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1章 少女と黒騎士の邂逅
閑話2.二回目のお茶会模様(中)
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「えっと、こんにちは」
「こんにちは……」
何だか照れくさい……嬉しくもあり、恥ずかしくもあるような、不思議な気持ちだった。
ヒースクリフさんもどことなく同じような感じで、少しはにかんでいた。
(今日は私服なんだ……)
最初に出会った時の鎧はつけておらず、黒のタートルネックにゆったりとしたフード付きの上着、清潔感のあるスラックスにブーツ。
少しファンタジーな感じはするものの、こちらの世界でも充分通じるような格好だ。
それと、前よりクマが薄れてきたように思えるし、肌の血色も良い事にも気付く。
少しは休めたのかなと、ほっとした。
「じゃあ、こちらに……」
気を取り直して、前回と同じようにガーデンテーブルの右側へ案内した。
すぐにお湯が沸いたケトルを取ってきつつ、まずはマグカップにお湯を入れる。
そこにティーバッグを沈めたら、シリコン蓋を置いて2分。
終わったらさっとティーバッグを取り除いて、角砂糖一つとエルダーフラワーをひと垂らし。
ヒースクリフさんはそこへ更に角砂糖を一つ追加する。
「このお茶が、忘れられなくてな」
「気に入っていただけたならよかったです」
美味しく味わってくれている。
ヒースクリフさんは、わかりやすく頬を緩ませてくれていて、見ていてこちらが幸せな気分になってくる。
「そういえば、土産があるんだが」
そう言って、ヒースクリフさんは立ち上がって、ドアの方へ向かっていく。
開かれたドアの向こう、シャボンのような鮮やかな色の波に手を突っ込んで、
「土産だ」
「お、多すぎませんか⁉︎」
大量の紙袋を取り出してきた。
いくつあるんだろう紙袋……両手がギチギチに塞がる程のそれを、ガーデンテーブルの傍まで持ってくる。
置くときに、ズシンと少し地面が揺れたのは気のせいじゃない。
「その、紅茶に合う菓子をと思ったんだが……
店員の勧めを聞いてたら、どれもこれもが美味しそうに見えて」
「そ、そうですか」
それは、なんとも、愛らしい理由で……
しゅんとしているのも、愛らしさに拍車をかけてる。
「食べきれなければ、捨てても構わないから……」
「いえ! 後見人のお兄さんや、バイト先の先輩とも一緒に頂きます!
ありがとうございます!」
一人では確かに消化しきれない量だけど、葵太さんは甘いもの好きだったような気がするし、一緒に暮らす家族の皆さんも食べてくれるはずだ。
バイト先の先輩も同様にお菓子好きだったしと、一緒に食べてくれる人の当てはある。
大丈夫ですよ! と念押しすると、ヒースクリフさんは安堵のため息をついた。
一先ずは持ってきてくれたお菓子で、焼きメレンゲのようなお菓子を開いてみる事にする。
「美味しい……」
さくっと軽い食感の後から、しっとりとしたホワイトチョコが口の中に染み出してくる不思議な心地。
どうやって作っているのか見当もつかないけれども、ともかく紅茶に合う。頬が緩む。
これは、何個でもいけてしまいそう……美味しすぎて危険だ。お菓子の研究もかねて、バイト先にもお裾分けしよう。
反応を見て、またほっとしているヒースクリフさんに気づいて、
「……あっ、こちらも」
お盆の上の紙袋の事を思い出し、ヒースクリフさんへ差し出した。
「ハンカチ、ありがとうございました……」
「あぁそういえば……ん? これは、新品?」
中身を確認していたヒースクリフさんから、思いもよらぬ反応が返ってきて、こちらもえっと返してしまう。
「いや、大分使い古したハンカチだったはずなんだが……
シワやへたれた所が一つもなくなってる上に何だか良い香りが……」
「アイロンをかけただけですよ…!
香りについては、少しサシェと一緒に置いておいたんです。
貸してもらった時、すごく優しい花の香りがしたんですけど、洗濯したら落ちてしまって……
代わりにという感じで」
自分で言ってて、嬉しさや感謝が暴走してしまった感じはある。
気持ち悪かったかな……ちょっと迷惑だったかな……
少し不安になってくると、ヒースクリフさんが突然小さく吹き出して、
「お互い、気合いを入れすぎたな」
可笑しそうに、無邪気に笑った。
「そうですね、お互いに」
空回ってしまった。
一回目のお茶会を挽回するように手を尽くしたが、良くも悪くもやりすぎた。
それでも笑顔を持って迎えられて、くすぐったいけれども心地よい。
私も、釣られて笑ってしまった。
「こんにちは……」
何だか照れくさい……嬉しくもあり、恥ずかしくもあるような、不思議な気持ちだった。
ヒースクリフさんもどことなく同じような感じで、少しはにかんでいた。
(今日は私服なんだ……)
最初に出会った時の鎧はつけておらず、黒のタートルネックにゆったりとしたフード付きの上着、清潔感のあるスラックスにブーツ。
少しファンタジーな感じはするものの、こちらの世界でも充分通じるような格好だ。
それと、前よりクマが薄れてきたように思えるし、肌の血色も良い事にも気付く。
少しは休めたのかなと、ほっとした。
「じゃあ、こちらに……」
気を取り直して、前回と同じようにガーデンテーブルの右側へ案内した。
すぐにお湯が沸いたケトルを取ってきつつ、まずはマグカップにお湯を入れる。
そこにティーバッグを沈めたら、シリコン蓋を置いて2分。
終わったらさっとティーバッグを取り除いて、角砂糖一つとエルダーフラワーをひと垂らし。
ヒースクリフさんはそこへ更に角砂糖を一つ追加する。
「このお茶が、忘れられなくてな」
「気に入っていただけたならよかったです」
美味しく味わってくれている。
ヒースクリフさんは、わかりやすく頬を緩ませてくれていて、見ていてこちらが幸せな気分になってくる。
「そういえば、土産があるんだが」
そう言って、ヒースクリフさんは立ち上がって、ドアの方へ向かっていく。
開かれたドアの向こう、シャボンのような鮮やかな色の波に手を突っ込んで、
「土産だ」
「お、多すぎませんか⁉︎」
大量の紙袋を取り出してきた。
いくつあるんだろう紙袋……両手がギチギチに塞がる程のそれを、ガーデンテーブルの傍まで持ってくる。
置くときに、ズシンと少し地面が揺れたのは気のせいじゃない。
「その、紅茶に合う菓子をと思ったんだが……
店員の勧めを聞いてたら、どれもこれもが美味しそうに見えて」
「そ、そうですか」
それは、なんとも、愛らしい理由で……
しゅんとしているのも、愛らしさに拍車をかけてる。
「食べきれなければ、捨てても構わないから……」
「いえ! 後見人のお兄さんや、バイト先の先輩とも一緒に頂きます!
ありがとうございます!」
一人では確かに消化しきれない量だけど、葵太さんは甘いもの好きだったような気がするし、一緒に暮らす家族の皆さんも食べてくれるはずだ。
バイト先の先輩も同様にお菓子好きだったしと、一緒に食べてくれる人の当てはある。
大丈夫ですよ! と念押しすると、ヒースクリフさんは安堵のため息をついた。
一先ずは持ってきてくれたお菓子で、焼きメレンゲのようなお菓子を開いてみる事にする。
「美味しい……」
さくっと軽い食感の後から、しっとりとしたホワイトチョコが口の中に染み出してくる不思議な心地。
どうやって作っているのか見当もつかないけれども、ともかく紅茶に合う。頬が緩む。
これは、何個でもいけてしまいそう……美味しすぎて危険だ。お菓子の研究もかねて、バイト先にもお裾分けしよう。
反応を見て、またほっとしているヒースクリフさんに気づいて、
「……あっ、こちらも」
お盆の上の紙袋の事を思い出し、ヒースクリフさんへ差し出した。
「ハンカチ、ありがとうございました……」
「あぁそういえば……ん? これは、新品?」
中身を確認していたヒースクリフさんから、思いもよらぬ反応が返ってきて、こちらもえっと返してしまう。
「いや、大分使い古したハンカチだったはずなんだが……
シワやへたれた所が一つもなくなってる上に何だか良い香りが……」
「アイロンをかけただけですよ…!
香りについては、少しサシェと一緒に置いておいたんです。
貸してもらった時、すごく優しい花の香りがしたんですけど、洗濯したら落ちてしまって……
代わりにという感じで」
自分で言ってて、嬉しさや感謝が暴走してしまった感じはある。
気持ち悪かったかな……ちょっと迷惑だったかな……
少し不安になってくると、ヒースクリフさんが突然小さく吹き出して、
「お互い、気合いを入れすぎたな」
可笑しそうに、無邪気に笑った。
「そうですね、お互いに」
空回ってしまった。
一回目のお茶会を挽回するように手を尽くしたが、良くも悪くもやりすぎた。
それでも笑顔を持って迎えられて、くすぐったいけれども心地よい。
私も、釣られて笑ってしまった。
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