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1章 少女と黒騎士の邂逅
11.素敵な次の約束
しおりを挟む「本当、おかげさまで、とても楽になりました……」
日は暮れきって、庭の照明が自動でついた頃、やっと涙が止まった。
泣き腫れてしまった顔はちょっと恥ずかしいけれども、私はヒースクリフさんに深々と頭を下げた。
「それはよかった」
すると、ヒースクリフさんは照れ臭そうに微笑む。
紅茶と焼き菓子を頬張って、何も言わずそこにいてくれた。
あなたの話は私が聞きますなんて偉そうな事を言ってしまったけれども、
(うぅ……次の機会、次いつになるかわからないんだけど……
ハンカチを洗って返したいなぁ)
本当にろくなおもてなしもできず、ただ嗚咽を聞かせるはめになってしまった。
今はおかげさまで、とてもスッキリとした気分でいる。
泣きたい気持ちはまだやってくるかもしれないけど、きっと正しく飲み込んでいける。
(それと、その時に話してもらえるなら、ヒースクリフさんのお話を聞くんだ……
ちゃんと楽しいお茶会をするんだ)
そう、決心を固めていたところで、
「……その、次はいつ来てもいい?」
「え?」
ピンポイントで聞きたい事を逆に尋ねられてしまった。
思わずまぬけな返事をしてしまったけれども、慌てて取り繕う。
「えっと、来週の土曜日とか、おやつ時なら……?」
心も、本来の予定としても余裕があって、大丈夫な時間を素直に伝える。
土曜日とかの曜日で説明して、別の世界の人にも伝わるんだろうかと不安になったけれども、
「土曜日だな、わかった。大体15時くらいにお邪魔しよう」
通じた。よかった。
別の世界も、おんなじような曜日の数え方なのかな。
ふんわりとした疑問は浮かんだけれど、それがすぐに吹き飛ぶくらい次の約束に安堵した。
ヒースクリフさんを見ると、彼も同じような顔をしていて、
「いや、すまない。
ここだと、とても気分が安らぐんだ。
それと、その、お茶が美味しくてだな……」
気恥ずかしそうにしている姿は、やっぱりちょっと可愛らしい。
「いくらでも淹れますよ。
お菓子も、どんなものがいいとかあれば」
「……! 今日のような焼き菓子があれば嬉しい」
何となく察していたけれども、甘いものが好きみたいだった。
用意した焼き菓子を綺麗に食べきってくれているし、今もお菓子という単語に顔が華やいでいる。
「じゃあ、今度は腕によりをかけて作ったものを」
「作れるのか⁉︎」
切長の瞳を見開きながら、嬉しそうにしてくれている。
あぁ、なんて、
「楽しみにしててください」
「私の方も何か、お茶に合いそうなこちらの世界の菓子を持ってこよう」
「すごく楽しみです!」
素敵な次の約束だろう。
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