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3章:私だけのガラスの靴
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見かけによらない緩い口調、甘さのある低い声。
そして挨拶でサングラスが外された瞬間、彼の魅力が一気に解放されたかのような、そんな心地を覚えた。
欧州の血が入っているのだろうとわかる堀の深い美しい顔、新緑の瞳。そして、お茶の間の心をわしづかみにしてきた柔和な微笑み。
「……ナインバリーが九谷、いや久谷……あっえっ」
「ベリルは、陽の色から連想できる物からつけたんだ。
新しい担当さん、はじめまして。僕がベリルです。
本名、久谷陽太郎名義で役者をやっています」
「しゅ、主演の方じゃないですか⁉」
知っているも何も、物凄く忙しかった二週間の間、一度顔を合わせていた。
今度ドラマ化する猿投山の作品【信楽警部のお取り寄せ事件簿】の主演俳優こそ、久谷陽太郎であり、ベリルだった。
「言っとくけど、アタシは最初から共有しようとしたよ?
念のためってコイツに口止めされたんだ」
への字口で深いため息をつく猿投山は、嘘をついているように見えなかった。
(そうは言うけど、仕方ない事のような)
幸人としては、久谷陽太朗の人気を考えると妥当な対応だったと考える。
映画、ドラマ、CMの何かしらで久谷陽太郎を見ない日はない。
容姿端麗で演技力も若手の中で飛びぬけている。謙虚で穏やか、関係者の誰に対してもリスペクトを忘れない。
業界内外問わずとんでもない人気者だ。
それ故に、後ろめたい事の一つや二つ暴いてやりたいと、スキャンダルを狙う記者やその内通者が絶えない。
事前資料でその事を知った幸人は、想像以上の厄介さと大変さに息を飲んだ記憶がある。
「ま、だからここではペンネームのベリルの方で呼んでやってくれ」
「は、はい」
今時、同性同士の付き合いへ理解が広まってきたものの、それでもまだまだ奇異の目が付きまとう。
猿投山との関係を平和に、ともかく永く続けたい。そのために不用意な干渉をなるべく避けたいという意向と、
「あと、とっても下らねぇけど、アタシが若い燕と仲良くしてるのが気に食わなかったらしいのさ。
なぁバカ者」
「ご、ごめんねぇ……」
「いえいえ……」
単純に嫉妬して、意地悪のつもりで口止めしたらしい。
ズーズー・ア・ゴーゴーの件もそうだが、妙に子供っぽく感情に振り回されて余裕のない判断をしてしまう事があるようだ。
それもこれも猿投山の事を好きすぎるが故。憎めないお人柄だなぁと、幸人はゆるく受け止めておいた。
そして挨拶でサングラスが外された瞬間、彼の魅力が一気に解放されたかのような、そんな心地を覚えた。
欧州の血が入っているのだろうとわかる堀の深い美しい顔、新緑の瞳。そして、お茶の間の心をわしづかみにしてきた柔和な微笑み。
「……ナインバリーが九谷、いや久谷……あっえっ」
「ベリルは、陽の色から連想できる物からつけたんだ。
新しい担当さん、はじめまして。僕がベリルです。
本名、久谷陽太郎名義で役者をやっています」
「しゅ、主演の方じゃないですか⁉」
知っているも何も、物凄く忙しかった二週間の間、一度顔を合わせていた。
今度ドラマ化する猿投山の作品【信楽警部のお取り寄せ事件簿】の主演俳優こそ、久谷陽太郎であり、ベリルだった。
「言っとくけど、アタシは最初から共有しようとしたよ?
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への字口で深いため息をつく猿投山は、嘘をついているように見えなかった。
(そうは言うけど、仕方ない事のような)
幸人としては、久谷陽太朗の人気を考えると妥当な対応だったと考える。
映画、ドラマ、CMの何かしらで久谷陽太郎を見ない日はない。
容姿端麗で演技力も若手の中で飛びぬけている。謙虚で穏やか、関係者の誰に対してもリスペクトを忘れない。
業界内外問わずとんでもない人気者だ。
それ故に、後ろめたい事の一つや二つ暴いてやりたいと、スキャンダルを狙う記者やその内通者が絶えない。
事前資料でその事を知った幸人は、想像以上の厄介さと大変さに息を飲んだ記憶がある。
「ま、だからここではペンネームのベリルの方で呼んでやってくれ」
「は、はい」
今時、同性同士の付き合いへ理解が広まってきたものの、それでもまだまだ奇異の目が付きまとう。
猿投山との関係を平和に、ともかく永く続けたい。そのために不用意な干渉をなるべく避けたいという意向と、
「あと、とっても下らねぇけど、アタシが若い燕と仲良くしてるのが気に食わなかったらしいのさ。
なぁバカ者」
「ご、ごめんねぇ……」
「いえいえ……」
単純に嫉妬して、意地悪のつもりで口止めしたらしい。
ズーズー・ア・ゴーゴーの件もそうだが、妙に子供っぽく感情に振り回されて余裕のない判断をしてしまう事があるようだ。
それもこれも猿投山の事を好きすぎるが故。憎めないお人柄だなぁと、幸人はゆるく受け止めておいた。
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