さんに相談しておこう。
あとはヒースクリフさんと会えた時に、ちょっと色々話さなきゃいけないかもしれない。
今後やる事を頭に焼きつけた後、少し所在なくなってしまったのもあって、
「あの……話は変わるんですけど、おばあちゃんの知り合いなんですか?」
疑問に思うことを尋ねてみると、
「もちろん。コトネは私の大事な友達だ。
一緒に過ごした思い出は、片時も忘れた事はないよ。
訃報を聞いた後は、こちらの世界で祈りを捧げさせて頂いた」
「ありがとうございます……」
何だかこの人は、私の欲しい言葉が見えているようだなとも思う。
本当に心が読めているみたいに……
「ヒース君とは仲良くやっているかい?」
「えっ、はい! とても良い友人で、いつも色んな事の相談に乗ってもらっています」
突然ヒースクリフさんの事を聞かれて、ちょっとビックリしてしまった。
本当に仲良くさせてもらっているし、今日もヒースクリフさんとのやりとりがあったから何とかなったところがある。
「それは良かった。彼もイオリさんとお話しする事で、しっかり息抜きができているようでな。
城の中でもヒース君ほど勤勉で働き者な騎士はおらん。
どうかこれからも、話してやってほしい」
「それは、もちろんです!」
何だかとても嬉しい言葉を頂いてしまった……
色んなことを煙にまかれているような気がするけれども、それでもまぁいいかと思えてしまう不思議な雰囲気がある。
ヘクターさんが指で絵を描くように動かすと、光がぱっと散って、庭の壁へ吸い込まれていく。
「これで大丈夫。あとはヒース君が何とかしてくれるだろう。
君は【助けて】と強く念じればいいだけだ」
具体的に何が起きるのかだとかを、ヘクターさんは勿体ぶって教えてくれなかった。
その時にしっかりと助けてくれるから大丈夫。家や庭がどうにかなるような事はない……そう、しっかり保証してくれたけど、
「ヒース君がいるから、イオリさんは大丈夫だよ」
ヘクターさんは重ねてそう言いながらウインクをして、足早に帰ってしまった。
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