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3章:私だけのガラスの靴
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「招かれざる客かい?」
「うーん……微妙です。
ですが、幸人さんは特に隠れておいた方がよろしいと、何となく」
「えっ」
「……わかった。
こういう時の今理ちゃんには従っておいた方がいいからね。
ほら、幸人行くよ。ベリルはサングラス着けて荷物もって」
「わかったよぉ」
事の重大さを速やかに理解した猿投山とベリルが率先して行動をはじめ、幸人は訳が分からないながら追従する。
店の奥、パーテーションと本棚に囲まれた小会議用のソファ席へ移動し、息をひそめた。
パーテーションは魔道具であり、コソコソ話であればこの席での会話や気配を外へ漏らさない。
本来ここは魔道具倉庫のやり取りであったり、一般客がいる時に魔道具を使う時の席だが、今回のように隠れて何かをやり過ごす時にも重宝する。
「今理ちゃんはね、こういう勘が鋭いんだよぉ」
おろおろとする幸人へ、ベリルがそっと耳打ちすると、猿投山が辛辣に舌打ちした。
「ベリルよぉ」
「なんでぇ? 彼は知ってるんじゃないの?」
「まだ今理ちゃんは伝えてない。伝えあぐねてる」
「あぁ……それはごめん。とりあえずはそういう事で……ここは一つ」
「はぁ」
確かに本人が何か理由あって伝えてない事なら、他人からは教えない方が良い。
詳細はわからなかったが、これも今理の魔女としての力の一旦なのだろうとは理解できた。
今はそれで充分で、そういうものだと思っておくしかない。
ガタンと出入口のドアが開かれたところで、三人に緊張感が走る。
(あ、の、人は……)
現れた人物はまた知っている人物だったが、背中から冷や汗がぶわっと吹き出てくるのを感じる。息が苦しくて、すぐにでもこの場から逃げ出したい。それか、何とか隠れてやり過ごしたい。
できれば、もう暫くは会いたくなかった人物だ。
腰まで伸びたくせっ毛交じりな黒髪に、大きく丸い黒の瞳。可愛らしい顔は血色こそ良いが浮かない表情を浮かべ、視線はうろうろと泳いでいる。
細身で小さく、シンプルな柄のワンピースを着ていて、弱弱しい小動物のような印象を受ける女性。
(宇津川先生、何故ここに……?)
その人物こそ、まだ癒えきっていない幸人のトラウマ。
幸人の前担当作家、宇津川成美だった。
「うーん……微妙です。
ですが、幸人さんは特に隠れておいた方がよろしいと、何となく」
「えっ」
「……わかった。
こういう時の今理ちゃんには従っておいた方がいいからね。
ほら、幸人行くよ。ベリルはサングラス着けて荷物もって」
「わかったよぉ」
事の重大さを速やかに理解した猿投山とベリルが率先して行動をはじめ、幸人は訳が分からないながら追従する。
店の奥、パーテーションと本棚に囲まれた小会議用のソファ席へ移動し、息をひそめた。
パーテーションは魔道具であり、コソコソ話であればこの席での会話や気配を外へ漏らさない。
本来ここは魔道具倉庫のやり取りであったり、一般客がいる時に魔道具を使う時の席だが、今回のように隠れて何かをやり過ごす時にも重宝する。
「今理ちゃんはね、こういう勘が鋭いんだよぉ」
おろおろとする幸人へ、ベリルがそっと耳打ちすると、猿投山が辛辣に舌打ちした。
「ベリルよぉ」
「なんでぇ? 彼は知ってるんじゃないの?」
「まだ今理ちゃんは伝えてない。伝えあぐねてる」
「あぁ……それはごめん。とりあえずはそういう事で……ここは一つ」
「はぁ」
確かに本人が何か理由あって伝えてない事なら、他人からは教えない方が良い。
詳細はわからなかったが、これも今理の魔女としての力の一旦なのだろうとは理解できた。
今はそれで充分で、そういうものだと思っておくしかない。
ガタンと出入口のドアが開かれたところで、三人に緊張感が走る。
(あ、の、人は……)
現れた人物はまた知っている人物だったが、背中から冷や汗がぶわっと吹き出てくるのを感じる。息が苦しくて、すぐにでもこの場から逃げ出したい。それか、何とか隠れてやり過ごしたい。
できれば、もう暫くは会いたくなかった人物だ。
腰まで伸びたくせっ毛交じりな黒髪に、大きく丸い黒の瞳。可愛らしい顔は血色こそ良いが浮かない表情を浮かべ、視線はうろうろと泳いでいる。
細身で小さく、シンプルな柄のワンピースを着ていて、弱弱しい小動物のような印象を受ける女性。
(宇津川先生、何故ここに……?)
その人物こそ、まだ癒えきっていない幸人のトラウマ。
幸人の前担当作家、宇津川成美だった。
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