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2章:ズーズー・ア・ゴーゴー
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「先程のモジャ子は戦うために描いたものではなかったので……」
意気揚々と鉛筆を走らせるが、やはりモジャ子の血を感じさせるような、何とも言い難い動物を生成しだしていた。
微笑ましいなと見守っていたが、今理の袖口にシロが軽く嚙みついたのを幸人は見逃さなかった。
そして、
「ニャニャッ」
「んわっ⁉」
突如シロに予想外の力で袖を引っ張られてしまい、今理は椅子から転げ落ちそうになってしまった。
衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた今理だったが、床に打ち付けられる事はなく、
「大丈夫ですか⁉」
暖かな人肌の感触がした。
目を開けてみれば、間一髪で幸人が受け止めてくれていた。
(わ、うわーっ⁉)
反射的に掴んでしまった筋肉質な腕、ふわりと鼻腔をくすぐる制汗剤の爽やかな香り、見た目よりもずっと逞しい胸板。
突然の異性との触れ合いに今理の頭は沸騰しかけていたが、
(うわあああ)
幸人も同様だった。
心配以外の感情を出さないよう必死に堪えていた所だった。
── 絵の動物たちは、描き手の感情や、やりたい事が反映された行動をとるんですよ。
先程の今理の説明が脳裏をよぎり、シロを見やれば「ニャンッ」と得意げに鳴いた。
描いた時、煩悩まみれな感情など抱いていなかった。ただ純粋に、魔道具の効果にワクワクしながら描いていたはずだった。
しかし、反映されたのは、幸人の心の隅にひっそりと芽生えていた物だった。
(近づきたいとは……またカフェに行きたいとは思っていたが……!)
まさか、物理的な距離感の事と解釈されるとは思わなかった。
嬉しくないわけではないが、方向性が違う。
「……ナ、ナイスキャッチありがとうございます」
「……ダイジョブナラナニヨリデス」
密着はやはり気恥ずかしかったと、今理の顔は真っ赤だった。
さっと立ち上がらせて、改めて距離を取り、
(や、よくないぞこういうの、忘れろ忘れろ……!)
幸人はときめきと、やましい気持ちでいっぱいになってしまった。
どこかに頭を打ち付けて記憶を消したい。この出来事が有耶無耶になるまで消え去りたい。おろおろとそんな事を考えはじめてもいた。
「にゃにゃ」
「……お前、悪戯がすぎるぞ」
「にゃー?」
「かわいい……許しちゃう」
「今理さん……」
今理は自分の説明した事を忘れているのか、シロの猫らしい悪戯だと思っているようだ。
実際はそうではないが、幸人としては伝えられない。
シロはご満悦な様子でしっぽを揺らして、
「にゃむーっ」
「わぁっ⁉」
もう一度、今理の袖を引っ張り、今度は背中から転ばせてしまった。
意気揚々と鉛筆を走らせるが、やはりモジャ子の血を感じさせるような、何とも言い難い動物を生成しだしていた。
微笑ましいなと見守っていたが、今理の袖口にシロが軽く嚙みついたのを幸人は見逃さなかった。
そして、
「ニャニャッ」
「んわっ⁉」
突如シロに予想外の力で袖を引っ張られてしまい、今理は椅子から転げ落ちそうになってしまった。
衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた今理だったが、床に打ち付けられる事はなく、
「大丈夫ですか⁉」
暖かな人肌の感触がした。
目を開けてみれば、間一髪で幸人が受け止めてくれていた。
(わ、うわーっ⁉)
反射的に掴んでしまった筋肉質な腕、ふわりと鼻腔をくすぐる制汗剤の爽やかな香り、見た目よりもずっと逞しい胸板。
突然の異性との触れ合いに今理の頭は沸騰しかけていたが、
(うわあああ)
幸人も同様だった。
心配以外の感情を出さないよう必死に堪えていた所だった。
── 絵の動物たちは、描き手の感情や、やりたい事が反映された行動をとるんですよ。
先程の今理の説明が脳裏をよぎり、シロを見やれば「ニャンッ」と得意げに鳴いた。
描いた時、煩悩まみれな感情など抱いていなかった。ただ純粋に、魔道具の効果にワクワクしながら描いていたはずだった。
しかし、反映されたのは、幸人の心の隅にひっそりと芽生えていた物だった。
(近づきたいとは……またカフェに行きたいとは思っていたが……!)
まさか、物理的な距離感の事と解釈されるとは思わなかった。
嬉しくないわけではないが、方向性が違う。
「……ナ、ナイスキャッチありがとうございます」
「……ダイジョブナラナニヨリデス」
密着はやはり気恥ずかしかったと、今理の顔は真っ赤だった。
さっと立ち上がらせて、改めて距離を取り、
(や、よくないぞこういうの、忘れろ忘れろ……!)
幸人はときめきと、やましい気持ちでいっぱいになってしまった。
どこかに頭を打ち付けて記憶を消したい。この出来事が有耶無耶になるまで消え去りたい。おろおろとそんな事を考えはじめてもいた。
「にゃにゃ」
「……お前、悪戯がすぎるぞ」
「にゃー?」
「かわいい……許しちゃう」
「今理さん……」
今理は自分の説明した事を忘れているのか、シロの猫らしい悪戯だと思っているようだ。
実際はそうではないが、幸人としては伝えられない。
シロはご満悦な様子でしっぽを揺らして、
「にゃむーっ」
「わぁっ⁉」
もう一度、今理の袖を引っ張り、今度は背中から転ばせてしまった。
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