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1章 少女と黒騎士の邂逅
閑話1.黒騎士が訪れるまで(中)
しおりを挟む年に一回くらい、気まぐれに夜景をみる時出てた埃まみれのバルコニーが……
瑞々しい緑の葉と、白く小さな花々が息衝く、小さな【庭】に……
……まだ夢を見ているのだろうか。
頭が全く働かない。何がどうなって、こうなった?
「やぁやぁ、ヒース君。
持ち帰り仕事するなって言ってんのに、ちゃっかり持ち帰っちゃってるしさー……
本当君ってば真面目で意地っ張りなんだから」
呆然としていると、土まみれの上司が爽やかな笑顔で庭から出てきた。
「持ち帰りについては、申し訳ありません……
ですが、その、え? 庭? これは夢ですか」
「現実ー! 深い事は考えず、ちょっとこっちおいで」
言われるまま庭の前まで来たが、草木は本物のようだった。
一呼吸置いて、段々と冷静になってくる。
何でこの人は堂々と不法侵入してるんだ。どうして無断で庭作ってるんだ。
その他、色んなツッコミが湧き上がってくるが、何とか言葉を飲み込んだ。
「本当にやばくなったら、ここを開いてみるといいよ」
エドワール様が指を鳴らすと、庭の中央にドアがゆっくりと生えてきた。
庭の草木がそのまま形を変えたような緑色をして、金色で花の形をしたドアノブが美しい。
「このドアの向こう。
君の息抜きに使うといい。
きっと、君の辛さを和らげる事ができるから」
「はぁ……」
「あ、信じてないだろ」
正直、半信半疑だった。
今はどうしようもならないこの状況を、どうやって和らげるというのだろう。
「このドアはね、別の世界に繋がってる。
この世界のどこの国でもない。本当に別の世界だ。
【並行して存在して、本来なら交わることが絶対にない世界】っていう感じ」
交わることがないと言っておきながら、ドア一つ隔てて繋がっているという事。
つまりは、この扉で世界の次元を飛び越えるとような……
どんなに凄まじい魔法が使えども実現が不可能なような、伝説の生物や神話の神がやるような事を……
「……それは、とんでもない物なのでは?」
「うん!」
(元気なお返事……)
「一応王サマの所有物だから、大事にしてね!」
「は!?」
陛下の所有物をここに備え付けられた⁉︎
素の声が出てしまった。
「それ、は、更にとんでもない……いえ、まずいのでは」
「あ、いいのいいの。何枚かあるのを僕が借りてたやつだから」
それは、また貸しというものでは?
それは、ダメなのでは?
「僕が使っていたんだけど、ちょっと事情あってしばらく使えないし……」
そう言いながら、エドワール様は寂しげな顔をした。
「今、これが一番必要なのは、君だから。
何が何でも渡しておきたかったんだ」
「エドワール様」
「君みたいな優秀な子が過労死するとね、僕の仕事も増えるから!
頼むよぉ?」
ずけずけしく、とても正直だ。しかしそれは不思議な心地さがある。
この人の、差別や偏見はお構いなしに、使えるものは何であれ使うというスタンスはとても好ましい。
使うためなら精一杯の情を注ぎ、やり方は自由奔放かつ大雑把だがしっかり労ってくれる事も。
この一面だけでもエドワール様の部下で本当によかったと思う。
「わ、わかりました。頂いておきます」
「うん……向こうの子に会ったらよろしくね」
エドワール様は満足そうに笑んで、最後にこっそりとそう呟かれて、俺が質問する前に部屋から出て行った。
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