マリーゴールドガーデンで待ち合わせ 〜穏やか少女と黒騎士の不思議なお茶会

符多芳年

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1章 少女と黒騎士の邂逅

3.瞼の暗がりへ沈む

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 家についてすぐに、おばあちゃんの部屋に祭壇を整えて、予定を確認する。
 そうしてともかく慌ただしくしている内に、夕方になってしまった。

 悲しいことや苦しいことを考えずにいられた分、少しだけ心が軽くなった気がするから、かえって良かったのかもしれない。


「大丈夫……じゃないよな」

「でも、ここでしょげてたらダメだと思うので……
 少し一人で考えてみようと思います」

 葵太さんが眉をハの字にしながら尋ねてくる。
 もう充分すぎる程助けてもらっているのにと思いながらも、気持ちは素直に嬉しいし心強い。


「偉いな。西澤家が何かしてきたら、真っ先に連絡してくれ。通報が先でもいいから」

「ありがとうございます」

 本当に心配そうな顔をしていて、こちらが困った笑顔になってしまった。
 少し気持ちを落ち着かせたら、今後の話について連絡しますと伝えて、車で走り去っていくのを見送る。

 自分がやってる花屋さんの仕事が沢山あるだろうに、式のお花も格安で卸してくれて、お供えの花までおまけしてくれた。

(がんばらなきゃ……)

 祭壇の前に戻り、エルダーフラワーと一緒に飾られた白い菊を眺めて決意した。
 助けてもらった分しっかりやれるよ、大丈夫だと証明するように、気丈に振る舞わないと。

(そうすれば、叔母も簡単には……)

 叔母も、多少は私に近よりづらくなる。
 幸いにも叔母は、あの後すぐに家族を引き連れて帰ったそうだ。
 でも今後少ししたら、こちらが弱っているのに容赦無く付け込んで、話をゴリ押してくる事はあるだろうなと、暗い気分になる。

 寝室にいるとおばあちゃんの残り香と花の香りのせいか、忙しくて忘れていた感情の波が段々と戻ってきた。
 深く香りを吸い込めば吸い込むほど、堰き止めていたものが出てくる。

 大好きなおばあちゃんが、本当に居なくなってしまったんだという悲しみ。
 天涯孤独寸前となった今の状態への不安。

 そして、


(叔母に強く言い返せない私が……とても嫌い)


 あの場に葵太さんがいなければ、私はただただ萎縮して、何もできなくなっていた。

(大事な思い出が詰まった大事な家なんです)
(私が引き継いだ家なんです。だから……)

 言えなかった言葉が、押さえつけられていた言葉が、頭の中で響いて頭痛がする。
 そのままおばあちゃんのベッドに横たわって、祭壇の写真を見た。

 白髪が綺麗で、背筋がしゃんと伸びていて、ふわりと笑っているおばあちゃん。
 素敵なことを沢山教えてくれたおばあちゃん。

 その思い出を、大切な宝物を、


「踏み躙ろうとしないで……」


 涙が溢れてきそうな目を閉じれば、すぐに眠気がやってきた。 
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