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1章 少女と黒騎士の邂逅
6.はじめてのおもてなし
しおりを挟むヒースクリフ・クロム。
ヒースクリフさん。
ゆっくりと、自分に覚えさせるように小さく繰り返す。
お名前は、どこどなくヨーロッパを思わせるような感じだ。
手を差し伸べられて、恐る恐るそれに応えれば、
「わっ」
腕が痛まない程の力で、すっと立ち上がらせてくれた。
すごく、一つ一つの所作が綺麗。
物語を読んで思い浮かべるような騎士様に、ふわりと姿が重なるようだった。
「あ、の、わ、わたしは、加賀美イオリです。専門学生です」
「む……人間の、学生か」
「はい、あの、人間です」
なんの話をしているんだろう……いや、相手が名乗ったから精一杯名乗り返しただけなんだけれども。
自分のことを人間だと名乗ったのは初めてだ。
「えっとあなたは……【お客さん】?」
「そう、だな。
まさか、本当に別の世界の庭に繋がっているとは思わなかった」
聞いた事もない名前の国の黒い騎士様。
それでも、私がおばあちゃんから聞いていたような話が伝わっていたみたいだ。
「上司から、きっと息抜きになるからと勧められてな」
「息抜き……」
なるほど、向こうでもこのドアの事は一応知られているらしい。
目を伏せたヒースクリフさんは、とても疲れているように見えた。
(隈も、血色悪い感じなのも、ちゃんと休めてないからかな……?)
ここで色々な事に合点が入ってしまった。
恐怖の一端を担う要素は、凄まじい疲労が原因かと。
悩みがあるのか、仕事が忙しいのかはわからないけれども、何だか根が深そうだとは察した。
相談するだけなら、ここの存在を教えてくれた上司さんでもいいはずだ。
友人や家族がいれば、それでも事足りる。
でも、それができないから、よくわからない未知のドアを開いた。
息抜きを求めた。
「じゃ、じゃあひとまず、お茶でもいかがですか?」
「あ、あぁ……」
折角訪ねて来てくれたのだから、気を取り直しておもてなしをしよう。
申し出れば、ぎこちないながらも応じてくれた。
二人とも様々な事が重なって、しどろもどろだ。
二人とも、気晴らしが必要だ。
ヒースクリフさんへの恐ろしさは、大分和らいでいた。
まずは、ガーデンテーブルへ案内する。
お菓子はバイトの賄いでもらった焼き菓子があるからそれを出して、紅茶はいつものものでいいかな。
そんな事を考えながら、
「どうぞこちらに」
ヒースクリフさんに右側の席を促した。
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